〈二跳〉
私が眠ることを諦め、黒塗りされて鏡の役割を果たしている窓ガラスで自分の疲弊した顔を眺めていると、私の後ろで眠りとの蜜月を堪能して目覚めたカエルさんが写った。
カエルさんは大きな欠伸をして身体を少しくねくねさせた後、コンビニの袋から缶ビールを取り出して飲み始めた。カエルはアルコールを摂取しても問題ないのだろうか?あいにく私はカエルの知識をそれほど持ち合わせていなかった。頭にあるのは笑顔の作り方と各企業の情報、あとは何度も練習したエントリーシートの内容くらいだ。脳に詰まっているもののくだらなさに吐き気がした。こんなものを詰め込むぐらいなら、カエル語でも詰めて置けばよかったと思った。
ビールは私の好物のひとつだった。大学2年生の頃、私は暇さえあれば友達と飲みに出かけた。お酒の中でもビールは特別好きだった。喉越しなんてものはよく分からなかったけど、ストイックでストレートな告白のような、そんな感じがした。就活を始めてからお酒はやめた。大学へ通う必要がなくなり始めてからは友達とも距離を置いた。彼女たちは何度も私を誘ってくれたし、気遣ってくれていた。だから、不仲になった訳では無いけれど、私と友達との就活への熱量にはスピリタスとほろ酔い冷やしパイン味ぐらいの差があったのだ。どちらが良いとか悪いとかじゃない、価値基準と事情が違うだけの話。それで私達はこれといったことも無く疎遠になった。彼女たちは今もどこかでお酒を飲んでいるのだろうか。
お酒は飲んでいないのに、心の奥の方が僅かに熱を帯びた。昔の思い出が蘇り、平凡で良識的な人間へと作り替え冷凍保存されていた身体を温める。
私にも大好きな友達がいたのだ。くだらない冗談を言い合い、どこの誰が別れただの、あのサークルは怪しいだの、そういう生産性のない一般的な会話ができる友達が。
私にも好きなお酒があったのだ。ストイックでストレートな告白をするような、そんな感じのお酒が。
カエルさんは1缶をゆっくりと飲み終えたあと、満足そうに喉をコロコロと鳴らしていた。
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