CaseⅠ 有名財閥跡取連続殺人事件
1.初対面は実に悠長で。
チリンチリン…
こぢんまりした室内に、ドアに付けられたベルの音が響く。
室内は薄暗い。ソファー席の下の辺りについている蛍光灯が、ぼんやりと空間を照らしいている。電灯もよくわからないけど高級そうだ。
指定された場所の外見が、あまりにこの都会の街に反してボロ…古めかしい雰囲気だったので入るのに゙躊躇したけれど、中を見回してみると如何にも高級レストランと言わんばかりの内装だ。
ぼくが中に入る扉の音に応えてか、一人の細身のウェイターがこちらにやってきた。
「ようこそ、ファミリーレストラン『シレンジオ』へ。1名様ですね。ご案内いたします。」
茶色を貴重としたウェイター服に身を包んだ執事っぽい人は、夜遅くに来た僕に対しても丁寧な物腰で迎えてくれた。
姿勢をただし、銀色のプレートを片手で持つ彼のネームプレートには明朝体で『
見た目は、メガネを掛けた優男といった感じだろうか。体格は大学生のだけど、いかんせん体つきが細い。骸骨ほどまでは行かずとも、少し不安になる体格だ。だからこそいい意味でも悪い意味でもウェイター服が似合っている。
ぼくは辺りを見回す。人気のない静けさに、ゆったりとしたBGMが乗せられてくる。このレストランは雰囲気がいい。ぼくでも分かる。
でも、夜真っ盛りのこの時間帯に店内が閑散としているのを見るに。どうやらこの『シレンジオ』というレストランは、年中閑古鳥が鳴くレストランのようだ。
そんなレストランにただの一般人であるぼく、
道を聞きに来たわけではないし、ましてや晩ごはんを食べに来たわけでもない。
名探偵のお使いである。
宮城というウェイターはにこやかな顔になりながら、ぼくの言葉を待っている。少しもっさりとした髪の毛が、空調の風に揺れている。なんとも呑気そうな顔。
(…この人が、あの名探偵なんだろうか…)
ぼくは心配を覚えながらも、一言も喋らずに自分のポケットの中を弄り、一枚のコインを手渡した。
百円玉ほどの直径をした、如何にも古めかしそうな貨幣。
ここに来る先でネットで調べたところ、竜一銭銅貨というものらしい。
値打ちも平均的に見れば、一万円も届かない程。そこまで貴重なものではない。
にも関わらず、名探偵は御駄賃としてそれを要求してきたのだとか。
「…」
「…」
店の中で、ゆったりとした沈黙。
やはり、ウェイターの癖っ毛はゆらゆらと揺れている。夏も終わりの時期とはいえ、温暖化のせいで夜間でもかなり暑いのが今の東京だ。空調を強めにつけるのも当たり前である。
「ああ、なるほど。ご依頼の方ですか。ええ、ええ。分かりました。ほう…なるほど竜一銭銅貨…保存状態も実にいい。なるほどなるほど、よぉく分かりました。差し詰め貴方は私と同じ下請人ということも。」
「なっ…?」
「おっと?驚かせてしまいましたか。失礼、こんな若造が人を小馬鹿にするような話し方をしてしまって。どうも僕、読み物を読みすぎるフシがありまして、僕の癖に刺さる言い回しがございますとソレが感染ってしまうんですよ…困ったものでして。最近、大学の図書館に新刊が入ってるんですよ。おや?疑ってます?何だったら後でウチの相棒にでも僕の事、聞いてみて下さい。いくらなんでも、N◯RUTO全巻を徹夜で一気見するなんて無茶だと昨日僕に叱ったことも、彼女は話してくれるはずです。おっと、こりゃまた失礼。立ち話もなんですね、お席へご案内致します。」
「…」
な、何だこの人…
さっきの物静かな印象を称えたスラリとした青年はどこへやら。
聞こえてきたのはなんだか昭和を感じさせる小説口調と、ソレに伴ってマシンガンのように連射される言の葉。
人の印象はこうも容易く崩れるのかと、気が引けるのを通り越してむしろ関心さえ生まれたほどだ。
そんな奇妙なエセ執事は、またにこやかに笑いかけてくる。ちょっと背中が凍った。
…話の内容も、この男の事も訳が分からないが、きっとこの人があの名探偵なんだろう…多分。
ぼくが何も言ってないのに、自分がお使いを頼まれただけのただの下っ端だということを把握している。僕が主人と呼ぶ御方が、依頼内容は一切伝えていないと私に伝えてきたことを覚えている。
……名探偵。
推理小説における花形。それこそ、今の情報化社会の世の中だ。コナン・ドイルの『ライオンのたてがみ』だとか、江戸川乱歩の『黄金仮面』だとか。そんな物語の中に現れ、警察でも音を上げるような無理難題、奇想天外、摩訶不思議な事件を颯爽と解決する、智慧のヒーロー。
しかし、その存在はあくまで作者の、一人の人間の妄想でしかないのが事実だ。現実の探偵事務所が行うのは、浮気調査だったり人探しが殆ど。推理小説のような事件は全て、国家機関である警察の下へ届けられ、現代技術や膨大な人力を尽くして無事に解決を迎える。
もちろん僕は警察及び現実の探偵と呼べる職業やそのシステム、その仕事内容にケチをつけるつもりは毛頭ない。がしかし、いかんせん夢がないのが現状である。
ぼくは、ウェイターの後ろに従ってテーブル席に案内された。
このお店には、バーのような雰囲気のカウンター席と、ぼくが案内された家族、大人数向けのファミリー席があるようだ。
しかし、やけにしっかりした席だとぼくは感心した。美術や芸術にドがつく程の無関心さに定評があるぼくだが、全体的に落ち着いたようなシックさを感じる。
ソファの座り心地も素晴らしく、机も樫の木のきれいな木目が見え、ダークな雰囲気を醸し出しているのが分かる。
ソファに座る。
座り心地も良い。もしかしたら、このレストランは過疎ってるというわけではなく、隠れた名店だったのかもしれない。
そう考えるぼくを尻目に、宮城というウェイターはぼくに声を掛ける。
「この時間帯、というかいつもの話ですが、まっっったくもって人はいないので。密談をするにも困らない場所だということはありがたく感じていますよ。」
「やっぱり過疎ってるだけだったか…」
「おやおや?やっと言葉を発してくれましたね。ふふふ。いい声をお持ちのようです。私じゃなければ、貴方が男の子とは気づかなかったでしょうね。男性はどれだけ声が高くとも、肺のあたりで声を響かせるという特徴は変わっていないということをもちろん知った前提での推理ですから。おっと!!いけないいけない。今の世の中はジェンダーに厳しいものですから、決めつけはよくありませんでしたね。失礼。」
「ああ…えっと…その…あ〜、ぼくは性自認は男なので…大丈夫だと思います…ハイ…。」
「そうですか。それは良かった。あそうそうそういえば。今日シェフがま〜た余計な物品を発注しましてね?私に対する賄いをこれでもかとつけてもまだ余る量なんですよこれがまた。というわけで、少しばかりその消費のお付き合いをしていただけないかな〜と。」
「え…」
「大丈夫ですよ〜!金遣いの荒すぎるシェフですが、腕前だけはこの日本、いや世界の中でもトップに入るほどのものですし。それに、ちょっとした軽食のようなものなのでこの時間に食べても罪悪感なしですよ♪」
「え、あ。…その…はい…」
「ふふふ。有難うございます。では少々お待ち下さい。おっと、その前に。」
胡散臭い口調のウェイターは一枚の紙と、ペンをコトリと机の上に置いた。
何の変哲もない、本当に何処にでも売っていそうなペンと紙。重厚さを感じるこのレストランに似合わないその蛍光色が、光を反射する。
「その紙に今回の事件の概要を簡単でいいのでお書きになってお待ち下さい。」
「え…では、やっぱり…」
「ふふふ。そういえば自己紹介がまだでしたね。っと今更ですがさっきまでの私、だいぶ不審者じみていたのでは…?急に推理を叩きつけたり、在庫消費を押し付けたり…あぁ、私の悪いところがどんどん出てきましたね。初対面のお客様には、できるだけ仮面を被って接するようにしているのですが…今日はどうもうまく行かない事が多い日のようです。それも今まで以上に、格別に。…アハハ。もしかして今日のこの事件が、一つの契機だったりするのでしょうか…?それはそれで、運命を感じてしまいますね。ええ、そうでしょう?ええっと…」
「あ…あの…ぼくは西馬更樹といいます。」
「…オット失礼。またやってしまいました。ふふふ。こんな私の名前は、宮城諒と申します。」
もったいぶった口調で彼は自己紹介した。
「そしてようこそ、探偵事務所『シレンジオ』へ。」
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壮大な感じ醸し出してますが、チャンとエタります。
更新は一ヶ月単位でない可能性があるのでご注意を。
書きだめはしたくない…したくないよ…
でもちゃんと続くから!ホントに!!今回は結構練ってきてr()
次の更新予定
30日ごと 23:00 予定は変更される可能性があります
探偵レストラン『シレンジオ』 COOLKID @kanadeoshi
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