第13話 噛ませ令息、王都防衛戦に勝利する
「ん。主様、見えてきた」
「……だな」
平原の向こうで蠢く無数の影。
およそ五万の魔王軍がアーベント王国を滅ぼそうと攻めてきたのだ。
後方では二万の兵が防壁の門を閉ざし、籠城の構えを取っている。
俺たちが突破されてもすぐ王都が落ちる心配はない。
なので遠慮なく指示を出せる。
「アリル、全弾ぶっ放せ」
「ん。砲撃開始」
アリルが部下たちに指示すると、雷のような轟音が響いた。
ドドドドドーン!!
同時に魔王軍がまとめて吹き飛び、短時間で数百の敵が肉片へと変わり果てた。
そう。これこそが俺の秘密兵器。
今から二年前、カタストロ領で硝石が見つかったのだ。
硝石といえば黒色火薬の材料、俺はすぐに錬金釜を使って開発に乗り出した。
それが最近になって実用段階に入ったのだ。
量産は未だに難しいが、そのうち安定して作れるようになるはず。
この時代なら十年は無双できるだろう。
「魔王軍が近づいてくるまで撃ちまくれ!! 撃ち切った砲兵は指定の位置に!!」
「「「「はっ!!」」」」
魔王軍は大砲という見たことのない兵器を前に足を止めた。
しかし、砲撃が止まないと察して進軍を再開。
的になるよりは物量で押し潰した方がいいと判断したのだろう。
賢い判断だ。
「――フィジカルブースト!!」
なので俺は正面からのぶつかり合いに備えて領軍の兵士たちに支援魔法をかける。
作るのに苦労した『英雄王の首飾り』は大活躍だった。
当然、まだまだ魔力が有り余っている。
「――ライフエッセンス!! スタミナアップ!! マジックエンチャント!! メンタルフラット!! インテリジェンスハイ!!」
身体能力を数段階向上させる魔法だけでなく、生命力、体力、魔力、精神、知力を向上させる支援魔法をかけた。
そして、最後に一番ヤバめの魔法をかける。
「――バーサークテンション!!」
理性を失くす代わりに身体能力を倍にするという破格性能の支援魔法である。
本来、このバーサークテンションは敵にも味方にも襲いかかるようになるため、乱戦では絶対に使ってはならない切り札中の切り札なのだが……。
大丈夫だ、問題ない。
何故なら俺が連れてきたカタストロ領軍の兵士たちは一人残らず――
「「「「ヒャッハァーッ!!!! 領主様の敵は皆殺しだぁ――ッ!!!!」」」」
「ん。皆、元気満々。私も突撃する」
アリルも含め、全員が俺を信仰しているから。
こいつらは狂気を狂気で抑え込むという、正直怖い集団なのだ。
全身から真っ赤なオーラを迸らせる兵士たちは嬉々として魔王軍へと向かって行った。
それを真っ向から迎え討とうとする魔王軍。
理性を失った敵など数で囲めば大した脅威にならないと踏んだのだろう。
その判断は早計だと言わざるを得ない。
「な、なんだ、こいつら!! 一人一人が魔法をエンチャントした武器を持ってるぞ!!」
「こ、攻撃が通らない!! 鎧が頑丈すぎる!!」
「ひいっ!! 魔法が直撃したのに向かってくるぞ!?」
魔王軍のゴブリンやオーク、コボルトたちが悲痛な叫び声を上げる。
俺の支援魔法と錬金釜で作った武具。
この二つが揃うだけでたった五百の兵士が一騎当千の怪物へと変わり果てる。
レベル50相当の戦闘力はあるはずだ。
中でもレベル60相当、魔王との決戦に連れて行っても問題のない戦闘力の女がいる。
その女とは――
「ん。主様の敵は皆殺し」
戦場を縦横無尽に駆け回り、爪で魔王軍の首を次々と跳ね回る獣人の美女。
アリルだった。
たった一人で数百の魔物を抹殺し、例えではなく文字通りの一騎当千の成果を上げるアリル。
その姿はまさに鬼神のようで、それを見た他のカタストロ兵たちも応えるように魔物たちを蹴散らして行く。
そして、アリルたちは戦いの中で壁を越える。
レベルアップを繰り返し、時間が経つほど強くなっていくのだ。
おまけに俺のレベルも上がるっていうね。
「はは、魔物がどんどん減っていくなあ」
と、呑気に戦場を眺めていた時。
どういうわけか、後方から無数の雄叫びが聞こえてきた。
何が起こったのかと背後を見やると、王都を囲む防壁の門が開いて数百、数千の兵士がダムの水のように溢れてくる。
「あの者たちに続けーッ!! 我らも王都を守るのだーッ!!」
壮麗な鎧を身にまとった美女が馬を駆り、引き連れていた兵士たちが魔王軍に突撃する。
あれは……。
「シュトラウス殿!! 我らも戦うぞ!!」
そう言ったのは、雪のように輝く銀髪の美しい紫色の瞳の女性だった。
白銀の鎧に身を包む彼女は、アーベント王国を守る騎士団、その長を務めている王国最強の騎士である。
彼女の名前はアルト。
ゲームのストーリーを特定の手順で進めることで仲間にできるヒロインだ。
主人公は彼女を仲間にしなかったらしい。
いや、というか仲間にする手順を知らなくてできなかったと表現するのが正しいか。
「アルト騎士団長殿、貴女は国王陛下から王都を防衛を任されていたのでは?」
「うむ!! だが、そなたとそなたの兵が命懸けで戦っているのだ!! 指を咥えて見ているなど王国騎士の名折れ!! 私たちも戦うぞ!!」
「……少しじっとしていてください」
俺はアルトと彼女が引き連れてきた騎士や兵士たちに支援魔法を施した。
さすがにバーサークテンションは使わない。
普通の人たちにあれを使うと味方も攻撃しちゃうからな。
騎士たちが更に雄叫びを上げる。
「おお!! 身体の奥底から力が沸いてくるようだな!!」
「頑張ってください」
「うむ!! ……ところでシュトラウス殿、貴殿は未婚だったな?」
「え? ええと、はい、まあ」
「もし結婚する予定がないなら、私などどうだ?」
「……は?」
あまりにも唐突なアピールに間の抜けた顔をしてしまう。
「え、な、なんでです?」
「特に理由などない。強いて言うなら、五万もの敵に五百の兵士で立ち向かうという貴殿の勇ましさに惚れた」
「うぇ!?」
「ふふっ、勇ましくともそういうことにうぶなのか? 可愛らしいではないか」
からかうようにそう言い残して魔王軍に突っ込むアルト。
お、おうふ。まじですかい。
最近はアリルに誘惑されて慣れているつもりだったが、俺はド直球な口説き文句には弱かったらしい。
「ん。主様」
「うおあ!? い、いつの間に背後にいたんだ、アリル!!」
「ん。……主様の貞操は私のもの。泥棒猫には奪わせない」
「急に何言ってんだ!?」
「ん。じゃあ行ってくる」
本当に何がしたかったのか、アリルは俺の童貞を奪うとだけ宣言して再び敵の首を狩り始めた。
その後、魔王軍は敗走。
こちら側の戦死者はわずか二桁であり、カタストロ兵に至っては一人も死んでいなかった。
奇跡の大勝利である。
王都の民は騎士や兵士たちを称え、たった五百人の兵士で先陣を切った俺は『英雄』と持て囃されてしまった。
ぐへへへ、大勢に称えられると嬉しいね。
しかし、やはり何事もいいことが続いて起こるとは限らないものだ。
魔王軍撃退から数日後、勇者と共に魔王討伐へ向かったはずの公爵令嬢がわずか数名の兵士を連れて帰還した。
彼女は国王に謁見し、あることを報告する。
勇者は魔王との決戦で敗北し、第一王女共々捕まってしまったらしい。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「ぽっと出ヒロインに好かれて熟練ヒロインに嫉妬される、有りだと思います」
シュ「有り、なのか?」
「狂気で狂気を支配してて草」「アリルが泥棒猫警戒してて草」「有りやで」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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