第17話 答え合わせと更なる問題

WL-015探しは難航していた。分かってはいたが時間だけが過ぎていく。

一部の top secret がどこかぎこちなく、隊内にはFBI top secret 005の鬼火おにびとICPO top secret 004のDr.殺人鬼ドクターさつじんきを起点とした周辺の意味不明な距離感が出来上がっていた。


個人的な感情でもめるのは良くあることだが、戦闘時に足を掬われる要因にはなってはいけない。

このままではまずいと思った総勢5名の発案で、今日の朝練ではチーム戦闘をしていた。

発案者はICPO top secret 001の黒真珠くろしんじゅ、ICPO top secret 002の紅忍くれないしのぶ、FBI top secret 001の十字石じゅうじせき、FBI top secret 002の霧雨きりさめ、FBI top secret 003の黒曜石こくようせき(通称:黒磨こくま)――ICPO、FBIの古株メンバーだった。


もう4月が終わる。

RemembeЯリメンバーがいつまで日本に居るかわからないし、何か仕掛けてくる可能性もある。せめて内部―― top secret (隊員)同士の関係性は整えておきたかった。



また、今日までに1回以上は全チーム出動したが、今までの出動はほとんどすべて個人戦。

チーム戦には慣れていないため、まだまだ訓練と経験が必要だった。



――おっと、時間だ。



ICPO top secret 002の紅忍くれないしのぶは時計を見て号令をかける。


「そこまで!今朝の訓練はこれまで。――解散!」

「はい!」


top secret は忍の号令に答え、各々地下の訓練場から仮眠室へと帰っていった。


忍はため息をつき、いつの間にか横に居るICPO top secret 003のDr.殺死屋ドクターころしやに視線を向ける。

殺死屋の目的は分かっている。忍の……【忍者の一族に伝わる秘薬】だ。

効果があるとわかってから欲しくて仕方ないらしい。……死ぬほど苦くて不味いのに。


忍は持ってきていた小さな鞄から、薬が入った瓶を取り出す。


「……ほれ。」

「……ありがと。」


忍が薬を渡すと、殺死屋は受け取ってさっさと帰って行った。もう用はないらしい。



――お前は必要な時だけ甘えてくる猫か。



忍は喉元まで湧き上がってきた言葉を必死に飲み込み、平常心を装う。



「……Σシグマ、戻るぞ。」

「あ、はい。師匠。」


忍はICPO top secret 009のΣシグマに声をかけ、仮眠室へと戻るために廊下を進む。

Σは不思議そうな表情を浮かべた後、何も聞かずに忍の後をついていった。



---------------



「あー……吐きそ……。」


仮眠室へと入りシャワーを浴びて、汚れもの全て洗濯機に突っ込んだ後、忍はベッドに倒れ込んだ。



――各自が抱えている事情が重すぎる……!!



忍はかなりストレスフルな状態で、解決方法を模索し続けていた。


頭痛は酷いし、心労も凄いある。だが、誰にも話せないという逃げ場がない状態で、毎日訓練と薬草採収と薬作りに励んでいた。



忍は実はこの1週間の間、ぎこちなくなっているメンバーに探りを入れていたのだ。


最初は拒否された。当然の反応だろう。

だが、忍も殺死屋のせいで関わらないといけなかった。

なので、自分が関わっていてもおかしくはないΣのことを前面に出し、本人には秘密にすることを条件に、弟子(Σ)を拾った経緯を開示した。

だから、弟子の元の家族と元の名前を知るために、自分もWL-015の捜索にあえて深く関わって深く探っているんだ、と。


その結果、どうだろう。

殺人鬼と鬼火は心を開いてくれたが、ぎこちなさの理由がわかったと同時に、かなりなカオスへと発展しているではないか。



――各々明かせば早いのに……!ルールが……!それに他にも……クソッ!!



本当はどうすればいいのかは知っていた。事情を抱えている奴らがさっさと言えばいいのだ。ぶちまけてしまえ。

だが、言う訳にはいかない。更なる別の問題が噴出するのだ。そうなるともうめちゃくちゃになる。



――しかも、関係者のうちの1人が記憶喪失だからなぁ……。



そう、一番の問題は弟子のΣ。

重すぎる過去を思い出させるのは酷だし、だからといってWL-015の捜索に関わらせないことは出来ない。


WL-015は実験体だ。

そして、弟子も殺死屋も、あのRemembeЯリメンバー所属のエルダも、リゼットも、レヴィと呼ばれていた女も.......研究所が同じかはわからないが、全員が被検体なのだ。



――闇が深すぎる。



殺死屋から聞いた話は壮絶で。

しかも他は他で複雑で壮絶な――犯罪被害遺族特有の、苦し過ぎる家庭環境を抱えてる。


抱えきれない。

かといって話せる相手が居ない。

だから口をつぐむしかない。その結果が今のストレスフルな状態だった。



……コンコンコン。


ふいにノックが響く。



――誰だろう。殺死屋?いや、この気配は……?



「――はい……。」

黒真珠くろしんじゅだ。入るぞ。」



――マジかよ。お前か、黒真珠。



黒真珠はドアを開けて室内へと入ってきた。

忍にとって……今、一番入ってきて欲しくない相手だった。


確かに、黒真珠との仲は良い。個人情報以外の話は何でもできる相手だ。

だが――黒真珠は平和な家庭で育っている。犯罪被害とは関係のない、穏やかな家庭で。


忍自身や忍の家族が犯罪に巻き込まれたりしたことはないが、弟子が犯罪被害者だ。



――【言ったところで、返って来るのは同情。本当の意味で理解はしてもらえない。だから、これ以上関わらないで欲しい。――帰って。】



殺人鬼が忍に言い放った言葉だが、忍は今まさに同じ言葉が喉元まで出かかっていた。



「……お前、最近おかしいぞ。――鬼火周辺と殺人鬼周辺から何を聞いたんだ?」


忍の事情を知らない黒真珠は、唐突にぶっこんできた。


忍の額に青筋が浮かぶ。……あまりにも内容がタイムリー過ぎてキレそうだ。

だが、黒真珠に悪気はないし、関わっておきながら上手く感情をコントロールができていない忍が悪い。――自己責任だった。



「……ルナは既に帰らせた。だから、時間はある。話してくれ。」

「弟子の事か?話せん。帰れ。」

「……お前の弟子もこの件に関わっていたのか?」


忍の言葉を黒真珠はすかさず拾う。

わざと【自分も関係者だから、これ以上関わるな】と示したつもりが、失敗してしまった。駄目だ、ストレスからくる頭痛で頭が上手く回っていない。……最悪だ。


「……俺のチームにも関係してる事だろ。しかも、2名。――チームの半数だ。このままじゃ現場で死ぬ。」


黒真珠は自分も関係者であると主張し、全て吐き出せと諭してくる。



この問題は黒真珠のチームにとっても死活問題だった。

もはや事情が複雑な奴は、同じく複雑な奴らでまとめてチーム編成し直したいくらいに、隊内はごちゃついていた。


事情を知らない奴は隊内に漂う空気感を不思議に思いながらの関わりになるし、事情の一部を知っている奴は腫れ物に触るかのような空気感を出してくる。

物事の中心に居る奴らなんて、それぞれ【関わるな】というオーラが出ていた。



「お前……相変わらず確信突いてくるよな。だが、本当に話せないんだ。一番ヤバい奴は俺のチームで全員まとめて抱えてるから、もうこれ以上は関わらないでくれ。」

「何があった。お前は何を悩んでいる。」

「……去れ。」


忍の明確な拒否を受け、黒真珠はやり方を変える。

引き下がるふりをして、あえて最悪な手に出ることにした。


「わかった。――お前の弟子に聞くことにする。」


弟子に聞くと聞いた瞬間。

忍は黒真珠を睨みつけ、暗器クナイを取り出し黒真珠に向かって投げる。

威嚇の為だったので本人には当てていない。黒真珠もそれがわかっていたのか避けなかった。


「――いい加減にしろ!!!……これ以上知ろうとするな!」


忍は怒り任せに叫んだ。

弟子にだけは探りを入れられたくはなかった。



黒真珠は小さく息を吐き、ドアの裏側に居る人物に向かって問う。


「……だ、そうだ。――どうします?」

「あー、まぁ、こうなるだろうなとは思ったが……。やっぱうちの鬼火おにびも原因の1つか。」


ドアを開けて入ってきたのはFBI top secret 001の十字石じゅうじせきだった。



――また、面倒なのが増えた……。



忍は怒りを通り越して呆れつつ、十字石と黒真珠を追い出しにかかる。


「……話すことはねぇよ。帰ってくれ。」

「……俺は鬼火の事情を知っている。」

「――!」


忍は目を見開いた。

まさか、鬼火が十字石にカミングアウトしていたことは想定外だった。


「てか、FBI勢は既にカミングアウトされてんだわ。……鬼火の姉が行方不明になってること。」


微妙な表情で、うしろ頭をガシガシと掻きながら……とても言いにくそうにしていた。

更に想定外な展開に驚きが隠せない。鬼火のガードが緩すぎる。


「いや……個人情報……!!」

「――んで、殺人鬼も似たような感じって知ってる。」

「マジ……かよ……!!」

「殺人鬼が侍とお祭り花火男(人喰いカニバリズム)を連れて交渉しに行ってた。……行方不明になったの、殺人鬼の双子の兄らしいな。」



――いや、お祭り花火男て。……いや、見た目と得物で……本当のことなんだが。



「詳細は知らん。俺らFBI勢は上辺だけだ。だが――これが大揉めしてる原因で合ってるんだよな?……もしかしたら家族がWL-015かも、って。」

「その上、殺死屋もΣも関わってる様子だ。」

「まずは外野で話し合わんかね。……もう、周囲が耐えられなくなってんだわ。」


十字石、黒真珠が交互に詰めてくる。もはや尋問だった。



――仕方ない。



相手の手元には既にカードが揃っていた。

忍は言える範囲を掻い摘み、2名に突きつけることにした。


「――Σ……俺の弟子は元実験体。外国の、Wählenヴェーレン Leuteロイテが実験対象の、違法のやつ。」

「あ゛?」


十字石の額に青筋が浮かぶ。

黒真珠の瞳にも怒りが宿っていた。


「しかも、殺死屋もだ。」

「――は!?」

「同じ海外の実験施設だったらしい。……タイミングは違えど、拉致されたと言っていた。これは殺死屋から聞いたんだが、弟子が被検体になったきっかけも拉致だったらしい。」

「……な……。」


黒真珠と十字石は絶句した。

想像を絶する過去に、言葉が出て来ない。



「……弟子には過去の記憶がない。今持っている戸籍は新しく取得したものだ。だから……あの資料に本当の名前が載っている可能性がある。もちろん、殺死屋の名前も。」

「……おいおいおいおい……。」


十字石は言葉を発するので精一杯だった。

黒真珠も十字石も、2人がまさか資料に乗っている行方不明者側だとは思っていなかったようだ。



「ちなみに、見た目は参考にならない。」

「えっ。」

「研究施設内での扱いや栄養状態が悪かったからだろうな。殺死屋に聞いたところ、弟子も殺死屋も思っているより年上だった。……てか、殺死屋俺と同い年だったわ。」

「は!?中学生じゃねぇのかよ!!」

「え、嘘だろ!殺人鬼たちとも同級生じゃないか……!」

「弟子は19とかそこらへんらしい。」

「俺と同じじゃねーか!!何で高校生してんだよ!!」

「俺の1つ上!?……ルナと、同い年じゃ……ない!?」

「……俺も初めて聞いたとき驚いたわ……。」


死んだ瞳で暴露する忍の言葉に、黒真珠と十字石は衝撃を受ける。


「――あ゛?待てよ??……殺人鬼と鬼火は家族を探したくて、殺死屋とΣ――の保護者である忍は、元の家族から守りたがっている……。なぜだ?おかしくないか?何でこの話を今ぶっ込んだ?別々の対処でよくね?」


十字石はそもそもの話の流れに疑問を持った。


「だよな……。自分の本名が書かれている紙をこっそり処分すれば、それで――。」

「――なぁ……まさか、殺死屋とΣは……殺人鬼と鬼火の――家族なのか?」


遂に十字石が答えに辿り着いた。

十字石の目は見開かれ、声は震えている。



――だから嫌だったんだよ。本当に。



忍は諦めて、本当のことを言った。



「……度重なる実験の結果、DNAが派手にいじられていたらしく、失踪時の自分のDNAと一致しなかったんだと。だから、あの2人は元の家族の元にはもう戻れない。……本人だと、認められることが……ないから。」



これが、叶奈が新しく戸籍を作った本当の理由で。

殺死屋がICPO日本支部の仮眠室に住み続けている本当の理由だった。



「だから、殺死屋には家が無いんだと。……もう、帰れないらしい。」


黒真珠と十字石は絶句した。

殺死屋がICPO日本支部の仮眠室に住んでいるのは知っていたが、まさかそんな深い事情があるとは知らなかったのだろう。

……俺もだわ。単なる家出か、複雑な家庭環境だと思ってたわ。



「……嘘、だろ……。じゃあ、殺死屋と殺人鬼が瓜二つなのは――」


黒真珠の顔は真っ青を通り越して真っ白だった。

殺死屋と殺人鬼の関係が、複雑すぎるひねくれ方をしていた理由がここに詰まっていた。



「じゃあ……鬼火の姉が……Σ??」


十字石は青ざめ、震えた。

鬼火から【鬼火の兄】が必死になって【姉】(鬼火の兄から見たら妹)を探している話は聞いていた。

だが、これでは叶うはずの願いも叶わない。――記憶を失っている上に、DNA鑑定で本人だと断定されないのだから。



忍は畳みかけるように、更に2人を絶望の淵へと突き落とす。


「――そんでもって、2人ともあと数年の命らしい。」

「――!?」

「俺が最近作りまくってる【一族に伝わる秘薬】で副作用を軽くしたり、延命できる可能性はあるが……あまり期待しないでくれ。」


忍は一旦言葉を区切る。


「寿命については殺死屋が独自で自分の身体を研究していた。弟子の方はもうちょい生きれる可能性があるらしいが、殺死屋より投薬期間が長いから定かではないって言われたわ。投薬された薬も、被検体番号によってバラバラらしいし、中にはエグめの薬も有ったらしい。」



黒真珠と十字石はもう何も言えなかった。

顔面蒼白もいいところだ。

抱えている事情が、今まで明かせなかった事情が……あまりにも重すぎた。



「なぁ、これをさ?……どう『話せ』って、言うんだよ……。」



忍は震える声で黒真珠と十字石に問うた。

だが、答えは帰ってこない。真実を知った2人は何も言えなかった。



「弟子には辛い記憶を思い出して欲しくない。だから――これ以上、関わらないでくれ。」


全ては連動している。だから、どこかが判明したら全てが明るみに出てしまう。

忍の悲痛な声が狭い室内に響いた。



しばらくの沈黙の後、黒真珠と十字石は帰って行った。

これで余計な探りを入れられることはないだろう。……総じて地獄に足を突っ込んで来やがって。


だが、忍の荷は下りない。……軽くなることはない。

忍は最大級の爆弾を抱えたままだ。



「……『話せ』。……どう話せって言うんだよ。2人が――実験施設出身だって……!!」



忍は泣きながらベッドに倒れ込み、意識を手放した。



---------------



夕方に安井やすい司令から呼び出しがあった。

提示で仕事を終えた黒瀬計磨くろせかずまは一旦帰宅した後、ICPO日本支部へと向かった。

仮眠室で更衣を済ませ、ラウンジに赴く。


黒瀬計磨くろせかずまこと、FBI top secret 003の黒曜石こくようせき(通称:黒磨こくま)はラウンジに入った瞬間、顔を引きらせた。



――何で黒真珠と十字石まで暗い顔してんだよ!?



この2人は今朝、全てを知っているであろう忍に探りを入れに行っていた。

結果、ミイラ取りがミイラになったらしい。……なぜだ。何なんだよ裏事情!!?


室内の雰囲気は最悪。

この後安井司令が来るから、空気に突っ込まれたら更に最悪なのに。いい加減にしてほしい。


とりあえず席に着くが落ち着かない。

なので、同じく部外者を決めているICPO top secret 007の魔女まじょルナとΣに話を聞いてみることにした。


「お疲れ様。……ねぇ、いい加減この空気良くならないの?何か知らない?」

「お兄ちゃん……っあ、黒真珠!黒真珠はあのあと学校休んだみたいなんだよね……。私――世界一可愛いルナちゃんには、理由、話してくれないし……。」

「同じく。というか、私はいつも部外者です……。悲しいです。」


ルナは兄である黒真珠の異様な様子に気を取られた結果、キャラがブレブレになっていた。

Σは相変わらず部外者なようだ。


黒真珠と忍と関係が深い割にはこの2名には情報が回ってこないらしい。……黒磨の選択ミスだった。


「そっか……。早く前みたいな空気に戻ると良いね。」


黒磨はそれだけ言い残し、自分の席へと戻って行った。



しばらくすると全員が揃い、安井司令とエリック副指令が入ってきた。


「……何よ、この空気。」


隊員を見た瞬間、呟く。

安井の顔に表情はなく、読み取れなかった。

エリックも驚きつつ周囲を見回す。


「……WL-015探しが無謀過ぎます。もう無理っす。」


忍が代表して表向きの理由を言う。


「――仕事よ。つべこべ言わずやれ。」


安井司令は一喝した。

どうやら本筋から上手く逸らせたようだ。


「そこのFBI社会人組と大学生。――ゴールデンウィーク中にとある会社に潜入しなさい。」

「――は?」

「えっ。」

「え!?」


安井が持ってきた本題は、意外なものだった。

潜入自体は時々ある。霧雨は潜入が得意だし、黒磨だってやったことはあった。


だが、黒磨は焦る。

黒磨の働く会社はゴールデンウィーク期間中も通常出勤だ。一般企業みたいに普通に休めないのだ!


――無理だ!!休めない!!



「とある筋からの情報よ。社内にシリアルキラーが潜んでいるらしいわ。そろそろ殺し始めるらしいわね。」

「いや、どんな会社だよ!!てか、犯行開始が分かるのかよ!!」


十字石が即座にツッコむ。

その他も同じ気持ちだった。



――シリアルキラーが働いている会社って何だよ。犯行時期までわかるって何??どういうこと??



「犯行時期は、そのシリアルキラーが周期的に犯行をしているからから。今回もその時期が来ただけ。」

「……どんな規則正しいシリアルキラーだよ……。――で、粛清対象者シリアルキラーが居る会社は?」

「藤井商事株式会社よ。都内にある、あの大手企業の。」



――俺の働いている会社ぁーーーーっ!?



安井のあっさりとした返答に、黒磨は思わず叫びそうになった。

喉から変な音が出たが気にしないでほしい。切実に。――こっち見んな!!!



「……?エリックさんと話した結果、行けるだろうって踏んでの事よ。――斎槻いつきはステイ。」

「わ、わかった……にゃぁ……。」


FBI top secret 007の斎槻いつきはしょげた。

父である霧雨とゴールデンウィークに遊びにいく予定が無くなったからだ。


霧雨は斎槻の様子を見て、1日でも休みが確保できたら速攻斎槻いつきと遊園地に繰り出す覚悟を決めた。

……絶対に休みをもぎ取ってやる。お父さんは本気だった。



「……続けるわよ?粛清対象者シリアルキラーは【有栖川ありすがわ】と名乗っているわ。日本に住んでいるなら聞いたことあるでしょ?」

「!……有栖川連続殺害事件か……。」


忍は一人呟いた。

他のICPO勢も同じように反応していた。



有栖川連続殺害事件。

【有栖川】はここ3年で話題になった殺人鬼だ。

なぜか決まって大型連休に殺人事件を起こし、その証拠として警察を煽り散らす文章と最後に【有栖川】と書いた手紙を残す。

3年間の犯行で現場に残された筆跡は全て同じなため、犯人は全て同一人物とされている。

殺害対象は不明。老若男女問わずに狙っていた。


だが、【有栖川】はいつも複数名まとめて殺していた。一度の犯行で少ない時は2名。多い時は38名。

最も多くの被害者を出した現場は老人ホームだった。入居者と従業員が全て殺された。


被害者が毎回複数名いるうえ一度に殺す人数が多いため、【有栖川】は単独犯ではなく、グループでの犯行だと考えられていた。

だが、足がつかない。見つからない。……よって3年の間【有栖川】は野放しになっていた。



「いつもゴールデンウィークやお盆、お正月といった大型連休に動く、あの【有栖川】よ。アメリカに居た奴は後で調べなさい。んで、今回のターゲットは会社の可能性が高い。だから、潜入。――以上。」

「……いや、何で足がつかめたんだよ。」


忍は顔を引き攣らせながら問うた。


去年から【有栖川】の犯行の規則性をつかんだ警察は、大型連休期間は人員を増して警戒に当たっていた。

……犯人の正体も対象もわからないため、ただただ警戒するだけではあるのだが。


むしろ警察に教えたほうが親切だろう。……あいつら、毎年連休はピリピリしてんぞ。



情報提供があったタレコミって言ったでしょ。……知らないわよ。ただ、調べる価値はあるわ。」


安井はそう言い、話を切った。


「十字石くん、霧雨くん、黒磨くん。後で私の部屋に来てください。――潜入に必要な設定とか資料を渡しますので。」

「はい。」

「承知しました。」

「わかりました。」


3名はそれぞれ答える。


「あ、そうそう。万が一違った場合は、他のチームで現場に急行することになるから集まってもらっただけよ。それか追加で粛清に派遣とかね。――じゃ、解散。」


安井は足早に去って行った。



「では、行きましょうか。」


エリックは十字石、霧雨、黒磨の3名を連れて仮眠室へと誘う。

黒磨はどうかタレコミが外れていて欲しいと願うばかりだった。

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