第4話 噛ませ令息、勘当される





「こ、この馬鹿者がああああああッ!!!!」


「ぐっ」



 ここは領主邸。


 つまり、俺の父親が暮らしている領地の屋敷に戻ってきたのだが……。


 俺は親父にぶん殴られてしまった。



「き、貴様は、よりによって勇者に決闘を挑んだというのか!! 愚か者が!! 貴様の愚行のせいで儂を破滅させる気か!!」


「……申し訳、ありません」



 俺は土下座で親父に許しを乞うた。


 しかし、勇者に報復されることを恐れた親父は顔を真っ赤にしながら叫ぶ。


 勇者は別に報復とかしないし、何なら決闘の次の日にはシュトラウスのことを完全に忘れてしまっている。


 それを知る由もない親父は馬鹿息子のしでかしたことが不安で仕方ないのだろう。


 本当にごめんなさい。



「はっ!! そ、そうだ、貴様を追い出せばまだ言い訳ができる!! おい、貴様は今すぐ屋敷を出ていけ!! 勘当だ!!」


「……うっす」


「まったく!! 貴様のような無能と血が繋がっていると思うとおぞましくて仕方ない!!」



 やらかしたのは事実だから追放は仕方ないと思うけどさ。


 仮にも息子にあんまりな言い草だ。


 いやまあ、本当にやらかしちゃったのは俺の方なので反論の余地はないけど。


 と、こうして俺は家を追い出されてしまった。



「仕方ない。今日は領内にある村の宿で泊まるか」



 カタストロ領は領内の八割が森で、少ない農地も大半が荒れ地だ。


 作物を育てられず、人口も少ないが、人がいないわけではない。

 領内には小さな村が幾つかあるので、今日はそこに泊まらせてもらおう。


 ああ、お金に関しては大丈夫。


 屋敷にあった高く売れそうな私物を持ってきたのでしばらくは野宿しなくて済むだろう。


 とまあ、それは置いといて。


 俺は何故か頬を膨らませて不機嫌そうなアリルに話しかける。



「なんでお前は機嫌を損ねてるんだ? 屋敷を追い出されるかも知れないことはあらかじめ言っておいただろ」


「……納得できない。どうしてあのハゲデブは自分の子供である主様を家から追い出すの?」


「ハゲデブて」



 いやまあ、親父はたしかに毛が薄いし、脂っこいもんばっか食べてるから太ってるが。


 めっちゃハッキリ言うじゃん。



「私なら自分の子供は何があっても守る。仮にその子に非があるとしても、体面のために追い出したりなんかしない。一緒にごめんなさいする」


「ま、世の中そんなに甘くないってことだな」


「むぅ……」



 カタストロ伯爵領の別名は『劣等領地』だ。


 周囲を高い山脈に囲まれ、領内の殆どに魔物も出没する鬱蒼とした森が広がっている。


 一応、海に面してはいるが……。


 昔から海には大型の魔物が生息しているため、港や漁村を作ることができない。


 これらの理由からカタストロ領は貧乏なのだ。


 それでも親父は見栄や体面を気にして領民から税を搾取している。


 インフラ整備に使った方が有意義であろう少ないお金で行商人から高い調度品を買い、豪勢な食事を貪っている。


 前世の記憶を取り戻す前はそれが当たり前だったので何とも思わなかった。


 しかし、今なら断言できる。


 うちの親父はいわゆる悪徳領主に分類されるであろう貴族だ。



「しかも愛人が何人もいるからな。母さんが病気で死ぬ前からやりたい放題だった。ぶっちゃけ親らしいこともしてもらったことないし、血の繋がってる他人だな」



 まあ、そう思うのは前世の記憶を思い出したからかもしれない。

 前世の俺の家庭は裕福ではなかったが、馬鹿な話でわいわい盛り上がる家族だった。


 ちょっと懐かしい。


 前世の両親の顔がおぼろ気なのが少し悲しいが、そのうち思い出せたりするだろうか。



「ん。あのハゲデブがハゲデブクズということは分かった」


「ぷっ、悪口のオンパレードだな」



 と、親父の悪口を散々言ったところでアリルが真顔で問いかけてきた。



「ハゲデブクズが死んだら、主様が領主になる?」


「ん? なんでそんなこと聞くんだ?」


「何となく」



 妙なことを聞くアリルに俺は首を傾げる。


 しかし、アリルは気になったら答えが分かるまで知りたがる性格だ。

 ゲームのアリルとは少し言動が異なるが、おそらくこっちが本来の彼女なのだろう。


 こんなアリルが無口で自分の意見をあまり言わなくなってしまうとか、ゲームのシュトラウスはどれだけ酷い扱いをしていたのか。


 作中には明確な描写がないから分からないが、相当なことだろう。


 罪悪感でちょっと胸が痛くなる。


 その罪悪感を少しでも晴らすためではないが、俺はアリルの問いに答えた。



「貴族が家督や領地を継ぐには条件があってな。王都の学園を卒業しなくちゃいけないんだ。つまり俺じゃ無理」


「主様は領主になれない?」


「そうだ。で、条件を満たしている正統な家督の相続者がいないと領地は国に没収される。まあ、領主が行方不明になったら領主代行って形で家督相続者が現れるまでその家の嫡男が領地を任されるらしいが。その嫡男がいなくても国に没収されるな」



 俺には関係のない話である。



「っと、雑談はここまでだ。今日は近くの村で宿を借りて泊まるが、下手したら領主の息子ってことで襲われるかもしれない。護衛を頼むぞ」


「ん。主様は私が守る。邪魔する奴は消す」



 ちょっと物騒なことを言うアリル。


 いやまあ、慕われていること自体は悪い気はしないがな。


 どこかアリルに危ないものを感じて、俺は少し背筋が冷たくなるのであった。






 

―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「遺伝子は残酷だと誰かが言った」


シュ「手入れすれば大丈夫。多分、きっと、絶対」



「アリルが急に怖い」「将来ハゲる主人公は草」「まだ諦めちゃいけない」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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