第22話 東の丘 3

東の丘でマーティーは母と奇跡的に再会ができた。


村の状況がよくないのは変わらないがこれで何かしら動けるかもしれない。



「マーティー、リズちゃん怪我はない?」


シェリーが2人の体を触りながら怪我の確認をする。


「うん、大丈夫だよ、ママは大丈夫?」


マーティーは魔物と戦っていたであろう母親の方が


怪我をしていないか心配だった。


「ええ、私は大丈夫よ」


リズちゃんもやっと知っている大人が目の前に現れて少し安心しているようだ。


シェリーはマーティーから教会で2人と別れてからのことを聞いていた。


教会を出て2人の家へ寄り途中で南門の方角から火の手が上がったので


東の丘へ来たことを。



「なるほど、いい判断だったわね、そのまま教会にいたら危なかったわね」


ほんとうによかったとシェリーは思った。


そしてマーティーの10歳とは思えない判断力と行動力に驚いてもいた。


最初は大人たちと一緒で、途中から家へ寄るために


2人になったかもと思っていたシェリーは、


まさか教会からずっと2人でここまで来るなんて我が子ながら驚かされる。


10歳の子供が1つ年下の女の子を連れて村が魔物に襲われている中、


なんとか逃げ延びるために行動している。


自分が10歳の頃にできただろうか?


大人を探していっしょに行動するかそれこそ教会で小さくなって隠れていただろう。


いままで何度も不思議な子だとか我が子ながら優秀だとは思っていたが、


今日ほど驚かされた日はないだろう。



「ママ、パパとリズちゃんのパパとママは?」


マーティーはたぶんもう死んでいるのかもしれないと思ったが


やはり聞かずにはいれなかった。


「大丈夫よ、南門が燃えているのが見えて2人を探してきてほしいって頼まれたの」


なるほど・・・嘘ではないんだろう・・・嘘ではないが。。。


北側から離れた後のことはわからないのか・・・


「それでこれからどうするの?」


マーティーも森へ行くしかないように思ってはいたが、


他に方法があるかもしれないとわずかに期待を込めて聞いた。


「北と西は行けないわ、南は火が消えればまだいけるかもしれないけど


襲ってきた魔物がいなくなっていたの。


でもまだ近くにいる可能性があるから移動するなら


森になってしまうの、でもね・・・」


子供2人を連れて夜の森を抜けるのはかなり危険だ、


しかしここにいていつまでも何事もなく過ごせる保証もない。




ドーーーーーーーン・ドーーーーーーーン、ギャーーーーーーー


その時自宅がある場所あたりから火の手が上がった。


それと同時に何かが地面にたたきつけられるよな音と咆哮が響き渡った。


東の丘からそれほど離れた場所ではない。


きっとアルマドが近くに来たのだろうとシェリーは思った。


北にいた魔物か南にいた魔物かはわからないがもう村の中にいるのは危険だ。


「・・・2人とも森へ行きましょう」


シェリーは決断した。


森深くまで行かないでなんとか森づたいに


南にある隣の村までいければ何とかなるかもしれない。


リズがマーティーの手を強く握った・・・怖いのだろう。


9歳の女の子、父と母は行方不明、何が起こっているのかもよくわかっていない。


やっと知っている大人の人が来たのに今度は森へ行かなくてはいけない、


子供が考えてもわかるぐらいに状況が悪くなっている。


パニックになっても仕方がない状況だ・・・


しかしここでリズちゃんがパニックになったら


森へ移動どころではなくなる。


リズちゃんの緊張が手からじかに伝わってくるようだ・・・


聞こえるはずのない鼓動の音もまで聞こえている。


「大丈夫だよリズちゃん、絶対に手を離さないからね」


リズちゃんの手を握り返した。


たかが1つ年上の子供で戦う方法など知らないそれでも何かしてあげたかった。


「うん、マーちゃんありがとう」


声にならない声をだしたリズちゃん。


「それじゃぁ行きましょう、絶対ママから離れないでね、


大きな声も出さないようにしてね、何かあったらそっと教えて」


「うん、わかった」


「・・・はい」


覚悟を決めて森へ行く、森の入り口付近ならそれほど強い魔物はいないはずだ。



しかし森の入り口付近とはいえ夜になると暗闇を利用して襲ってくる魔物がいる。


そして今夜の森は静かな気がする・・・なんとも不気味な静けさだ。


シェリーは最近でこそ夜の森なんて行かなくなったが、


冒険者時代や開拓事業当初は必要にかられ入っていた。


それでも言葉にできない不気味さを感じている。


強い魔物が森の入り口付近にまで来ている?


村の騒ぎで様子を見に来たのだろうか?


魔物の中にはとても知能の高い者もいる、


とくに森の奥へいけばいくほど顕著になる。


普段の森なら入り口付近であればそれほど強い魔物はいない。


ただし夜、暗闇になればなるほど強くなる、いや強く感じる魔物もいる。


それは魔物の毛色や行動パターンが夜になると有利に働く魔物がいるからだ。


森の中は魔物のテリトリーだ、それに戦闘になれば何が起こるかわからない。



シェリーは自分に向かってくれればまだいいが子供たちが襲われるかもしれない。


むしろ弱い存在から狙ってくるだろう。


それが弱肉強食の世界だ・・・


急所や怪我している所を狙うと卑怯?


そんなのは命のやり取りをしていない者の戯言だ。


今から入る森の中で最も弱い存在・・・それは子供たちだ。


その不安に押しつぶされそうだった。


何としても子供たちを逃がさなければ3人に顔向けできない。


シェリーが森をにらんでいる、


マーティーははそんな目をする母を初めてみるのだった。



マーティーはすべてを背負った母の目を見て自分も何かしないといけないと思った。


リズちゃんが握っている手は汗をかいている。


そしてずっと強い力で手を握られている。


緊張しているのだ・・・


そんなリズちゃんを見て思ったこの子は自分とは違う、


本当に10歳に満たない女の子だ。


僕は前の世界と合わせて26年は生きている。


しかしリズちゃんはたった10年しか生きていないのだ。


今日が最後の日では悲しすぎる。


いくら知っている大人が近くにいるとわかっていても、


夜に知らないところに行くだけでも怖いだろう。


さらに魔物がいるとわかっている森の中へ行かなければいけない。


本当はそんな場所へは行きたくないパパとママの所へ行きたいと、


だが嫌だ行きたくないと言える状況ではない。



マーティーも中身は26歳とはいえ魔物と戦ったことはない。


前の世界では何かと戦う、たとえば中型の動物と戦うなんてことは


一生しないで死んでいく人の方が多い世界だった。


それでもこの世界に来て10年いつか戦う日が来るだろうと思い


戦う方法は一応磨いてきたつもりだ。


それは【魔法】だ。


しかし実際に魔物相手に使ったことは一度もない。


想像の中で戦ったことはある。


でもそれは頭の中でやっていることであって実際に対峙したら役に立たないだろう。


たぶん魔物なんてものが目の前に現れたら緊張で動けなくなるだろう。


しかしそんなことを言っていられる状況じゃない。


なんとしてもこの女の子は守ってあげないといけない。


なんとか・・・なんとかしないと


気持ちを奮い立たせてリズちゃんの手をしっかりと握って


1歩ずつ森の中へ入っていく。




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