第24話 東の丘 5
今、自分の目の前信じられない光景が展開されている。
2mはあろうの鳥型魔物のルクシアンと
3mはあるトラ型魔物が威嚇しあっているのだ。
ルクシアンが獲物は渡さないと言わんばかりの感じで
ホバリングしながらトラ型魔物に対して威嚇している。
トラ型魔物はこちらではなくルクシアンを狙っている感じだ。
2匹で戦ってくれればその隙に逃げることもできるかもしれないが、
母は腹から血を流した状態で動けない。
リズちゃんも腰を抜かして放心状態だ。
一人で逃げる?そんなことしたってすぐに追いつかれる。
そもそもどこに逃げるのか・・・逃げ場所なんてどこにもない。
そんなことを考えていたらトラ型魔物が
空中に留まりながら威圧感を放っているルクシアンに向かって飛び掛かった。
驚異的な跳躍力だ。
そして前足の鋭い爪先でルクシアンの翼を狙っている。
翼を狙って飛べなくなったところを一気に倒すつもりだろうか?
これが魔物なんだ、魔物同士の戦いなんだ・・・
人間とはなんて矮小な生き物なんだろう。
それでもこんな魔物に対してパーティーを組んでるとはいえ冒険者は戦っている。
ずっと父と母はこんなにすごいことをやっていたんだ。
トラ型魔物が何度かルクシアンに飛び掛かり、
ルクシアンが再三にわたり上空に逃げる行動を繰り返す。
ルクシアンは天頂から突き刺さるように降り立って
トラ型魔物に対して足の爪で攻撃をしている。
そして大きな翼を利用した風魔法も撃っているようだが、
トラ型魔物はすべて見えているように避けている。
トラ型魔物は体の大きさの割にはものすごく機敏に行動する。
右へ左へ飛んでいるように見える、もし瞬間加速能力などがあるなら
それに近いスピードで視覚に残像が残っている。
ルクシアンの足の爪の攻撃を避けつつ、後ろ脚で立ち上がって
前足の鋭い爪で疾風のごとく降りてきたルクシアンに攻撃している。
そして何よりも巧みだ。
もっと体が小さければ後ろ脚で立っている姿はかわいいかもしれないが、
これだけ大きいと壁というかビルでも建っているようだ。
本当にすごい戦いだ。
これがゲームや映画の世界だったらどれだけいいのにと思ってしまう。
一見するとルクシアンの方が空から攻撃できるので有利な感じはするが、
トラ型魔物はルクシアンの攻撃をすべて見透かしたように避けている。
そしてルクシアンの魔法攻撃も見切っているのか
魔法攻撃が来ることがわかっているように見える。
僕には両方すごく強く見えるが、本当のところは実力差があるのかもしれない。
そんな戦いをしていたがそれまで慎重に
上空からヒット&アウェイを繰り返していたルクシアンが
少しイライラしてきたかのように攻撃が荒々しくなってきた。
強引に足の爪でトラ型魔物の頭をつまもうとしている。
しかしトラ型魔物はその攻撃も読んでいたのか
事前動作なしで後ろへジャンプしていた。
そして後ろへジャンプしたかと思ったら、
次の瞬間上空にいるルクシアンより高く飛んでいた。
そのまま前足の鋭い爪でルクシアンの首を落とそうとしていた。
その攻撃をギリギリのところで避けたルクシアンは
さらにイライラを募らせ高揚したのか咆哮して
トラ型魔物動きを止めようとした。
ギィーーーーーーーーー
ものすごい轟音とともに木々が揺れ動いているのがわかる。
僕もその音にびっくりして腰を抜かしそうになってしまった。
なんとかギリギリ耐えたが今の咆哮が直接自分に対してのものだったら
一発で気絶していただろう。
だがトラ型魔物はまったく動じることなく今にも首を落としてやると
言わんばかりにうなり声を発している。
上空の月明かりが雲に遮られ森の中が一瞬にして暗闇に沈んだ時、
ルクシアンの赤い目だけが逆に月明かりのように妖艶に輝いていた。
魔物に襲われている時なのに綺麗だと思ってしまった・・・
森が暗闇に沈み静寂が支配していたが、
次の瞬間何かが肉を切り裂く音が響いた。
シュー!グシャ!グチャ!
「ギィーーーーーーーーー!」
どちらかの攻撃が当たった音と苦しそうな叫びが響いた・・・
雲のの隙間から徐々に月が現われて森の中に少しだけ明かりがさしてきた。
トラ型魔物の攻撃がルクシアンの背中部分に大きな爪痕を残していた、
暗闇を利用して相手の後ろに周りジャンプして攻撃したんだろう。
かろうじてホバリングしているが血か滴り落ちているのがわかる・・・
トラ型魔物さらに唸る
「うぅぅぅぅぅぅぅぅガルルルルルルルル」
ルクシアンは力を振り絞ってホバリングから片方の翼を折りたたみ広げた!
風魔法だ!
今度は竜巻のようなものが発生してまわりの木々の枝や石などを巻き込み
トラ型魔物に魔法が迫る。
それを後ろ脚でたち前足を竜巻に向けて鎌で切るように払った!
その前足からルクシアンと同じように竜巻が発生したのだ。
すごい・・・トラ型魔物も風魔法を使うんだ。
竜巻は相殺されて消えたが辺りは砂ぼこりが舞っている。
砂ぼこりがおさまったらルクシアンはいなくなっていた・・・
逃げるために魔法を使ったのか。
かなり知能が高いんだな・・・
最後の足掻きで渾身の魔法を!とやると思ったが
やはり知能が高い魔物もいるんだな。
だがこれで今度は僕らがターゲットになった。
さて僕はあと何秒生きていられるだろうか・・・
〈大丈夫かにゃ?〉
・・・・・え? 何?頭の中に突然声が聞こえた?
パニックで頭がおかしくなったかな?
〈あれ?聞こえないかにゃ?〉
聞こえてはいんだけど、何が聞こえているのか理解が追いついていない。
〈主様に言われて地上に来たんだけど、この子も違ったかにゃ?〉
主様・・・・あ・・・・黒い猫さん?
え・・・猫じゃないし黒くないし異世界だけど人より大きな猫って・・・
〈違ったかにゃ・・・〉
いや多分暗闇の声の主が言ってた使い魔だ、どうしたらいいんだ?
普通にしゃべりかければいいのか?
「聞こえてるよ?黒い猫さんの知り合い?」
〈にゃ!よかったにゃ~聞こえてるみたいだにゃ〉
「あれ?助かったのか?」
〈この森程度の魔物なら大丈夫にゃ〉
とりあえず命の危機は脱したようだが・・・
あ!母は大丈夫だろうか?母に駆け寄るがもうほとんど意識がない。
「ママ!大丈夫?」
素人が見ただけでも大丈夫ではないのがわかる。
腹が裂けて血が止まらないのだ、母の周りは血の海になっている。
「猫?トラ?なんとかならないか?」
使い魔といっていたからもしかしたら何とかできるかもしれない。
〈ごめんにゃ、何とかしてあげたいけど今のレベルだと無理だにゃ〉
「どういうこと?レベル?」
〈そう、主様に言われて君と契約するために地上に降りてきたけど、
その時力が弱い状態で送られてレベルが低すぎて
回復魔法はまだ使えないにゃ・・・役に立たなくてごめんにゃ〉
そうだよな、いくら何かしらの存在の使い魔とはいえ万能なわけではない、
そんな都合のいい話がそうそうあるわけがないんだ。
「ごめん、そんな都合よくいかないよな」
〈力不足でごめんにゃ〉
「そんなことないよ、ルクシアンから守ってくれたよ・・・ありがとう」
魔物情報
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ルクシアン・・・2mぐらいの鳥型の魔物
基本的には夜行性だが昼間でも活動できる
全身ダークブラウンで昼間でも見つけにくい
頭は丸く目は大きく暗闇でもよく見え首は上下左右約180度回り真
後ろを見ることができる
待ち伏せて音もなく飛びかかり獲物を足で捕まえる
嘴も鋭い
風魔法も操り夜の森の皇帝と呼ばれている
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