第14話 噛ませ令息、出撃する






「まさか、このようなことになろうとは……」



 お城の会議室で王様が頭を抱えている。


 というのも昨日、勇者と共に魔王を倒しに行ったはずの公爵令嬢が帰ってきたのだ。


 しかし、そこに勇者と第一王女の姿はなかった。



「……ナザリー嬢。すまないが、状況を整理したい。魔王城で起こったことをもう一度話してもらえるか?」


「は、はい、分かりましたわ」



 昨日の今日で疲れているだろうが、ことが事なので会議室に招かれた公爵令嬢のナザリー。


 エメラルドグリーンの髪を縦ロールにしているせいか、ヒロインというよりも悪役令嬢という言葉が相応しく感じる。


 三年前に見た時よりも成長しており、特に胸の辺りが豊かになっていた。


 ナザリーは第一王女のアウロラと並ぶ『ストーリーズ・オブ・ファンタジア』の人気ヒロインだったからな。


 やっぱり実物も絶世の美女である。



「わたくしたちは魔王城に突入し、順調に魔王軍幹部を倒しながら魔王と対峙しましたわ。でも、魔王はとても強く、まるで歯が立たなかったのです」


「え? ちょ、ちょっと待ってくれるか、ナザリー嬢!!」



 俺はナザリーの説明に納得できず、思わず話しかけてしまった。



「レベリング、じゃなくて壁越えの修行はしっかりしなかったのですか?」


「い、いえ、道中に遭遇する魔物は倒しましたし、それなりに強くなっていたと思うのですが……」


「それでも歯が立たなかったと?」



 ナザリーは申し訳なさそうに目を伏せ、コクリと小さく頷いた。


 一体どうなっている。


 魔王軍幹部を倒せるならパーティーメンバーはレベル50を越えていたはずだ。


 魔王と戦うには少し厳しいレベルだが、主人公とヒロイン全員を揃えたフルメンバーなら苦戦しつつも倒せるはず――


 ん? フルメンバー?


 

「ん。このお菓子美味しい。主様、領地に持って帰って皆へのお土産にする」


「……」



 そ、そうか!!


 俺が主人公と二度目の決闘していないからアリルが仲間にならなかった!!


 つまり、フルメンバーじゃない!!



「ま、まじか……」



 一人欠けている状態でレベル50なら魔王と戦っても勝てないだろう。


 さて、どうしたものか。



「……申し訳ありません。もっともっと強くなっていたら、わたくしを逃がすために勇者様やアウロラ様が敵に捕まることもなかったのに……う、うぅ」


「い、いや、ナザリー嬢が悪いのではない」


「うむ、幸いにも王都へ迫る魔王軍は撃退することができた。魔王軍もすぐには動けまい」



 涙を流すナザリーを王様とアルトが慰めていた、その時だった。



「こ、国王陛下!! ご報告です!!」


「……なんだ? 騒がしいぞ」


「そ、それが、王都に向けておよそ十万の魔物の軍勢が進撃しております!! 上位種の魔物も複数確認されています!!」


「な、なんだと!?」



 十万。

 つい先日撃退したばかりの魔物たちの、およそ二倍の兵力が王都に向かっている。


 王様もアルトも、お城で働く兵士や大臣たちは蒼白となった。

 中には今すぐ逃げるべきだと主張する者まで出始めた。


 その中でただ一人、呑気に紅茶を飲みながらお菓子を食べているケモミミ美女が一人。



「ん。皆、くだらないことで悩みすぎ」


「「「「「え?」」」」」



 アリルであった。


 王都に向かってくる十万の魔物の話を聞いてくだらないと切り捨てたのだ。


 王様がその真意を問う。



「君はたしか、シュトラウスの側近のアリルだったね。くだらないとはどういう意味だ? 国家存亡の危機なのだぞ」


「ん。そんなもの、主様なら余裕で叩き潰せる。前の二倍戦えばいいだけ」


「そ、それは、単純な数の上の話であって……」


「ん。数なんて圧倒的な力の前では無意味。つまり主様には通じない」


「ちょ、待て。アリル、お前何言って――」



 俺がアリルの口を塞ごうと立ち上がるが、間に合わなかった。



「そもそも勇者なんかに頼ったのが間違い。主様は勇者以上に強い。何故なら主様は英雄。ううん、それ以上の存在――英雄王」


「「「「……」」」」


「も、申し訳ありません、国王陛下。この子はちょっと頭がアレというか、なんというか……」



 アリルの物言いは流石にまずい。


 王様に向かって俺を王呼ばわりするとか絶対にアウトだ。

 こうなったら奥義、DO★GE☆ZAをして許してもらうしかない。


 そう思った次の瞬間。


 王様は先程までの暗い雰囲気を吹き飛ばすように大声で笑った。



「はっはっはっはっ!! そうだな、君の言う通りだ!! 我らにはたった数百人で五万の魔物を退けた英雄王がいる!! 彼がいる限り、我らに負けはあるまい!!」


「おや、国王陛下。私、アルト率いる騎士団の活躍は無視ですかな?」


「おっと、すまんな。たしかに騎士団もよく頑張った」



 ちょっとアメリカンジョークっぽい。


 なんて考えていると、王様は信じられない命令をしてきた。



「英雄王シュトラウスよ。そなたに王命を与える。どうか魔王を倒してはくれまいか?」


「え? いや、えっと、その……」


「このようなことを頼むのは余とて心苦しい。しかし、囚われの勇者と王女を救うにはそなたに頼むしかないのだ」


「ん。主様なら余裕でできる」


「ちょ、アリル!? お前勝手に何言っちゃってんの!?」


「おお、なんと頼もしい!!」


「おいコラ!! 王様おいコラ!! 俺を無視すんじゃねーよ!!」



 俺は慌てて話の流れを止めようと割って入るが、何故か王様も大臣も、アルトまでもが俺の魔王討伐に賛同した。


 こうして俺は魔王討伐に出撃することが決まってしまったのだ。


 もう一つ、厄介なことと言えば……。



「シュトラウス様!! どうか、わたくしも連れて行ってくださいまし!!」


「え? い、いや、ナザリー嬢。貴女は十分戦ったわけですし、王都で待っている方が――」


「もう逃げるのは嫌ですの!! それに、アリル様から聞きましたわ」


「アリルから? 何を?」



 ナザリーが目を輝かせて俺を見つめる。



「貴方様が五万の魔物を相手に一歩も退かず、堂々と迎え討ったお話ですわ!! わたくし、感動してしまいましたの!!」


「ん。ナザリーは話の分かる女。好き」



 そう言えば、ゲームのナザリーとアリルって意気投合して親友になるんだっけ……。


 これはもうどうにもならないのでは?


 俺はすっかり魔王と戦うという空気に流されて、三日後に魔王城へ向けて出撃した。


 ちなみに王都へ向かってくる十万の魔物は王都の兵士たちに支援魔法をかけ、迎撃するという流れに。


 いやまあ、今の俺なら二万人に一週間くらい効果が持続する支援魔法をかけられるけどさ。


 まじでどうしてこうなった……。






―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「大体アリルが悪い」


シュ「それはそう」



「アリルw」「信仰もここまでくるとタチが悪い」「ナザリー意気投合してて草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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