夜を這う・カエルは眠る
雪
〈一跳〉
カエルが寝息をたてている。げえこげえこ。
深夜22時間。太陽が日本での業務を終え、次の現場に向かった後、渋谷では夜空の星々の代わりに人工的なLEDが街を不健康に彩っていた。
私は東京本社で行われた企業説明会の帰りの夜行バスに揺られながら眠りを忘れたその街を眺め、同情する。私と同じだ。
私の隣には今、カエルが座っている。私自身、自分で何を言っているのかは分からなかった。きっと疲れているのだろう。でもそれは事実として存在していた。駅前でしゃがれた声で社会への不満を歌う青年のように。縦社会の会社員が上司に媚びへつらうように。夜行バスがガソリンを飲んで夜を這うように。カエルは私の隣で静かに寝息を立てていた。
カエルさん(敬意を込めてこれからはそう呼ぶ)の安らかな眠りを見て、羨ましいと思った。私はこの1年、まともに眠りに着けたことがない。就職活動というものを初めて以来、私の睡眠時間は下降を続け、眠れたとしても夢の中の私はぴかぴかの戦闘服を来て同じような見た目のライバルたちと生産性のない一般論を交わしていて却って疲れが溜まった。だから、常に意識しているせいでガチガチに張りつめた私の肩とは裏腹に、その柔和ななで肩を上下に揺らすカエルさんに憧れ、睡眠に嫉妬した。バカみたいだ。きっと疲れているのだろう。
眠ろうと思い瞼を下げたけど、睡眠はカエルさんにぞっこんだった。
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