第3話 残っている記憶と抜け落ちた記憶
再び目が覚めると、私の寝かされているベッドの側には、何人かが立っていた。
医者や看護師ではない。
きれいなドレスを着た15〜6歳の金髪の女の子。
その女の子を護衛するかのように立っている黒髪の30歳くらいの男の人。
40代後半の金髪の男女。様子から、夫婦のようだ。
そして、25〜6歳の金髪の男の人。
「メイ?気が付いた?」
金髪の女の子が、私のベッドの側に跪くと、私の手を取り握り締める。
「あなたは…あなた達は誰ですか?」
ここにいる人達の名前はおろか、どんな人達なのかも全く分からない。
「メイ!記憶がないの!?」
「メイ?それは、私の名前なのですか?」
「あぁ……メイ………。」
40代後半の女性が、その場で崩れ落ちる。側で支える男性。
「メイ……。」
25〜6歳の金髪の男の人も、悲しげな顔をする。
「私の…私のせいで………メイが…………。」
金髪の女の子は、両手で顔を覆い泣き出してしまった。
「泣かないで下さい。なぜだか分かりませんが、あなたが泣くと、私も悲しくなります。」
金髪の女の子と私の関係は分からない。でも、女の子が悲しむと、私も悲しくなる。
「メイ……メイ……。うぅっ……。」
「アミーリア様、メイ嬢を休ませてあげましょう。」
女の子を護衛している男の人が声をかけると、女の子は立ち上がる。
「ブリッジズ夫妻……申し訳ありません。メイは私を庇って怪我を負いました。私ができることは何でも致します。メイが回復できるように、あらゆる手を尽くします。」
アミーリア様と呼ばれた女の子は、40代後半の夫婦に向かって頭を下げる。
「アミーリア様!頭をお上げください!王女である貴方様が頭を下げてはなりません。」
ブリッジズと呼ばれた男性が声をかけると、アミーリア様は顔を上げる。
「………分かりました。」
「メイはアミーリア様をお慕いしておりました。アミーリア様を守ることが出来て、本人も満足していると思いますわ。」
ブリッジズ夫人もアミーリア様に声をかける。
「アミーリア様、そろそろお部屋にお戻り下さい。」
「メイ………。ゆっくり休んでね。また、来るわね。」
「はい。ありがとうございます。」
護衛に声をかけられ、アミーリア様は部屋を出て行った。
それから、医者と看護師がやって来て、様々な質問をされた。
そうして、私が記憶喪失なのだと分かった。
自分や家族を含む人の名前、関係性を全く覚えていないようだ。
この世界での生活の仕方は、何となく分かるみたいだけど、分からないこともあるみたいだ。
覚えていることは、どうやら私はこの世界で育った人間ではないようだ。
なぜかと言うと、鏡を見て自分の姿を見た時、違和感を覚えてしまった。
鏡に映った姿は、ウェーブのかかった金髪の20歳くらいの女の子の姿だったからだ。
詳しい自分の姿は思い出せないけれど、黒い髪の30代後半だった気がする。はっきり思い出せないけれど……。
点々と存在する記憶。
その一つに、転生するという物語を読んだ記憶。
今の自分に当てはめると、しっくりくる気がした。
元の自分も、この姿の自分も、何者なのか分からない。
私は、また意識を失った。
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