第12話 噛ませ令息、王様に謁見する






「王都に来るのも三年ぶりだな……」


「ん。私と主様が出会った運命の場所」



 俺はカタストロ領軍五百名を連れてアーベント王国の王都へやってきた。


 数日前、王都から使者が来訪した。


 国王陛下の命令書を持ったその使者が言うには、復活した魔王が軍勢を率いてアーベント王国の王都に迫っているらしい。


 王都の防衛戦力のみでは心許ないため、少しでも戦力を集めたいとのこと。


 当然、王命を断れるわけがない。


 せっかく領地の防衛に専念しようと思っていたのに大半の準備がパーになった。


 いくつか秘密兵器は持ってきたが……。


 あ、ちなみにカタストロ領の防衛はイヴリスとミュレナに任せている。

 あの二人なら魔王軍の侵攻を受けても普通に何とかしそうだからな。


 きっと大丈夫だろう。多分。絶対に。



「ちくしょう。戦争なんてくそ食らえだ」



 俺は悪態を吐きながら王都を囲む十数メートルはあろうかという壁を潜った。


 王都はすでに戦争の空気に呑まれている。


 三年前は活気のあった大通りを何十、何百という兵士が行き来していた。


 

「アリル、俺は国王陛下に謁見してくる。お前は例の兵器を設置しておけ」


「ん。もう指示は出しておいた」



 アリルが無表情のまま得意気に頷く。


 ここ三年でアリルは誰もが振り向くような絶世の美女に成長した。


 いや、ヒロインだから当然だろうけどさ。


 心なしかゲームのアリルよりもおっぱいが大きくてスタイルが良くなっている。

 あと最近は露骨にアピールしてきて、少し反応に困っていた。


 嫌なわけではない。


 ただ今まで奴隷として扱ってきたから、今さら女として扱うのはなんかなあ、って感じなのだ。


 とまあ、雑考はここまでにしておいて。



「増援感謝する、シュトラウス」


「あ、頭を下げるのはおやめください、国王陛下!!」



 謁見の間で顔を合わせたアーベント王国の国王、グロリアス三世がいきなり頭を下げてきた。


 あまりにも急でびっくりしたよ。


 三年前、学園の入学式で顔を見た時は威厳に満ちていた王様がゲッソリと痩せ細っていた。


 病気だろうか。いや、ストレスっぽいな。



「他の領主たちは自領を守るためと言って、王都防衛には来なかった。国が無くなれば領地も何もないだろうに!!」



 そう言って膝を叩く王様。


 いや、ぶっちゃけ俺も来たくなかったよ。領地に籠っていたかったよ。


 ていうか王命を拒否とかありなのかよ!!


 ちょっと他の領主さん、俺にもそういうこと教えてよね!!



「……すまぬ、取り乱した」


「いえ、国王陛下のご心労は当然のことかと」


「そなたは王国貴族の鑑だな。そういえば、そなたは決闘で負けて学園を退学になったのだったな」



 ああん?


 急に嫌なこと思い出させやがったな。途中で魔王軍に寝返ってやろか。



「この戦いが終わったら、特別にそなたに公爵位を与えよう。防衛戦に参加しなかった周辺の領主から土地を取り上げ、そなたに任せたい」



 先に言っておこう。


 俺はありがちな「そ、そんなもの結構ですよ」とか言うラノベの主人公ではない。


 土地を貰ったら嬉しいし、やる気も出る。



「全身全霊で王都を守り抜いてみせましょう!!」


「おお、なんと頼り甲斐のある台詞だ」



 と、宣言したはいいものの。



「ところで陛下。実際問題、勝算はあるのですか?」


「……うむ。今、勇者殿が仲間と百余名の兵士を連れて魔王を倒すべく魔王城へ向かっている。少数精鋭による魔王の暗殺だ。それが叶えば魔王軍の魔物は弱体化するはず。伝承が正しければ、だが」


「そうですか」



 ここはゲーム通りだな。


 魔王を倒しさえすれば魔王軍は弱体化し、王国軍で対処できる。

 勇者は第一王女や公爵令嬢、その他にも数人のヒロインを連れて魔王城へ向かったはずだ。



「分かりました。では陛下、王都防衛に差し当たってお願いがあります」


「なんだ? できるだけ便宜を図ろう」


「私が連れてきたカタストロ領の兵士はたった五百。しかし、一人一人が一騎当千の強兵です。我々のみ、防壁の外で布陣するお許しをもらえませんか?」


「な、正気か!? 籠城するつもりはないと!?」


「はい」



 俺がそう言うと、陛下は焦った様子を見せた。



「そなたの心意気、まことに嬉しく思う。しかし、魔王軍は五万。王国軍二万全てを出撃させても勝てる数ではない」


「承知の上でございます」


「……わざわざ死ぬような真似をせずともよい。少数と言えども援軍が来たこと自体、余は嬉しく思っているのだ」


「あ、いえ、別に死ぬつもりは毛頭ございません。ちょっとした秘密兵器もありますので」


「秘密、兵器?」


「最低でも魔王軍を五千、いや、一万は減らせるかと」


「!?」



 三年という時間を俺は無為に過ごしてきたわけではない。

 魔王軍の侵攻から領地を守るため、めっちゃ頑張ったのだ。


 その成果を見せる時である。



「……そうか、そなた程の男がこの国にいたとは思わなかった」


「い、いやあ、それほどでも」


「ではシュトラウス・カタストロよ。魔王軍から王国を守ってみせよ。褒美は国王の威厳にかけて何でも用意する。考えておけ」



 それはいいことを聞いた。


 俺は謁見の間を後にして魔王軍が迫ってきている南方面の平原に向かう。



「ん。主様、準備は順調」


「そうか。敵が見えたら問答無用で攻撃開始だ」


「ん」



 ゲームのシナリオとはかなり異なる展開だ。


 シュトラウスが魔王軍と戦うこと自体そうだが、魔王軍幹部が俺に接触してこなかった。


 主人公と、勇者と敵対していないのだ。


 そのため俺は勇者の実力がどの程度のものなのか知らない。


 王様曰く並みの兵士よりは遥かに強いそうだが、魔王を倒せるくらいに強くなっているかは正直分からない。



「……ま、なるようになるよな」



 俺は遠くを見ながら、いつかと同じ台詞を呟いた。


 そして、魔王軍がやってきた。







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「次回、決戦」


シュ「わーい」



「アリルかわいい」「援軍に来ただけで公爵位をあげてもいいのか」「秘密兵器が気になる」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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