第10話 噛ませ令息、尊敬する





 院長は死刑にした。


 魔神召喚を計画していたから、という理由で斬首刑である。


 あくまでも院長は召喚を計画していただけだが、魔神を召喚する魔法陣が知識として頭にある以上そうするしかなかった。


 もし魔神の力が悪用されたら領地はおろか国が危うくなるからな。


 処刑もやむなしである。


 え? 俺は計画どころか実際に召喚したのにお咎めはないのか、だって?


 ……権力って、残酷だよな。


 領主代行である俺が悪いことをしてもアーベント王国の王都で暮らしている王様にでも報告されない限り問題にならない。


 そこら辺の管理能力がガバガバで、いくらでも誤魔化しようがあるのだ。


 中世ヨーロッパ風の価値観で助かったぜ。


 それに俺は院長の悪事を暴いた為政者として領民からちょっと人気になりつつある。


 院長に囚われていた奴隷たちは領主邸で仕事を与えて働かせ、孤児院の子供たちは直々に面倒を見ることにしたからだろう。


 まあ、実際は善行など何一つしていない。


 維持にお金がかかるから一度は解体した領軍を奴隷たちで再編成したのだ。

 規模としては十人もいないので軍を名乗っていいか分からないが……。


 奴隷たちは全員俺と契約し直したため、裏切る心配もない。


 なので近衛兵として傍に置いている。


 孤児院の子供たちの面倒を見ることにした件についても言い出したのはアリルだ。


 孤児院が無くなったことで子供たちが路頭に迷い、奴隷落ちしてしまうのを嫌がったのかも知れない。


 とまあ、それはさておき。



「うへへへ、錬金釜!! これさえあればあんなアイテムやこんなアイテムまで作れちゃーう!! まずは何を作ろうか!!」



 ニヤニヤが止まらない。


 これを使えば領地は更なる発展を遂げ、生活をより豊かにできる。


 あと主人公への嫌がらせにもなるからな。


 俺が孤児院の問題を解決し、錬金釜を回収した以上、主人公は今後アイテムや装備を整えるのに苦労するだろう。


 え? そんな嫌がらせしていいのか、だって?

 

 大丈夫大丈夫。なんだかんだゲームの各キャラには専用装備があるからな。


 錬金釜が無くても主人公たちは平気なのだ。


 ならば錬金釜が必要な俺の手元に置いておいてもいいじゃないか。



「うーん、やっぱ俺に必要なのは支援魔法を強化するアイテムだよな」



 俺はアリルに支援魔法を掛けて魔物戦わせていたせいか、レベルがそこそこ高い。

 お陰で魔力も増え、使える支援魔法の種類も増えた。


 それをより効率的に扱うには、効果を上昇させるマジックアイテムがほしい。


 しかし、それ以上にほしいものがある。


 支援魔法を使う際、消費する魔力が倍になるが、単体から複数人に同時に掛けられるようになる最高のアイテム。



「いざ、『英雄王の首飾り』を作ろう!!」



 と思ったのだが、人生とは何事も上手く行くとは限らない。


 俺は膝から崩れ落ちた。



「素材が!! 足りない!! いや、分かってたけどさ!! 『英雄王の首飾り』なんて終盤で使うアイテムがいきなり手に入るとは思わなかったけどさ!!」


「……朝から独り言が激しいのう、お主」


「お前は朝から寛ぎすぎだろ」



 魔神改めイヴリスは俺の部屋のソファーでゴロゴロしながら読書していた。


 めっちゃ寛いでいる。


 しかも読んでいる本は親父の書斎に隠してあったムフフ本だ。


 イヴリスは見た目が幼いため、何となく教育に悪い気がしてしまう。

 かといって取り上げようとすると全力で抵抗してくるので今は放置している。



「ん? なんじゃ? 妾の顔に何か付いておるかの?」


「……いや、何でもない」



 俺はイヴリスから視線を外し、錬金釜に色々な素材をぶち込む。


 魔力を増やす装備や支援魔法の効果を上昇させる装備は『英雄王の首飾り』以外にも幾つか心当たりがある。


 他にも領軍のための装備を整えないと。


 そう思って錬金釜を使い、市販品よりも数倍は性能がいい武具を作っていたのだが。


 急に執事のベルンが何やら慌てた様子で俺の部屋に駆け込んできた。

 その顔はまさに顔面蒼白で、見るからに何かあったのだろう。



「そんなに慌ててどうしたんだ、ベルン?」


「た、大変です!! せ、聖神教団と名乗る連中がシュトラウス様に会わせろと!!」


「聖神教団、だと!?」



 俺はその悪質な集団を知っている。


 ゲームでも度々面倒事を起こしては主人公に助けを求める迷惑な連中だ。


 そして、それはこの世界でも知られている。


 いやまあ、彼らの主義思想自体はそう悪いものではない。


 その主義思想とは『人は皆平等。種族や身分によって差別してはならない』という現代的な価値観のいい宗教団体だと思われるだろう。


 でも実態は違う。


 彼らは『差別する奴は悪。悪は差別してもいい。むしろ差別するべき』という思想をしている。


 その思想から各国でテロまがいの悪事を働いたり、民衆を扇動して反乱を起こそうと画策したりするヤバイ集団なのだ。


 そもそも貴族制度という身分社会で平等を謳う方がおかしい。 



「お、追い返せ!! せっかく領地がいい感じになってきたのに問題を抱えてたまるか!!」


「は、はい!!」



 ベルンは慌てた様子で部屋を出て行った。


 しかし、俺の出した指示は少しばかり遅かったらしい。

 誰かがズンズンと足音を鳴らしながら俺の部屋に近づいてくる。


 やがて俺の部屋の前で足音が止まった。


 必死に制止するようなベルンの悲痛な声が聞こえた直後、扉が開かれる――ことはなく。


 扉の横の壁を破壊して誰かが入ってきた。



「お邪魔しますわ、領主代行様!!」



 一見すると聖母のように美しい女性だった。


 床に届きそうなほど長い黄金の髪と翡翠色に光り輝く瞳。


 女神のように整った美貌の持ち主だ。


 おっぱいがとても大きく、腰はキュッと細く締まっており、脚は長く太ももはムチムチ。

 身長は170センチを優に越えているであろうモデル体型だった。


 身にまとう修道服はスリットが深く、チラ見えする太ももを包み込むガーターベルトがちょっとエッチだ。


 胸元が全開で大きなおっぱいを強調している素晴らしく破廉恥な格好である。


 特徴的なのは長い耳。エルフだった。


 見た目で言えば俺のドストライク。そう、見た目で言えば。


 俺はこの人物を知っている。



「はじめまして。私は聖神教団の教祖、ミュレナと申します」



 聖神教団の教祖、ミュレナ。


 ゲームでは色々とやらかしてトラブルばかり引き起こす連中の首魁である。



「お、わ、私は領主代行のシュトラウスだ。して、こちらには何用で?」


「貴方様に折り入ってお願いがありまして!! この地で我ら聖神教団の教えを広めるお許しをいただきたく参りました!!」


「!? な、なぜ、我が領地に?」



 うちの領地で布教とか迷惑すぎる。


 一応、アーベント王国では女神教が国教として指定されているが……。


 聖神教団はその女神教の過激派団体。


 しかし、貴族制度を用いているアーベント王国とは相性がすこぶる悪いため、無理に聖神教団を受け入れる必要はない。


 ない、のだが。



「せ、せっかくだが、お断りし――」


「あら? もしやシュトラウス様は、我らの考えに賛同なさらないのですか? 差別主義者なのですか?」



 その瞬間、ミュレナの目が変わった。


 聖母のような優しい微笑みから悪魔を見た時のような恐ろしい目だ。


 そして、トゲ付きの鎖鉄球をぶん回し始める。


 ちょ、ミュレナさん!? どこから出したそのモーニングスター!?



「ああ、そんな……。私は悲しいです。貴方はそんな酷い人ではないと信じていたのに!! 許せない、差別主義者は全員死ねばいいのです!!」


「っ、アリル!!」



 俺は一番信頼している奴隷の名を叫ぶ。


 それと同時にミュレナがモーニングスターを俺に投げつけてきた。


 顔面を潰されそうになる瞬間、部屋の窓を突き破って入ってきた影が俺とモーニングスターの間に割って入る。



「ん。私の主様を傷つける奴は敵。始末する」



 殺気立ったアリルがミュレナと対峙する。


 そして、そんな状況でも変わらずムフフ本を読んでいるイヴリスを俺は尊敬するのであった。







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「こういう話を聞かないタイプは怖い」


シュ「分かる」



「この魔神かわいい」「モーニングスターで笑った」「いきなり戦闘で草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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