第11話 噛ませ令息、成り行きを見守る
アリルとミュレナが対峙する。
ミュレナがモーニングスターをブンブン回転させ始め、アリルは俺を守るように臨戦態勢を取る。
「……貴方はシュトラウスさまの奴隷かしら?」
「ん。主様の愛の奴隷。いつか貞操を奪う」
「ああ、素晴らしい!! まさに種の垣根を越えた愛!! 私の目指す理想の一つです!!」
こいつら、なんちゅう会話してんだ。
「しかし、私は悲しいです。それは貴方が奴隷だからではありませんか?」
「ん? どういう意味?」
「そのままの意味です。私はシュトラウス様が孤児院の子供や奴隷を救ったお話を聞き、人を差別しないで守る素晴らしい人だと思っていました」
「ん。その通り。主様は素晴らしい人」
「ですが!! ですがですが!! シュトラウス様は我らに布教許可をお与えになりませんでした!! それは彼が差別主義者である証拠!! 差別主義者は死ねばいいのです!! この世から全ての差別主義者を駆逐した時、世界に真の平和が訪れるのです!!」
怖いよ、まじで。
上手く言えないけど、言葉は通じるのに会話ができない感じ。
それに対してアリルは意外な反応を見せた。
「ん。どうして布教を許さなかったら差別主義者になるの?」
会話ができなさそうな相手に質問したのだ。
もしかしたらアリルは俺が思っている以上に大物だったのかも知れない。
「それは無論!! 我らの差別を良しとしない考えに賛同ならば普通は布教を許可するからです!! つまり、シュトラウス様は差別主義者!!」
「ん。よく分からない。思想を押し付けて相手の意志を慮らない貴女は差別主義者じゃないの?」
「ええ!! 私たちは正義なのです!!」
「ん。どうして正義なの? 貴女は主様の部屋に押し入って暴れ回っている。強盗と一緒。法を犯している犯罪者。犯罪者に正義はない」
「ほ、法など人間が後から勝手に作ったものです!! そこに正義などないのです!!」
「ん。貴女の語る思想も後から勝手に作ったものじゃないの? 正義はあるの? 主張がずっと矛盾してる」
う、うわー、うちのアリルってばしゅごいズバッと言っちゃうなあ。
「そ、それは……」
「ん。断言できる。貴女は正義じゃない。そもそも正義なんてこの世にはない。何に正義を見出だすかが重要」
「ど、どういう意味です?」
「そのままの意味。私は主様に救われた。主様が私を選んだのは偶然だったかも知れないけど、だからこそ私は生きている。私が生きているのは主様のお陰。だから私にとっては主様が正義。その正義を害する全てが悪」
ん?
なんか話が変な方向に向かっているような、そうでないような……。
「つまり、主様こそ正義。その他は全て悪。滅ぼすべし」
「お前もミュレナと同じじゃねーか」
「ん。全然違う。私は主様を信じている。この女は自分の思想を信じている。明確に崇めるものがある私の方が強い」
そう言ってアリルは無表情のままガッツポーズを取った。
「いいえ、いいえ!! 正しいのは私です!! 私こそが正義!! 貴女こそ邪悪なのです!!」
「ん。論争で解決しないなら後は暴力」
「いいでしょう!! 私が負けたら、貴女の方が正しかったと認めましょう!!」
「ん。尋常に勝負」
それからアリルとミュレナのガチバトルが始まってしまった。
俺は錬金釜を抱えて避難の準備をする。
ミュレナのブン回した鉄球がアリルを狙って迫るが、素早い彼女には当たらない。
代わりにソファーで寛いでいるイヴリスにクリティカルヒットした。
顔面に鉄球が当たって「ふご!?」と魔神らしくない悲鳴を上げるイヴリス。
そして、イヴリスはブチギレた。
「お主ら!! 妾の至福の時を邪魔するでないわ!!」
乱戦が始まってしまった。
俺はそそくさと部屋から退出し、ベルンに指示を出しておく。
「ベルン。大変だろうけど、馬鹿たちの喧嘩が終わったら掃除頼む」
「……はい」
「な、なんか、ごめんな。今月は給金倍にしてやるから」
今から後片付けを想像して涙目になっているベルンに謝罪し、俺は別室で錬金釜を使って色々と作って遊ぶのであった。
そうそう、アリルとミュレナの決着はアリルの勝利で終わった。
いや、終わってしまったと言うべきか。
そもそも宗教家でしかないミュレナと暇な時に魔物を狩っているアリルには越えられないレベル差があったのだ。
その結果、ミュレナは改心。というか改宗。
どういう洗脳を施したのか、ミュレナはアリルと同様に俺を崇めるようになった。
それだけならまだ良かった。
しかし、元々聖神教団の教祖として人々を煽ってきたミュレナの扇動力には目を見張るものがあり……。
カタストロ領に住まう領民たちはミュレナの口車に乗せられて俺を信仰するようになった。
信仰心を利用した一致団結は領内を整備する上で大いに役に立ったし、自ら領軍に志願する者も出始めたのだ。
それはまあ、いいことなので良しとする。
荒れ果てた農地は次第に土が回復し、農作物もそれなりに育つようになってきた。
そのせいか移住者も少しずつ増え、百人未満だった領内人口がたった三年で千人にまで増加したのである。
そのうち半分以上が領軍に入ってきた。
およそ七百名程度の領軍のうち、九割が女性であることは少々疑問だが……。
錬金釜の存在もあり、カタストロ領軍は上質な装備を整え、数の割に隔絶した軍事力を獲得することに成功した。
それに合わせてゲームのストーリーは着実に進んでいたようで、魔王が復活。
イヴリスの言っていた大いなる災いだ。
本来なら領地防衛に全力を注ごうと思っていたのだが、ここで問題が発生。
魔王軍からの侵略を察知したアーベント王国の王都から、王都防衛戦に参加するよう命令があったのだ。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「ベルン可哀想」
シュ「……」
「アリルレスバ強い」「片付け押し付けられてて草」「味方にしちゃいけないタイプだ」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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