第21話 東の丘 2

東の丘で村の様子をうかがっているマーティー。


北門から西側、そして南門と火が上りその周辺も火事になっている。


南門の方からは地響きのような轟音は聞こえなくなったが炎の勢いはすごい。


西の方から魔物の咆哮はまだ聞こえる。


現状村から逃げるには東の森経由で逃げる方法しかない。


これがどこかの王国の首都の城などなら王族が逃げるための


地下道などがあるかもしれない。


でもここは少し前まで開拓地だった村だ、そんな逃げ道は当たり前だがない。



このままずっとこの丘にいることも魔物がこちらへ来る可能性があって


危険だが森へ行く選択肢は本当に最後の最後にしたい・・・


このまま朝になるまでここにいれたらいいのだが・・・


南門を襲った魔物はこちらへ向かってくるだろうか?


もしかしたら東の丘の方へ来ないかもしれない。


こちらに逃げてくる大人が少しでもいてくれれば


いろいろとわかることもあるし変わってくるかもしれない。


【もしかしたら】とか【ひっとしたら】とかそんなことばかりを


考えていても仕方がない。


いまは少しでも体力を温存して魔力を回復したほうがいい、


リズちゃんが少しでも仮眠が取れればいいのだが・・・



そんなことを考えつつ周りの様子をうかがっていると


近くで何かが動いたような気がした・・・


まさかこのタイミングで魔物が?


村人が逃げてきたのなら丘へつづく道なりに歩いてくるだろうから


気がついてもいいはずだ。


リズちゃんも何かに気が付いたようで手をぎゅっと握り締めてきた。


その瞬間、張り詰めた空気が肌に触れるほど伝わってくる。


大きな魔物以外にも魔物がこの状態の村にいてもおかしくはない・・・


どうしたらいいのか・・・


もし魔物だったら戦闘は無理だ、力の差は歴然だ到底敵わない。


なんとか逃れる手立てを考えておかないといけない。


しかしどこへ逃げる?森へ逃げたら他の魔物がいる。


南門?今一番火の手が上がっていて、


黒い煙が空を覆い尽くし周囲を呑み込み始めている。


それならやはり一番最初に燃えはじめた北門か・・・


子供1人ずつ慎重に進めばぎりぎり隙間をすり抜けて通れるかもしれない。


もし近づいている物音が魔物だったら土魔法を何とか


顔にぶつけて北側に逃げよう。




〈〈 シェリー視点 〉〉



南門へ向かっているシェリーは急ぎながらも魔物への


警戒を怠らないようにしていた。


南門はどんな魔物が襲ってきたのかわかっていない。


大きな魔物なのか小さい魔物だが数が多いのか、


今の村の状態からしたら何があってもおかしくはない。


村の周辺の魔物からしたら逃げまどっている人間など格好の餌だ。


しかし不思議と村人たちが泣き叫ぶ声ような悲鳴などは聞こえてこない。


来るのが遅すぎてすでに全滅してしまったか・・・


数人の村人たちだけでも門を抜けて逃げ延びてくれていたらいいんだけど。



そして南門が視界に入る場所まで着いた。


着きはしたが・・・そこはあまりに酷い状態だった。


北側と同じように辺り一面の瓦礫の山と視界を遮る黒い煙、


さらには何かに押しつぶされた後だ。


え?・・・こちらにもアルマドが?


しかし魔物の姿はない、あれだけ大きな魔物ださすがに


ここから見えないわけがない。


襲うだけ襲って気がすんで他の場所へ行った?


そんなことがあるだろうか?


そのまま村の中心へ向かってくるならまだしも


南門付近だけ破壊していなくなる・・・


そんなの誰かが操っていないと無理だ。


この状態では生存者はたぶんいないだろう、


運よく魔物が襲ってくる前に村を脱出していれば別だろうが。



このまま南門へ行くよりは一度東の丘へ行ってみたほうがいいだろう、


やみくもに南門で生存者を探すよりは・・・


それに南門に他の魔物がいたら生存者を探すどころではなくなる。


私がいまここにいるのは南門の魔物と戦闘することではなく


マーティーとリズちゃんを見つけて逃がすこと。



シェリーは再び南門から東の丘へ移動する。


それほど距離は離れてはいないが南門を襲った魔物がどこかにいる可能性がある。


いったいどれだけ魔物が村に入り込んだのか?


この10年近くこんなことはなかったのに・・・


開拓事業が始まった当初は魔物もいまよりたくさん周辺にいて


毎日のように魔物狩りしていた。


ここ5年は東の森の奥にでもわざわざ行かなければ


ものすごく危険な魔物を見ることも少なくなっていた。


北門へ来た魔物は元々どこにいたんだろうか?


あれほどでかい魔物なら誰かが気がついているはずだ。


北側にあるまだ村になっていない開拓地が襲われて


こちらに来た可能性は捨てきれないが


アルマドを相手にはしないだろう・・・


アルマドはこちらから攻撃しなければ人を襲って来ない珍しい魔物だ。


南門だってそうだ、南門の先はたしかに魔物がまったくいないわけではないが、


人々が荷車で行き来できるような道がありその先には隣の村がある。


もしかして隣の村も襲われたんだろうか?


どちらか一方じゃなくて両方同時に?それも同じ日同じ時刻に?


そんな確率はどれくらいなんだろうか?


砂漠で一粒のダイヤを見つけるようなものじゃないか?


誰かが悪意も持って操り村を襲わせたとしても


さすがにあんな大きな魔物を操れるだろうか?


それも3匹同時に・・・


それにこの村を襲って何か特になるようなことがあるだろうか?


村になって以前よりいろいろな人が行き来するようになったが


ここまで村を壊滅させるような恨みを買った人がいたのだろう?


考えれば考えるほどわからないことが多すぎる。



そんなことを考えながらシェリーは東の丘へ向かっていた。


できるだけ急ぎたいがその反面魔物に気がつかれないように


目立たないように行動しないといけない。


気持ちばかり焦ってしまうシェリー。


やっと東の丘のふもとまでたどり着いた。


丘の上の様子を見ると火の手はあがっていないが静かだ静かすぎる。


少しぐらいこちらへ逃げてきた人がいても良さそうだけど、


やはり丘の向こうが森だと来ないか・・・


元冒険者や多少でも腕に覚えがある村人ならまだしも


そうじゃないなら森を抜ける選択肢としてはないだろう。



ここに人がいるとは思えない、思えないが丘の上へ行けば


村の様子を見ることができる。


周りを警戒しつつも先を急ぐ。


(マーティー、リズちゃんお願い生きていて・・・)


心の中で祈りを必死に繰り返し息が詰まるほど子供たちへの思いが募っていく。



丘の頂上が見え始めたとき奇妙な土壁が見えた。


あれは何かしら、土壁?こんなところに?


そんなものなかったわよね?


魔物が作ったものではないだろうが、用心しながら近づいていった。


人がいる・・・誰だろう?


さらに用心しながら足音を消して近づく・・・


声をかけようか迷うがこれ以上は相手にも警戒される。


相手もこちらに気がついているだろう・・・思い切って声をかけるしかない。


「そこに誰かいるの?」


シェリーの問いかけに返事はない。


「誰かいるんでしょ?わかっているわよ。


聞こえないの?怪我でもして動けないの?」


「・・・ママ?」


子供の声がたしかに聞こえた、それも聞き覚えのある、


絶対に忘れない最愛の息子の声だ。


「マーティー?マーティーなの?」


問いかけというよりむしろ叫んでいるようでもあった。


「うん、リズちゃんもいるよ」


シェリーは土壁に近づいて確認した、2人は無事だった・・・


よかった・・・ほんとうによかった。



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