第25話 東の丘 6
このタイミングで使い魔に会えるなんて・・・
もう少し早く、1日いや数時間だけでも早く・・・
わざとこのタイミングにしたのではないかと感じてしまうが、
今それを言っても状況は変わらない、
何か出来ることをしなくてはいけない。
「ママ!聞こえる?ママ!」
「・・・マーティー、ママの道具袋を開けてくれる?」
「道具袋?うん、わかった」
母親の腰に巻いている道具袋を開けて中身を確認したが
その中には魔力回復薬や薬草などと手紙?が入っていた。
「その中に手紙が入っているのわかる?」
「うん、手紙は入ってるけど今は回復薬を飲まないと
薬草もあるから使い方教えて!」
「その回復薬や薬草を使ってもこの傷の深さでは・・・治らないわ」
「そんなのやってみないとわからないよ・・・」
どうする?どうしたらいい?今の僕で何ができる?
たしかに回復薬や薬草じゃすぐには治らないような傷だが、
ここで血を止めるだけでも時間がかせげるだろう。
そうしたら村に運んで・・・ダメだ村には治療できる人はいない。
それなら隣の村?それこそ時間がかかりすぎる。
「いいのよ、もうあまり時間がないから聞いて、その手紙は遺書なのよ」
遺書?そんな・・・
「冒険者は何かしらの遺書はみんな書いてるものなのよ、
でもその遺書はちょっと変わっていて4人分書かれているのよ」
「4人分?」
「そう、パーティー全員分ね、遺書は普通冒険者ギルドに
預けていたりするんだけど、この村には預ける場所がないから。
それに自分の遺書を持っていても遺体が見つからないことだってあるでしょ?
だから一つの遺書にパーティメンバー全員の遺書が入っているのよ、
少し大変だけどそれを4部作ってそれぞれが持っていたのよ。
誰かが生き残れば遺書が残るでしょ?」
そうか前の世界のようにどこかに預けるような場所があればいいけど、
この村にはそんな場所はないよな・・・
信用できる人はパーティメンバーだろうし。
「私とパパとジェフとエラの遺書よ、
今、3人がどうなっているのかはわからないけど、
たぶん確認するのは難しいかもしれない。
だからその遺書をリズちゃんにも見せてあげてね」
「う・・・ん・・・」
「マーティーあなたは不思議な子なのよ、
赤ちゃんの頃に一度病気で死にかけたの。
ジェフが見つけてきた熱さましの薬草も全然効かなくてあきらめてたの・・・
もうダメだと本気で思ったんだけど、
ほんとに少しだけ看病しながらうとうとしてしまって
気がついて起きたら熱が下がっていたの。
それに小さな子供なのにすごく大人びている時もあるし、
いろいろなことをとても冷静に判断できたりする。
その見たことないトラ型魔物はあなたに従っているように感じるし・・・」
たしかに普通だったらルクシアンが逃げた時点で
ここにいる全員殺されていてもおかしくない。
そんな存在の魔物が近くに居ておとなしくしているんだから
不思議に思わないわけない。
「あなたは何か大きな使命を持って生まれてきたのかもしれないわね。
でもたとえ何か使命があったとしてもあなたなら大丈夫よ。
これからもし使命を果たすためとはいえ、
大きな力を持ってしまっても
あなたの側にいてくれる人は大切にするのよ。
自分の近くに居てくれる人と一緒に過ごす、
それだけで幸せなんだからね。
どんなにすごい偉業をなしたとしても
その時隣に誰もいないなんて寂しすぎるから。
今はまだそういうことはわからないかもしれないけど・・・
いつかきっとわかる日がくるわ。
たとえ1人で何でもできるような力を持ったとしても、
1人で生きていくようなことはしちゃだめよ・・・
1人で生きていくのは最初は楽に感じるかもしれない、
だけどいろいろなことから目を逸らして逃げているだけだからね。
私の父がそういう人だったから・・・
さみしい生き方はしないでね。
そしてリズちゃんを守ってあげてね。
ジェフとエラに頼まれたのもあるのだけど、
あなたのことをいつもやさしい眼差しで
見守ってくれている人を大切にしてね。
リズちゃんがいつもあなたのことを見ている眼差しは
私が嫉妬してしまうぐらい素敵なのよ」
「うん、わかった絶対リズちゃんは守るよ、約束する」
あーーーくそ!なんでこんな時に何もできないんだ!
せっかく使い魔に会えてこれからって時に・・・
使い魔ならあの暗闇の声の主に
助けを求めることはできないのだろうか?
母に聞こえないように小さな声で聞いてみた。
「ねぇ、あの日暗闇の中で聞こえた声の主に
ママをなんとかしてくれるように頼めない?」
「ごめんにゃ、もともとこの世界に直接干渉することが出来ないから
使い魔を使ってるにゃ・・・」
そうなのか・・・それでも何か方法だけでも教えてもらえないだろうか?
「直接治せなくても、治す方法を聞くことはできない?」
「それも無理にゃ、向こうから連絡してくるのを
待つしか方法がないにゃ」
自分が直接干渉することができないから使い魔を送る。
これはまだわかる。
あまりに強大過ぎる力は
何か違う影響を与えてしまうことだってあるんだろう。
でもせめて連絡方法ぐらいあっていいだろう・・・
一方的にあれやれ、これやれって言うのか?
「じゃぁもうできることはない?」
「ごめんにゃ」
いやこの使い魔は別に悪くないよな・・・
自分が何もできない苛立ちを八つ当たりしているだけだ。
「いや、こっちこそごめん。」
そして母の呼吸が弱くなってきたのがわかる。
せめて何か言わないと・・・
「ママ、いままでありがとね。パパとママと3人で毎日すごく楽しかったよ。
魔法もいっぱい教えてくれてありがとね。
いつかきっとママみたいにすごい魔法使いになるから・・・ね。
はじめて見せてもらった火球より大きな火球を作れるようにがんばるから」
「それは楽しみね。でもママはもっと大きな火球だって作れるのよ」
「そうしたら、その大きな火球より大きな火球を作るよ」
「そうね。マーティーならできるわ、楽しみに待ってるね、
剣術も少しはやってあげてね、ヘクターが私に嫉妬するから」
「うん、剣術もがんばるよ、パパなんか身体強化なしで勝てるようになるよ」
「そうね、あなたが剣術を見たいって言った日、とても喜んでいたものね」
ん・・・あの日実はほかの目的で見たいって言ったんだけど、ごめんなさい。
「あなたなら魔法剣士にでもなれそうね」
「魔法剣士?」
「魔法も剣術も使える魔法剣士、
私は剣を使うのがあまり上手じゃなかったから
護身でナイフ使っていたけど、
きっとあなたなら素敵な魔法剣士になれるわね」
「うん、がんばって魔法剣士になるよ」
「ママ?聞こえてる?ママ?」
「あり・・がとう・・・
私とヘクターの子供に生まれてきてくれてありがとね、
あなたの、マーティーのママになれて
とてもとても幸せだったわ、
マーティー顔をよく見せて・・・」
母親によく見えるように顔を近づける
「ママ、僕の生んでくれてありがとう」
僕は母の額に自分の額を当てた。
そうあの日僕がこの世界に来て
目覚めた時にはじめてしてくれたように・・・
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