第5話 私は何者なの?

私は、しばらくの間、両手で顔を覆ったままだった。


今の状況、そして、私自身のことが分からず混乱していたから。


エヴァン「メイ……。くそっ!あいつ、メイを襲うなんて!」


ディル「落ち着けよ、エヴァン。」


ニコラス「そうだよ。怒鳴ったりしては駄目だよ。メイが不安がるよ。」


エヴァン「そうだな。ごめん、メイ…。」


コンコン。


ノックと共に、アランが部屋に入ってきた。


アラン「メイ……。今夜は俺達がいる。安心してくれ。」


「……大丈夫。少し混乱していて………。」


私はベッドで体を起こすと、4人を見た。


「私……みんなの名前も分からないの。4人のこと、安心できる人達だと感じているけど……記憶がないの……。」


ディル「聞いているよ。簡単に俺達の自己紹介をしよう。俺はディル・ハリディ。35歳だ。」


短い金髪の騎士は、ベッドの側の椅子に座った。


アラン「俺はアラン・デインズ。メイと同じ20歳だ。」


黒髪の騎士も、近くに椅子を持って来て座る。


エヴァン「俺はエヴァン・フィンドレイ。22歳。」


茶髪の癖毛の騎士も椅子に座る。


ニコラス「僕はニコラス・ネヴィル。僕も20歳だよ。僕達はメイの幼馴染だよ。」


金髪の癖毛の騎士は椅子に座りながら微笑んだ。


みんなの名前を聞いても、記憶は戻ってこない。


ディル「さっきの騎士はマイルズ・ウェルティ様。アミーリア様の護衛騎士だ。……ちなみに、俺はメイの師匠でもある。」


「師匠?何の?」


ディル「格闘技。主に護身術のな。」


「本当!?」


私が驚くのを見て、みんなは悲しげな表情をする。


アラン「……何も覚えていないんだな。」


「ごめんね……。」


アラン「悪い、メイを責めているんじゃない。」


ニコラス「そうだよ。メイがアミーリア様を庇って階段から突き落とされたと聞いて、心配しているだけだからね。1日近く目を覚まさなくて、メイが死んでしまわないか……怖かった。」


目を伏せるニコラス。


「心配かけてごめんね。」


すると、勝手に目から涙が流れてきた。


「あ、あれ?涙が……。」


エヴァン「メイ……。」


エヴァンが私の頭を優しく撫でる。


「おかしいな……。体と感情がバラバラみたい。泣きたいわけじゃないのに……。」


ディル「メイ。記憶がないというのは、とても不安なことだと思う。でも、俺達が側にいる。俺達は、メイの記憶があってもなくても、メイを大事に思っているよ。」


「………うん。ありがとう……。」


涙が次々に流れ出す。


ディルはベッドの縁に腰掛けると、私を引き寄せて抱き締めた。


ディル「俺達の前では、どれだけでも泣いていい。記憶がない不安な時に男に襲われ、怖かっただろ?」


「私は………私は…………。」


私はディルにしがみついて泣いた。


「私は……何が何だか…分からないの………。怖かったのか……悲しかったのか……怒っているのか……。」


ディル「あぁ……。」


「私が何者かも………分からない………。」


ディル「あぁ……。俺達がいる、大丈夫だ。」


「うん………。」


そうして、ディルに抱き締められたまま眠ってしまった。


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