第15話 噛ませ令息、王女と勇者を救出する






 魔王城。


 そこは魔王が住まう城であり、周囲の森は凶悪な魔物たちが蔓延る領域だ。


 その森の中をカタストロ兵五百、王国騎士団五百の計千人から成る軍隊が凄まじい速度で進撃している。



「ははは!! まさか私の愛馬にまで支援魔法をかけられるとはな!!」



 俺と今回パーティーを組んだアルトが楽しそうに馬を駆っている。


 そして、その横を忍者走りで並走するアリル。



「ア、アリルはとても速いのですわね」


「まあ、スピードファイターだからなあ。ゲームでも最後まで育成したら素早さ特化で絶対に先制取れるキャラだったし」


「げぇむ? シュトラウス様、何の話ですの?」


「あ、いや、何でもない。ナザリー嬢は俺にしっかり捕まっていてくれ」


「あっ♡ は、はひっ♡」



 ナザリーが馬から振り落とされないよう、ギュッと俺に抱き着いてきた。


 おうふ、おっぱいが背中に当たってやがる。


 と、俺がナザリーのおっぱいの感触を静かに楽しんでいると、アルトが唇を尖らせた。


 隣を並走するアリルもジト目だ。



「な、なんだ、二人とも?」


「いや? ただシュトラウス殿がだらしなく鼻の下を伸ばしているなあ、と」


「ん。主様はむっつりスケベ。でもそこがかわいい。犯したい。赤ちゃん生みたい」


「……ふむ、その時は私も協力しよう。彼の子供はさぞ勇敢だろうな」


「まじで何の話してんだお前らは!!」



 そうこう話してるうちに俺たちは森を抜け、魔王城に到着した。

 道中に遭遇した魔物は先行していたカタストロ兵が軒並み蹴散らしてしまったらしい。


 うちの兵士はすごいなあ。


 とはいえ魔王城にも城壁はあり、こちらの侵入を阻んでいる。



「ん。一斉砲撃で城門を破壊」



 しかし、ぶっちゃけ俺たちには関係なかった。


 少し遅れてやってきたカタストロ兵が大砲を引っ張ってきたため、容易く城門を破壊。

 俺たちは雪崩れ込むように一斉に魔王城へ突撃した。



「アリルとアルトは全軍を率いて城内の魔物を殲滅!! 手の空いている者は俺と一緒に捕まっている勇者と第一王女を救出だ!!」


「「「「おー!!」」」」


「シュ、シュトラウス様、わたくしはどうすれば!?」


「ナザリー嬢は俺と一緒!!」



 城内で馬を走らせ、ゲーム知識を頼りに勇者と王女が捕まっているであろう地下牢まで最短距離で向かう。


 地下牢に辿り着くと、そこは鼻を突くような腐った匂いで満ちていた。


 ナザリーや兵士たちと手分けして探索する。



「ん? あ、いた」



 奥の方の牢屋の中に第一王女ことアウロラの姿があった。

 淡い水色の髪は少し乱れているが、目立った外傷はなさそうだ。


 問題はその格好だろう。


 装備を全て没収されたのか、一糸まとわぬ姿で鎖に繋がれていた。


 アウロラと目が合う。



「あ、貴方は……」


「救出に来ました、王女殿下」



 俺は鎖を破壊し、自分の羽織っていた外套を脱いでアウロラの裸を隠すように着せる。


 すると、何かが決壊したのだろう。


 アウロラは俺に抱き着いてきて、大粒の涙を流し始めた。



「わ、私、もう、ダメかと思って、明日、処刑するって言われて……」


「あ、明日? あっぶねー。間に合ってよかったです」


「ぐすっ、うぅ」


「え、あ、ちょ!! 泣かないでください!! もう大丈夫ですから!!」


「うあっ」



 それからしばらくアウロラは泣き続けた。


 そりゃまあ、アウロラだって十八歳。前世なら成人したばかりの子供だ。


 明日処刑とか怖かったに決まっている。


 俺はアウロラを安心させるよう、軽く頭を撫でてやった。



「王女殿下を酷い目に合わせた魔王は俺がぶっ殺すので、安心してください」


「あ……♡」



 と、何故か咄嗟に俺から距離を取って顔を真っ赤にしているアウロラ。


 流石に頭を撫でるのは失礼だったか。


 ちょうどその時、他の牢屋を見て回っていたナザリーがやってきた。



「シュトラウス様!! 勇者様のお姿がどこにもありませんわ!!」


「なんだって? ……分かった。俺はアリルたちと合流する。ナザリー嬢は王女殿下を連れて撤退してくれ」


「な、わたくしも戦いますわ!!」


「分かっている。だからこそ、王女殿下を守ってくれ」


「む、むぅ」



 ナザリーは魔王にリベンジしたいのだろう。


 その気持ちは分かるが、連れて行っても大して戦局は変わらない。


 なら安全な場所にいてもらった方がいい。



「分かりましたわ、シュトラウス様。ご武運を」


「ああ」



 俺は二人と別れて兵士を連れて魔王城の上階へ向かう。


 そこには魔王が待つ大広間があるはずだ。


 しかし、兵士たちは大広間の中で陣形を組みながらも魔王と対峙したまま動かないでいた。


 理由は単純。


 魔王が鎖で拘束され、気絶している主人公を踏みつけにし、いつでも殺せると言わんばかりにその首筋に大鎌の刃を当てていたのだ。



「あははは!! それ以上ボクに近付いたら君たちの希望、勇者の首を斬っちゃうぞー!!」



 魔王は一見すると十代前半の少女だった。


 華奢で小柄な体躯をしており、純白の髪と真紅色の瞳を持っている。


 腰の辺りからは漆黒の翼が生え、頭の上には欠けた光輪が浮いており、まるで堕天使のような姿だった。


 いやまあ、実際に堕天使だけど。


 何より注目してしまったのは小柄な身体に不釣り合いな大きなおっぱいだ。


 多分キャラデザを考えた人が相当な癖の持ち主だったのだろう。

 一人称が『ボク』のロリ爆乳魔王というラスボスとしてどうなのかと言いたくなる容姿だった。


 俺はアリルから報告を聞く。



「ん。城内の魔物を皆殺しにして魔王も倒そうと部屋に突撃したら、勇者が人質にされた。あれも一応、救出対象だから見殺しにするのもどうかと思って主様を待ってた」



 懸命な判断だ。


 最優先目標は王女と勇者の救出であり、次点で魔王の討伐。


 魔王は勇者が聖剣でトドメを刺すことでしか倒せない。

 それ以外の方法で倒すと弱体化はするものの、すぐに復活してしまうのだ。


 だから何が何でも勇者を死なせるわけにはいかない。


 でも、だからこそ敢えて言おう。



「よし、突撃」


「ん。全軍突撃」


「ふぇ!?」



 一切躊躇のない攻撃命令に魔王が大きなおっぱいを揺らしながら動揺した。



「お、おい!! 勇者がどうなってもいいのか!! ボクにトドメを刺せるのは勇者が扱う聖剣だけなんだぞ!!」


「でも死ぬ度に弱体化するだろ、お前」


「!? ど、どうしてそれを……」


「さあ、どうしてかね。ま、取り敢えず殺しまくって赤ん坊でも勝てるくらい弱体化させてやるよ」


「え、あ、ちょ、待っ――」


「「「「ヒャッハァ――!! 魔王をぶっ殺せぇ!!」」」」



 ヒャッハー状態の兵士たちが一斉に魔王に襲いかかる。


 それから何回、何十回か死んだ魔王は。



「も、もう許してよぉ、悪いことしないからぁ」



 と、泣き始めてしまった。


 見た目が幼いせいだろうか、まるでこちらが悪者である。


 さて、どうしたものか。







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「こいつ、人質を無視しやがった」


シュ「人質はその価値があっての人質なのさ」



「王女落としてるやん」「ボクッ娘ロリ巨乳魔王……」「迷いがなくて草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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