第29話 洞くつの中で

魔物が村を襲って壊滅的な状態になり母、ジェフさん、エラさんと死んでしまった。


父は残念ながら見つからなかった。


あのまま村に居ては危険なのでテルとリズちゃんと一緒に


川を越えた先にあるという洞くつに向かっていた。


川を越えた先は森でさらにその先は山だって言ってたよな、危なくないんだろうか?


〈ねぇテル、この辺りは危険じゃないの?〉


〈危険か危険じゃないかはそれぞれの判断基準があるから難しいにゃ、


でも魔物はでるにゃ〉


まぁそっかテルにとっては危険じゃなくても、


ぼくにとってはすごく危険な場所なんだろうな。


〈そっか、テルにとっては大丈夫な場所なんだよね?〉


〈このあたりはそんなに強い魔物はいないから大丈夫にゃ〉


テルがそういうのなら大丈夫なんだろう、


ルクシアンとの戦闘を見ているからテルの強さは知ってるし。


しかし移動も早いな・・・


たぶん背中に乗せてるから気を使ってゆっくり走っているんだろうけど、


それでも僕たちの移動速度の何倍も速い。


そして川は流れをものともせず、2人を背中に乗せたまま


一気にジャンプして飛び越えた・・・驚くほど優雅だった。


すごいな、ほんと。


川を越えて森の中へ入っていってたがスピードはそのままだ。


自分が走っても出せないスピードで背中に乗っているので


少し怖いけどここは我慢しなくては・・・。


そうして洞くつに着いた。



テルの背中から降り、リズちゃんも優しく抱き上げておろした。


人生初お姫様だっこだが特に感動はないものだ・・・


する方じゃなくてされる方がうれしいものなんだろうな。


テルが洞くつの中の様子を確認してくれた。


〈魔物はいないにゃ、ここでしばらく休むにゃ〉


ずっと緊張状態が続いて疲れをあまり感じなかったがここに来て限界かもしれない。


村の西側にある川を越え森の中にある洞くつだが


テルがいてくれるから大丈夫だろう。


思った以上に洞くつの中は広く臭いも特に気になる感じもない。


コケみたいなものが壁に生えていてそれが光を発している。


なんとも幻想的な雰囲気だ。


洞窟の中って真っ暗なんだと思っていたけどそうでもないんだな。


リズちゃんを洞くつ内に寝かせてあげて、自分も腰をかけた。


かなり疲れていたらしく、そのまま目の前が暗くなり意識を失ってしまった。



「マーちゃん、マーちゃん?、マーちゃん大丈夫?」


どこからか声が聞こえる気がする、これは誰の声だっけ?


ん・・・リズちゃんの声か・・・


いつも優しくて暖かい声だな。。。


「マーちゃん、マーちゃん?」


目を開けて周りが見え始めてきた、あれ?リズちゃんがいる?


なんだっけ・・・ここはどこだっけ?


え~~と、あぁそっかテルが連れてきてくれた洞くつの中か。


さすがに夢でしたはないよな・・・


好きな漫画の最終回が夢オチだったとき物凄くがっかりしたが


今日はむしろ夢オチであってくれと願ったが


当然現実はすぐに僕に追いついてきた。



「リズちゃんおはよう?」


「すごい・・・うなされてたよマーちゃん」


リズちゃんが目に涙を浮かべ


自分のことを本当に心配してくれているのが伝わってきた。


「大丈夫だよ、心配してくれてありがとね」


「うん、ねぇマーちゃん、私気がついたらこの洞くつにいたんだけど、


どうやってきたの?」


そっか洞くつに来た時は気絶していたか覚えてなくて当然だよな。


「リズちゃんは夜のことはどこまで覚えてる?」


「森の中でルクシアン?が出てきて・・・


そのあと大きなトラさんがでてきたよね?


そこまでしか覚えてないのごめんなさい・・・」


「そっか、ルクシアンはそのトラさんというか


大きな猫がやっつけてくれて助けてくれたんだ」


「どういうこと?」


魔物が助けてくれたって言われても


いきなり理解できる人間はいないだろう。


「ん・・・とね、あのトラさん(猫なんだけど)は従魔なんだよ、


従魔ってわかる?」


「従魔?」


「そう従魔、魔物と契約してお願いを聞いてもらえるようになるんだよ」


「じゃぁあのトラさんはマーちゃんのお願いを聞いてくれる?」


なんでも聞いてくれるかはなぞだけどね。


「そうだよ、あのトラさんが東の森から


この洞くつまで僕とリズちゃんを運んでくれたんだ」


この説明で納得できるのだろうか?


普通ならツッコミどころ満載の説明だし


だいぶ端折りすぎてるよね


もう少し細かく説明した方がいいと思うんだけど・・・


「・・・うん、わかった、トラさんにお礼言わないとね」


本当はいろいろと聞きたいことがあるんだろうな。


でもあまり深い所まで聞いちゃいけないと察しているんだろう。


でもどこからどこまで説明すればいいんだろうか・・・


洞くつの入り口からテルがやってきた。


「にゃ~~~」


「あ!あの時のトラさんだ、トラさんが助けてくれたんだよね。ありがとう」


リズちゃんがテルに近寄り声をかけた。


「にゃ~~~」


え?にゃ~って、しゃべれない設定にしてるの?


あれ?頭の中に聞こえてくるだけで普通にはしゃべれないのか?


〈テルって声を出してしゃべれないの?


それともそういう設定にしておいたほうがいいの?〉


〈普通にしゃべれるにゃよ、しゃべっていいのかにゃ?〉


〈従魔契約したらしゃべれるって設定にすればいいんじゃない?〉


〈わかったにゃそうするにゃ〉



「リズちゃん怪我したところとか痛いところはないかにゃ?」


「え・・・しゃべった・・・よ?マーちゃん?」


いや、いきなりかよ!w


いきなり従魔とはいえ魔物にしゃべりかけられてびっくりしている。


普通話さないもんねっていうか、魔物と話す機会なんてないもんな。


「従魔契約したら話すことができる従魔もいるんだって」


「そうなんだ!すごいね!」


「にゃはぁ~~」


いや、そこは何か話せよ!


「マーティーそろそろおなかすいたにゃ~」


さすが駄天使の使い魔・・・いい感じで残念なやつだ・・・


空気は読めない系なんだな。


「トラさん保存食あるよ?食べる?」


リズちゃんがテルに保存食を笑顔で渡している。


「ありがとにゃ~やさしいにゃ~~」


しっかり餌付けされているな・・・さすがりずちゃん。


「リズちゃんその従魔はテルって名前だよ」


「テル君って名前なんだかわいい名前だね」


「にゃ~~~」


「ちなみに猫らしいよ・・・」


だよね?猫だよね?


そういえばそのあたりもまだ聞けてなかった


黒い猫って言われてたのに、どこからどう見ても


トラ猫というかトラなんですけど。


「え?猫?お、大きな猫さんなんだね」


「小さくもなれるにゃよ」


え?なにそれ、聞いてないんですけど・・・


そういう情報をちらほらぶっこんでくるのやめてほしいんですけどね。


「大きくてもかわいいよ」


「にゃ~~はぁ~~リズちゃんもかわいいにゃ~」


「ありがと」


なんだこれ・・・なんの会話だ・・・



なんだか変な会話になってしまったが、


村の状況や両親たちのことを話さないといけない。


話さないといけないけど、どうやって話なせばいいのか。


「リズちゃん、あのねリズちゃんのパパとママのことなんだけどね・・・」


どんなに誤魔化してもすぐにわかってしまうことだ、話すしかない。


「まーちゃん、それってたぶんいい話じゃないよね?」


できれば話したくはない、しかし黙っていても結果が変わるわけではない。


「マーちゃんの顔見ればわかるよ、ごめんね、パパとママ死んじゃったんだね」


前の世界とこちらに来てからの年齢をたせば26歳の男が


9歳の女の子に気を使われています。


情けないことこの上ない・・・ここまできたらちゃんと話さなくてはいけない。


「うん・・・でもなんとか遺体は見つけることができたんだ。


ただ魔物と戦闘していたからちょっと傷ついていて・・・


どうしようか、それでも見る?」


「見た方がいいよね・・・」


たとえ遺体とはいえ両親の最後の姿だ見たいに決まっている。


でも遺体を見たらほんとうに死んでしまったことを認めてしまうことにもなる。


どこかで嘘であってほしいと思っているはずだ、僕ならそう思う。


遺体を見なければ自分の中で行方不明になっていると


思い込むことだってできなくはない。


「そうだね、もし見るのが怖いのなら一緒にいるよ」


「・・・うん、マーちゃん一緒にいてくれる?」






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