第16話 噛ませ令息、求婚される






 魔王を生け捕りにし、俺は何事もなくアーベント王国へ帰還した。


 待っていたのは民衆からの大歓声。


 王都へ迫っていた十万の魔物は俺の支援魔法を受けた騎士たちが正面から打ち砕いたらしい。


 主人公はいくら待っても目を覚まさず、結局魔王にはトドメを刺せていないため、魔物たちの強さはかなりのものだったはず。


 にも関わらず全ての魔物を倒したのは驚きだ。


 被害も殆ど出なかったそうで、一度目の防衛戦よりも死者は少なかったらしい。

 俺の支援魔法のお陰だと言われて悪くない気分だった。


 そして、王国に帰還した夜。


 王都では盛大という言葉では生ぬるい大規模なパーティーが開かれた。



「つ、疲れた……」



 俺は王城のテラスでぐったりしていた。


 というのも、今回の戦争に参加しなかった各地方の領主たちがご機嫌取りに話しかけてきたのだ。


 王様の援軍要請を無視した以上、どのような罰則が待っていても不思議ではない。

 領地の没収、下手したら爵位の格下げも有り得るだろうから皆必死なのだ。



「お、お疲れ様です、シュトラウス様」


「ん? あ、王女殿下。そのドレス、よくお似合いですね」


「あぅ、あ、ありがとうございます」


「……?」



 テラスにアウロラがやってきた。


 綺麗な紺色のドレスを身にまとっており、本当によく似合っている。


 そして、何故か頬が赤い。


 俺の方をちらちらと見ては目が合い、ビクッとして視線を逸らされてしまう。


 まさかとは思うが、勇者が人質となっているにも関わらず魔王に攻撃を仕掛けたことがバレてしまったのだろうか。


 ゲームだと魔王討伐後にアウロラは勇者と結婚するからなあ。


 と、考えていた時。



「あの、シュトラウス様には、婚約者はいないのですよね?」


「うん? ええ、いないですよ」


「では、その、もし、もしですよ? わ、私が、その婚約者に立候補したいと、そう言ったら迷惑でしょうか?」



 一瞬何を言われているのか分からず、硬直してしまった。


 え? 俺の聞き間違いか?



「ええと、それはどういう……?」


「そ、その、じ、自分でも、不思議と言いますか、えっと、助けられた時に、好きに、なって、しまったようです……」


「俺のことを?」


「は、はい」



 ……まじですかい。



「そ、それは嬉しい申し出ですが、勇者のことはいいんですか?」


「え? 勇者様、ですか? ええと、はい。たしかに魔王を討伐したら婚約するという話はありましたが……」



 勇者の話を振っても目を瞬かせるアウロラ。


 どう見ても脈なしというか、シナリオのアウロラとは違う。


 完全にストーリーから逸脱したな……。


 まあ、アウロラは美人だし、おっぱい大きいし、向こうが惚れているならわざわざ断る理由もないだろう。


 それに王女と結婚したら俺が次の王様になれるかも知れない。


 俺は権力とお金が大好きなのだ。



「……分かりました、王女殿下。いえ、アウロラ様。そのご婚約、是非――」


「ちょーっとお待ちくださいまし!!」


「え? ナ、ナザリー!?」



 テラスに胸元を大きく露出させた、深緑色のドレスをまとったナザリーが突撃してきた。


 アウロラが驚いている。



「ずるいですわ、アウロラ様!! わたくしを差し置いてシュトラウス様に婚約を申し込むなど!! わたくしもシュトラウス様のお嫁さんになりたいですわ!!」


「え?」


「シュトラウス様!! わたくしとも結婚してくださいまし!!」


「ええと、それはまた何故……?」


「そ、それは、その……よく分かりませんわ。ただシュトラウス様のことを考えると、胸が苦しくなって、頬が熱くなって……」



 ナザリーが恥ずかしそうに顔を耳まで真っ赤にしながら言う。


 めっちゃ可愛い。


 しかし、これは困ったぞ。王国の法律では基本的に一夫一妻だ。


 王様が認めたらその限りではないらしいが……。



「ちょっと待ってもらおうか、ナザリー嬢とアウロラ王女殿下」


「あ、貴女は……」


「まあ!! アルト騎士団長!!」



 そこに姿を現したのは、共に戦った女騎士団長アルトだった。

 ドレス姿ではなく、男装の麗人という言葉が似合うタキシードを着ている。



「シュトラウス殿、戦いが終わったら私と結婚してくれると約束したではないか。早速浮気とは、私は悲しいぞ」


「え? いや、約束はしてないですけど、あれ本気だったんですか?」


「む。あれでも一世一代の告白だったのだぞ? 酷いではないか」


「あ、ええと、それは……」



 三人の美女に迫られる状況。


 俺はテラスの端に追い詰められてしまい、逃げ場を失った。



「シュトラウス様!!」


「誰を選びますの!?」


「ふふ、早く決めたまえ」



 と、その時だった。



「ん。主様は私のもの。泥棒猫たちには渡さない」


「アリル!?」



 屋根の上から獣人の美女がテラスに降り立った。


 漆黒のドレスが美しく、スタイルのいいアリルによく似合う。


 た、助かった!! と思ったのだが。



「でも正妻の座を私に譲るなら、私は貴女たちに味方する」



 助かってなかった!!


 アウロラたちは渋々ながらもアリルの要求を呑み、四人で俺に迫ってきた。


 俺のレベルはかなり高いが、この四人もかなりレベルが高い。

 ましてやただの噛ませでしかない俺とヒロイン四人では基本スペックに差がある。


 これは逃げられない!! こうなったら……。



「ま、待ってくれ皆!! 気持ちは嬉しいが、王国の法律では一夫多妻は禁止で――」


「あ、そこはご心配なく」


「え? ど、どういう意味です、アウロラ様?」


「お父様から、シュトラウス様は特別に複数人の妻を娶れる許可をもらいましたので」


「!?」



 もう許可貰ってんの!?



「それよりも、言質は取りましたわ」


「ああ。私たちの気持ちが嬉しい、とな」


「ん。私たちも主様が好き。主様も私たちが好き。これはもう結婚して赤ちゃん作るしかない」



 その後、俺は抵抗することも叶わず、四人に拐われてしまった。

 アウロラの寝室に連れ込まれ、婚前交渉に及んでしまった。


 それはもう、濃密な時間だった。



「シュトラウス様……いえ、旦那様♡ 愛しています♡」


「わたくしもお慕いしておりますわ♡」


「ふふ、私も二人に負けないくらい、君を愛しているよ♡」


「ん♡ 主様、大好き♡」



 その時、俺の中の理性が消失した。


 ここまでアピールされて応えないのは男として失格だろう。


 悪いな、勇者。


 お前と結ばれるはずだったヒロインたちは全員、俺の嫁にさせてもらうぞ。


 そんな心の中の謝罪が届いたのだろうか。


 翌日、意識を取り戻した勇者は俺とアウロラたちの婚約を知って怒り狂い、俺に向かって叫び散らした。



「アウロラやナザリーがお前と結婚するなんて有り得ない!! きっと何か外法を使ったんだ!! 僕と決闘しろ!!」



 その姿は勇者らしくなかった。


 相手にする必要はないと思って無視しようとしたら、アリルが無表情のまま口を開いた。



「ん。主様が出るまでもない。私がやる」



 そう言ってアリルが決闘を承諾。


 その結果は言うまでもなく、アリルの完全勝利で終わった。


 妻が怪我でもしたら嫌で支援魔法を全部掛けたのだが、必要なかったと思えるくらいにはアリルの圧勝だった。


 まあ、冷静に考えてみたら魔王に負けちゃう勇者じゃ勝てないわな。


 それよりも勇者に対して冷ややかな目を向けているアウロラやナザリー、アルトがちょっぴり怖かった。







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「決闘の描写すらない勇者くんカワイソス」


シュ「描いた本人が何を言う」



「王女ちゃんかわいい」「アリルが裏切ってて草」「勇者、堕ちるとこまで堕ちてるなあ」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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