第7話 噛ませ令息、助けを求められる
俺が領主代行となってから一ヶ月が経った。
「主様、次の書類を持ってきた」
「お、さんきゅ」
現在、俺は領主代行として親父がちっともやっていなかった仕事を進めていた。
カタストロ領は荒れ地ばかりで作物が育たない。
その原因を考えているうちに、俺はある可能性に思い至った。
シンプルに土地が痩せている可能性だ。
今でこそちっとも作物が育たないが、祖父の時代では普通の農村くらいには作物が育っていたと聞く。
ならばしばらく土地を休ませて、その間に街道を整備してしまおうと考えたのだ。
生活に困窮していた領民は公共事業と聞いて目の色を変えた。
街道が完成するまでとは言え、安定してお金を得られるわけだからな。
ちなみにそのお金はジルクニフがちょろまかしていた金と、親父の調度品を行商人に売り払って得た金を使うことにした。
今のところは目立った問題もない。
参加者には干し肉とパンが与えられることも大きいだろう。
また働きに応じて貰える給金が増えると通達したため、やる気もある様子。
行商人は干し肉とパンを買ってもらえてウハウハ、領民は生活に困らなくてウハウハ、俺は領地を整備できてウハウハ。
俺の領主代行生活は順調だった。
「うーむ。でもやっぱ、お金が少し心配だな」
「ん。私が冒険者として稼いでくる?」
「……有り寄りの有りだが、却下だ。俺の護衛がいなくなっちまう」
「ん。なら主様も冒険者になる」
「無茶言うな」
領主代行が自分でお金を稼いでくるとか聞いたこともないぞ。
……でも冒険者が儲かるのは事実だ。
薬草採取や鉱石採掘は収入がイマイチだが、魔物退治はいい金になる。
どうしてもお金が無くなった時は冒険者として稼ぐのも有りか。
と、頭の中で色々と考えていた時。
「ん?」
「どうした、アリル?」
「門の方が騒がしい。何かあったみたい」
アリルの耳が何かを聞き取ったらしい。
書類仕事に飽きてきたところだし、休憩がてら見に行くことにした。
「おい、ベルン」
「あ、シュトラウス様!! ちょうどいいところに!!」
「何かあったのか?」
「そ、それが……」
ベルンというのは屋敷に残った使用人たちを束ねている執事の青年だ。
ジルクニフの後釜だな。
ベルンは俺を見ると同時に表情を明るくして駆け寄ってきた。
「な、なあ!! 頼むよ!! 新しい領主様に会わせてくれ!!」
領主邸の入り口となる門の前で十代前半と思わしき子供が騒いでいた。
中性的な外見の子供だ。男の子、だと思う。
「と、いきなりあの子供がシュトラウス様に会わせてほしいと騒いでいまして。す、すぐに追い返しますので!!」
「いや、いい。話くらい聞いてもいいだろ」
「え? いや、しかし……」
ベルンは渋い顔をしたが、俺は気にせず少年の前に立った。
「俺が領主代行のシュトラウスだ。領主じゃないけど、同じ権限を持ってる。で、何の用だ?」
「っ、アンタがそうなのか!? 頼む!! 姉ちゃんを助けてくれ!!」
「……ただ事じゃなさそうだな。詳しく話せ」
子供の言うことだからと無視するには、少年はあまりにも必死だった。
ようやく領地が安定しそうというところで問題に首を突っ込むのは避けるべきかも知れないが、俺は面倒事を先に片付けたいタイプだ。
俺はひとまず少年を応接室に通した。
詳しい話を聞くためにも、アリルにお茶を持って来させて少年を落ち着かせる。
「姉を助けてほしいだって?」
「オ、オレ、ここから一日移動した村にある孤児院で暮らしてるんだ」
「ここから一日の距離で、孤児院がある村……。ああ、ルネ村か」
他の村と同様、農作物が育たないが、付近の森に魔物が少なく豊富な薬草を採れると何かの書類で見た気がする。
孤児院の子供たちがその薬草を集めて行商人に売っているとか何とか。
「オレが薬草採取から帰ってきたら、姉ちゃんがいなくなっちゃって」
「いなくなった?」
「うん。姉ちゃんは病気で部屋から出られないから、誰かに拐われたに違いないんだ!! でも院長先生は領地代行様に迷惑はかけちゃいけないから黙ってなさいって……」
「……ふむ」
どうしよう。
俺はこの事件の犯人を知っている。たった今、思い出したのだ。
辺境の村で起こる子供の行方不明事件。
それはゲーム本編でも屈指のトラウマ展開で有名だった。
主人公が立ち寄った村で幼い子供が次々と行方不明になるため、仲間と協力して真相を探るという導入のイベントだ。
そう、本来は主人公が解決すべき事件である。
ならばここは知らないフリをして勇者に押し付けてしまいたいところだが……。
「アリル、支度をしろ」
「ん」
俺がアリルに命令すると、それを聞いていた少年は目を瞬かせた。
「え? あの、領主代行様?」
「お前、名前は?」
「え、あ、オレはラルだけど」
「そうか。ラル、道案内を頼むぞ」
俺はラルの助けを求める声に応じることにした。
このイベントはクリアすることでめちゃくちゃ重要なアイテムが手に入る。
主人公がそれをゲットする前に俺のものにしてしまいたい。
おっと、主人公への嫌がらせじゃないぞ。
そのアイテムがあったら、今後何をするにしても便利になるからだ。
断じて主人公への嫌がらせではない。
ちょっぴりそれもあるが、あくまでも今後を見据えての行動だ。
「ほ、本当に助けてくれるのか!?」
「ああ。秒で解決してやるよ」
だって犯人知ってるし、余裕で解決できる。
こういう時、ゲーム知識を持ってると本当に便利だなあ。
まあ、失敗したらヤバイことになるから、慎重にやらなきゃダメだが。
「アリル、移動中に見かけた魔物は片っ端から仕留めてレベルアップしておくぞ。万が一ってこともあるからは」
「ん。了解」
こうして俺はイベントを解決するため、ルネ村へと向かうのであった。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「特に話すことナシ!!」
シュ「お、おう」
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