序章4 『立派な令嬢、ユキシマアヤセ』
「よいだろう……妾に逆らうというのであればそれ相応の覚悟を……分かっておるな?」
ナツキは深く頷く。隣にいるアヤセにも緊張が走った――。
◇
もしかしたら、いやもしかしなくても大きな賭けをしてしまったかもしれない。
ナツキは今更ながらに体中に冷や汗をかいて、アヤセに小声で助けを求める。
「アヤセ~。アヤセさぁん。どーしよマジで。オレこれ負けたらどーしよ。死んだってことでいいのかなぁ……」
「いやおにい……やったな。すんごいやらかしだよ。おにい一のやらかし。これ負けたらあれだね、首つりで峡谷バンジーだね」
「……バンジー要素いるかそれ。つかそれってまあ死ぬんだよな」
「それかあれだ。私はあのおっさんに性奴隷にでもされるとか……」
「いやさせねえよマジで。それだけは保証する」
とは言え何をしてくるかわからないのがユキシマ家。そのすべては親父次第。祈るしかないのだ。
ナツキとアヤセが話しているところにラティアがよそよそしく入ってくる。
「……あの、ね、あのーさっきはほらナツキも珍しく熱くなったし? ほらなんかちょっとっていうか、助かったっていうかさ……。親父さんもこういう状況で苦しいのもわかるけどね……まあ特殊薬剤で喋れるまであと二分ってところだから、最後に何を伝えるかくらい決めておきなさい。後悔のないようにね……」
そういってこの部屋からラティアは出て行った。
さっきまでの態度とは打って変わって少し昔のラティアに戻ったような、そんな気がした。
◇
「薬が効いたようなので、喋れるのは5分ほど。ですが、注意してください。あくまでも目安。特殊薬剤なので長くは持ちません」
親父の目が薄っすらと開く。それを見てベヨネッタとユティスが質問を投げかける。
「起きたのケイト?! 起きたのね! なら答えて頂戴! ユキシマ財閥の次期当主は誰なのか! その名前を!」
「そうだぜ兄貴! 俺がこの財閥次いでもっとでかくしてやるからよぉ。頼むぜ」
ユティスが前のめりになったベヨネッタを押しのけたその時だった。親父がおぼつかない口を開く。
「……嬢。……れ……い……嬢」
ナツキは親父の側へ行き耳を傾ける。
「アヤセを……立派な令嬢にしてほしい……」
その言葉を聞き、皆が黙り込む。その中ベヨネッタが食い入るようにベッドをつかむ。
「妾は当主を聞いてるのよ! あの子娘なんて妾が金と権力で立派な令嬢にしてあげるわよ?! ねえ答えてよ!」
その瞬間、ガシッと何かを掴む音がした――。
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