私はJK。壺が来る。皿が来る。

燈夜(燈耶)

私はJK。壺が来る。皿が来る。

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私はJK。壺が来る。皿が来る。

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それは登校中の事だった。


おおお、おおおおお。

壺を頭に載っけたJKがいる。

なんだなんだ、何かのパフォーマンス? それとも撮影か!?


しかし、動画を撮っているような取り巻きはどこにも見当たらない。


その壺は白く、色鮮やかに蒔絵が施されたものだ。

一目見て、高級品。

ほら、「なんでも鑑定団」に登場しそうな美しさの中にも気品のある代物だ。亀

ああ、壺というべきか|甕≪かめ≫と呼ぶべきか。


と、まあそんなことはどうでもいい。

JKの頭が少し揺れた。

すると壺の中に入っているのであろう、水っぽい液体がチャポンチャポンと音をたてては歩道にこぼれてシミを作る。


うん。

何か不思議なものを私は見ている。


ああ、私もJKだ。先に行く彼女と同じ制服を着ている。

ただ、一緒にしないでほしい。

私はアフリカか東南アジアの女性たちのように、頭に水の入った容器を載せているようなことはしていない。


私が持っている持ち物は、潰れた革鞄にスマホ、そして痴漢撃退用のスプレー程度のものである。


しかし、前を行くJKはアホなのか。

彼女は実に自然にドでかい壺を頭の上に載せている。


うん、私はそのJKから、視線を離せない。

だって、前行くJKが、あまりにもキ〇ガイ過ぎるから。








朝の教室。

私は自席に座ると、登校時のことを思い返していた。

何をって?

そんなことは決まっている。

朝の変人JKのことだ。

まあ、通称壺女とでもしておくか。


と、チャイムと共に担任が教室に入ってきた。

そして、続く影がある。


そう、その女生徒は異様に身長が高く──おぇい!?


「ええ!? まさかの壺女!」


私は叫ぶ。

そう、担任が引き連れてやってきたのは朝の変人、壺女だったのだ。

いまもチャポンチャポンと、揺れる水の音がする。


その異様な光景に、クラスのみんなは──無反応。

私は見る。

右、左、前、後ろ!


しかし、クラスメイトは無反応。


「どうしたのよみんな!」


私は叫ばずにはいられない。


でも、それでも。

私はもう一度見る。

右、左、前、後ろ。


──誰も反応してないんですけど!


「名前をお願いね?」


担任の女教諭が壺女に促す。


「──」


壺女は実に普通に名前を述べた。

で、そこまでは良かったが。


ザンブ! と頭の上、壺の中の水が豪快に零れる。

彼女が一礼したのだ。


「え、ええー!」


叫ぶ私。

そして沈黙の、いや、何事も起こってないような、そよ風さえ吹き出しそうなクラス。


な、なぜみんなは動じないの?

異常、異常でしょ?

あの女、壺女は普通じゃないよね!?


私は絶叫したくなる。


「あ、──さんはあの空いてる席にお願いね?」


担任が壺女を促した。

なんだか青い顔をしている。


「先生、クラクラします」

「え? そうなの? じゃ、〇〇さん、彼女を保健室に連れて言ってちょうだい」

「はあ!?」


私はつい大声を。

そう、示されたのはクラスメイトの私だったのだ。









「〇〇ちゃんだっけ、付き合わせて悪いね」


壺女が何か言っている。

相変わらず、顔色は青い。


「え、ええと、調子が悪いの? なにか病気? それとも寝不足? 転入初日だから、緊張でもした?」


と、私は警戒スマイル。


「ええとね、お水を入れないと」


は?


「水? 保健室でしょ?」

「ううん、水」


と、壺女は頭の上の壺を指差す。


ああ、先ほど豪快に零したから……じゃ、ないでしょ!


「水道どこ? お手洗い?」

「はあ」


溜息。

私はこのキ〇ガイの言葉に、飽きれることさえ忘れた。





 ◇





ジャー!


ここは洗面所。

壺女が、壺を下すと中に水を補給し始めた。


「悪いね、〇〇ちゃん」

「え、ええ」

「この壺大きいんだよね。水がたまるまで、ちょっと時間かかるなあ」

「は?」


 私はまたもキ〇ガイの言葉を聞いた。

 だいたい、なんなのだあの壺は!


「ねえ、その壺って何?」

「命の器。ハイラルでリンクが集めて回るやつ」


 私は耳長族が悪者を倒して回り、姫を助け出すアクションRPGを想起して。


「あ、ハイ、そうですか」


 と、答えるも。

 私は続く言葉を失った。


 キュ!


 壺女が蛇口のを閉める。


「お待たせ! それじゃ、よいっと!」


 と、壺女はまたも壺を頭の上に……。


「あ」


 壺女の短い声。


「え?」


 壺女は手を滑らせた。

そしてそのまま巨大な壺は私めがけて倒れてきて。


ガシャーン!


 と、豪快に割れたのだ。

 そう、私をずぶ濡れにして。

 無論、壺女もずぶ濡れだ・


「痛いし冷たいし!」


 私は抗議。

 そう、壺女の顔を見て……って、緑!? 緑、壺女の顔が緑なんですけど!


私は指さしながら、腰を抜かす。

塗れた床に、下着にまでしみ込んだ水が気持ち悪い。

しかし、そんなことを言ってる場合じゃない。


今はコイツのことだ、壺女、いや、肌が緑の化け物女!


「あなた、み、緑……」

「お化粧が融けちゃった」


 黙れ。

 っていうか、本物の化け物!?

 緑の顔が私に迫る。


 もう、これじゃ完全にホラーじゃないの!!


「あなた誰、いえ、何者!?」


 震える声で、私はようやく繋ぐ言葉を紡ぎだす。


「えーとね」


と、壺女改めUMAが鏡を指さす。


「えー!」


 私はそれを見て、本日数回目の悲鳴を上げる。

 緑の顔の口には、鳥のような黄色いくちばしがあったのだ!


「な、な、ななななな!」

「あはは、ばれちゃった」

「あなた誰! あなた何者!?」


二度目である。

今度は私がUMAを指さす番だ。


「よく聞いてくれました、私は筑紫次郎に住む、カッパだよ! 可愛いでしょ!」


いや、不気味だよ。

私は生唾を飲み込んだ。


「カッパのカパックと呼んでね?」


カパックは右手を差し出す。

濡れた緑色の、水かきのある手で。


「いや断る!」


私は全力でUMAの友好的な挨拶を否定する。


「あはは、〇〇ちゃんって、遠慮しちゃってもう! 可愛いんだから!」


と、UMAは言葉を紡ぐ。

で。


その緑の顔が再び青くなる。


「うーん、余所行き百万円の有田焼の壺より、普段着のダイソーの百円皿が良かったのかな」


などと言い出し、どこからともなく白い陶器の皿が現れる。

高価であろう有田焼の破片には目もくれず、UMAは頭に皿を装着。

またも水道を捻ると皿に水を注いでた。


うん、実に自然なその動作。

まあ、狂気に染まったUMAの挙動と言動に、慣れつつある私の神経が恐ろしい。

私は自分が恐ろしい。


「〇〇ちゃん」


私は気絶しそうになっていた精神を何とか正常に持っていき。

そして私は再び目を見張る。


緑の化け物が消えていた。

顔色の悪いJKの姿もどこにもない。


教室で見た、一目で美形とわかる、頭に皿を載せてなければ美人で通る、キ〇ガイ壺女改め皿女がそこに立っていたのだ。


「ね、〇〇ちゃん。私たちはお友達だよ?」


と、皿女が右手を再び差し出してきて。


「はあ」


私は何もかも諦めて、差し出された手を取った。

うん、ぬめりもなく、ほんのり冷たくて気持ちいい体温。


で、私が握手したまま手を上下に振ると。


「あ」


と皿女が何か言った時。


「あ゛!?」


と、私の右手は皿女、いやカッパの腕を引き抜いて。


「あー、お手手が取れちゃった」


右腕と左腕がくっついた、その大根のように真っすぐな皿女の両手を私は凝視して。


「〇〇ちゃん?」


皿女が何か言うも、私の意識は暗転していた。


はなしによれば、私がこの皿女に連れられて保健室に向かったらしい。


──気絶居ていた私は何も覚えてないが。


うん。





 ◇





次の日の事である。


「ねえねえ〇〇ちゃん」


私はあれから皿女に付きまとわれて。


血色の良い皿女に引き換え。

私は眩暈さえ覚えて、体力も精神力も擦り減らし。


「カパックってさ、カッパなんだよ?」

「あー、もう、私はあなたの正体なんて、どうでもいいから」

「でね、〇〇ちゃんは相撲好き?」

「え? お相撲さんの名前も知らないよ」

「え!? 横綱が誰かも知らないの!?」

「私はJKだよ? そんな趣味はないなあ」

「え! 日本人って相撲観戦したり、自分でも相撲大会に出ないと人権が認められないんじゃなかったの!? まあ、カッパには関係ないけど」


「でね、相撲に勝つと、尻子玉がもらえるんだ。好きな子の尻子玉を取っていい権利を長老様から貰えるの」


ああ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛。


私の正気と日常が消えてゆく。

ああ、ゴリゴリと精神力が削られる。

はあ、そういえば正月の御神籤は凶だった。

でも、『一生モノの良き友人に出会う』ってのは覚えてる。

まあ、こんな季節までそんな気配もなかったので完璧に忘れていたけど。


「はあ」


と、私はまたも溜息。


「──だからね、〇〇ちゃんの尻子玉貰うね!」


と、皿女がまたもキ〇ガイのセリフを吐き出した。


そして私が身構えるのより早く、皿女が私のスカートをめくりあげ、股間に手を突っ込んだ!


「ぎゃああああああああああああああああああああ!」


もう、マジ大声である。

マジ、ナイナイ。

お願い助けてプリーズ。

もう、こんな仕打ちには私、耐えられない。


でも、私の耳は、この変態皿女のキ〇ガイそのものの言葉を聞いた。


「無い、無い、無いよ? 〇〇ちゃんのタマタマ、どこにもないよ?」


 はあ!?

尻子玉ってとられると死ぬんでしょ!?

それがないってどういうこと!?

もしや、私ってこのUMAに目を付けられるより早く、死神や鬼に殺されてたってこと!? どんなオカルトよ!


って、この変態皿女、股間をまさぐるなぁ!!


 私がくすぐったさと恥ずかしさで悶えていると。

 こんな戯言が聞こえてくる。


「無い、無い無い! ねえねえ、〇〇ちゃん、どうしてタマタマないの!? もしかして、〇〇ちゃんってオナノコ?」


キ〇ガイ改め変態は、言うに事欠いてアホなことを言い出した。


「私は女の子! このキ〇ガイ、私もあなたも女の子よ!」


 と、そこまで私が言うと、変態女が私のスカートの中から手を抜いて。


「そっか、〇〇ちゃんはオナノコだからタマタマ……尻子玉ってないんだね」

「はあ?」

「人間の尻子玉って見たことないから、どんなものかなあってずっと想像してたんだけど、カッパのみんなも詳しいこと教えてくれないし」

「そ、そうなんだ」

「うん、みんなもタマタマ、タマタマ、しか言わないんだ」


私は命と貞操の危機から逃れ、このキ〇ガイのセリフの中に光を見出し安堵した。


──ああ、神様ありがとう。この変態UMAが底抜けのバカで。









また、別の日のことだ。

ここは回転寿司のカッパ寿司。

変態皿女ことキ〇ガイに、食事に誘われた。


その時私が思ったのは、「ああ、UMAでもご飯食べるんだ」ってこと。


「かっぱ巻き! ニンニクマシマシ、ネギだく、バリ固麺をごっつ盛で!」


皿女が何か言っている。

あのね、ここは寿司屋なんだけど。


と、メニューを見て「ラーメン」とあるので、あながち間違ってもないが……でも、そのオプションって通るの?

注文用の液晶画面のどこをいじっても、そんなオプションは見つからないんだけど。


てか、かっぱ巻きでしょ?

キュウリをまいただけの巻き寿司。


かんだ時の感触が、「カリッ」として美味しいという意見には賛成だけど。


「でね、〇〇ちゃん、この寿司屋ではカッパ仲間が、同胞が昼も夜もなく、奴隷のように働かされてるんだ」


アウト。

都市伝説にもならないくだらない冗談。

でも、わつぃはこのキ〇ガイに答えてやる。


「そう?」

「うん、そうだよ!」


と、皿女が自分の頭をぶんぶん振るものだから、皿から水があちらこちらに飛び散って。


「あああああ。命の水が!」


と、途端にうろたえ始めるUMA。

でも、私が呆れていると。


「こんなこともあろうかと!」


と皿女は予備のプラスチック湯飲みを取ってはお茶用の熱湯を注ぎだす。


「これで」


と、顔色を青くし始めた皿女の目がキラリと光る。


「はあ? まさかあなた」


──それを頭の皿にそそぐ気じゃないでしょうね──!


って、その通りだった。

キチガイは湯呑をグイっと上に上げるや、熱湯を頭の皿に注ぎ込んだのだ!


「あ゛つ゛い゛!?」


 皿女が叫ぶや湯呑をそのまま投げ捨てる。


「当たり前でしょ!?」


と私はそのボケに突っ込んだ。


で、私たち二人の上から降ってきた声がある。


「──ちょっとお客さん」

「「え?」」


私たちの席の横、廊下に立つ店員さんが一人。

その方の表情は、気のせいかこめかみに血管を浮き出させていて。


「何か言うことはありませんか、お客さん」


と、声も低く、朗々と。


「「ごめんなさい」」


変態と私は陳謝した。


──まあ、当然のように私たちはその店を、以後出入り禁止になったのである。









「ねえねえ〇〇ちゃん」

「なに?」


もう、慣れ過ぎた登校風景。

私は隣に皿女を相手に言葉を交わす。


致命的な付き合い……いや、友達……かもしれない関係に私たちは見られているのであろうか。

しかし、尻子玉の件もある。


心を許してはいけない──の、前にこのキ〇ガイの行動を予測できるようにならないと、なんだか私一人どころか人類のピンチのような気がするのは気のせいか。


うん。

ま、そんな難しいことはどうでもいいか。


今日は晴れ。

明日も多分晴れ。


そう、私の心も天気と同じで最近は、とても落ち着いてきたんだ。


うん、先ほどの思いと真逆だけど、私にも良い友達が──おバカだけど、できたから。






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