第6話
ベイクドもちょちょは目の前で酔い潰れた人質の女がカバンに隠したビールを確認する。封の空いていないビールをこっそりカバンに入れたのだろう。
外はすっかり暗くなっている。
「失礼しますボス」
作戦室に警備隊長が入って来ると、顔を顰めた。
「何1人で飲んでるんですかボス」
「あー悪い悪い。
此奴にも情報を持ち帰って貰うついでに心象も良くしなくちゃな。
外で聞く」
ベイクドもちょちょは一切酔った様子も無く部屋の外に出る。
「冒険者ギルドか?」
「はい。
馬30騎程で接近中」
「サーチライトを付けて道を照らしてやれ。
俺が話す」
「分かりやしたボス」
警備隊長が告げると警備隊長は頷きトランシーバーでサーチライトを付けろと指示を出す。それに合わせて周囲が俄かに明るくなる。
「ボスが話す!
警戒は厳にしろ!」
そして、外に出ると警備隊長が声を張り上げると兵士達は設置された機関銃の槓桿操作したり、持っている銃の薬室に初弾を装填する。
ベイクドもちょちょはそんな様子を楽しそうに眺めた後、ヘルメットを被った。程なくして門の上にいた見張りが騎兵隊目視圏と叫んだ。
ベイクドもちょちょが立ち上がると自身のチームのリーダー格と警備隊長が後に続く。
騎馬達はランタンや松明、不思議な照明を掲げて接近してきている。
「ありゃ何で杖の先が光ってんだ?」
「俺が分かると思いますかボス?」
「私も分かりませんよボス」
ベイクドもちょちょの後ろに続く2人が答え、ベイクドもちょちょは笑う。
「馬鹿、アレが魔法だ。
ハリーポッターでもあったろーが。ルーマフ?ルーマル?光よって魔術だよ」
「そんな呪文ありましたっけ?」
「知らないわ。あまり興味無いもの」
3人がそんな話をしていると冒険者達が門の前に到着する。
「門を開けよ!
冒険者ギルドの遣いだ!貴様等が監禁しているラターシャを返して貰おう!」
先頭にいた騎士の様な格好をした青年が叫ぶ。
「彼奴等にライトを集中させろ」
ベイクドもちょちょの指示に警備隊長がトランシーバーでその指示を出すと周囲を照らしていた光が一斉に彼等に当たる。
これで彼等の目は完全に潰れる。
「夜分遅くにようこそボーケンシャ!
残念ながらこの城は日没から夜明けまで正門は開けられない!それが俺たちのルールだ!
それとラなんたらとか言う奴は誰だ?」
ベイクドもちょちょが声を張り上げる。
「ふざけるな!今直ぐ門を開けろ!
ラターシャは貴様等が監禁したギルドの女だ!」
ベイクドもちょちょは彼奴かと頷き自身のチームリーダーに連れて来いと告げる。
「彼奴なら部屋でいいだけビール飲んで酔い潰れたぞ。
それよか、こっちが派遣した連中はお前等に注意しなかったのか?日没から日が昇るまで正門は開かないって」
「彼奴等は拘束している。乗ってきた不思議な馬車もだ」
捕まってんじゃんとベイクドもちょちょは笑い、警備隊長も呆れた様に首を振る。
「クソ、しっかり歩け!」
そして背後からチームリーダーの悪態が聞こえて来た。千鳥足で肩を借りながらラターシャがやって来る。
「ラターシャ!」
門、正確に言えばフェンスや廃材等で作られたそれの隙間から青年が叫ぶ。名前を呼ばれたラターシャは焦点がイマイチ合わない顔で門の方を見た。
「らいおすさんの声……」
「ほら、無事だろ?」
「あーらーおすさーん」
ラターシャは何が面白いのかケラケラ笑い、ふらふらと門の方に歩いて行った。
「簡易ベッドと毛布、あと焚き火をそこに置いてやれ。
ラターシャ、今日はそこで寝て良いぞ。何か有ればそこら辺にいる部下に言え。
冒険者共も日が登ったら門開けてやる。破ろうとしても良いが、その際はお前等全員殺す。
ビールいるか?」
「いりまふ!」
「ダメに決まってんだろ!
ボス!アンタら2人で良いだけ飲んでたでしょう!」
警備隊長が怒り、周りの兵士達もバスずるいと、叫ぶ。
「2人で100本近く飲んでたわよ」
「馬鹿バラすなよ!」
ベイクドもちょちょは全員から大ブーイングを受けながら城の中に走って逃げて行く。
「やれやれ、困ったもんだよあの人には」
「でも、我々の信頼出来るボスだ」
警備隊長とチームリーダーはやれやれと城に帰って行く。それに合わせて冒険者達に集まったライトはまた周辺を照らす様に動く。
「お、おい!」
「話はまだ終わってないぞ!」
そして、冒険者達は慌てて叫ぶが2人は振り返るどころか完全に奥に消える。
「門の前で一晩泊まって良いぞ。
ゴブリン、だったか?あれや野盗、獣位なら俺達で追い払ってやる。安心して寝てくれ」
そして、パイプ椅子を持って来てドラム缶の焚き火の近くでラターシャの監視役であろう兵士が告げる。当のラターシャは簡易ベッドに寝転がり、毛布を被って寝てしまった。
その後、時折銃声が聞こえつつも比較的静寂が保たれつつ夜が明ける。
「日が登ったぞ!早く門を開けろ!」
ライオスと呼ばれた冒険者が叫び、見張りの兵士がトランシーバーで何か連絡を取る暫くするとベイクドもちょちょと警備隊長、チームリーダーがやって来る。
「せっかちな奴だな。
開けてやる。序でに昨晩殺したゴブリンとかそう言うの回収して来い」
ベイクドもちょちょの指示に兵士達がテキパキと行動し始める。門の前でいまだに簡易ベッドで寝ているラターシャはベッドごと中庭に移動させられる。
また、朝飯の準備が始まりベーコンや炒り卵を炒める匂いも漂ってきた。それからジリリリと音が鳴り門がゆっくりと開く。動力は昔ながらの人力による巻き上げ式だ。最も滑車とギアにより少人数でも十数トンは余裕であるであろうその門はゆっくりとだが開く。緊急時はこのギアを壊して門を一気に閉めたりできる。
門が開くと冒険者達は剣を抜いたり、矢を弓に番えて足早に入って来た。しかし、次の瞬間、足元に弾丸を叩き込まれる。
「ルールその2!
指示が無いのに無闇矢鱈に武器を抜くな!守れねぇ奴は殺す!」
そう叫ぶのは警備隊長で、周りの兵士達は全員銃口を冒険者達に向けている。
その中で唯一マイペースに動くのはベイクドもちょちょで、皿に装ったベーコンやポテトサラダ、炒り卵の匂いを嗅いでいる。
「取り敢えず、飯食おうぜ。
ラターシャ!テメェ何時迄寝てんだ!」
そして、ラターシャが寝ている簡易ベッドを蹴り上げるとラターシャを地面に落とす。
「フギッ!?」
ラターシャは顔面から落ちて変な声を上げ、そんなラターシャを見たベイクドもちょちょは大笑いする。
「起きろ寝坊助。
朝飯だ」
そして、簡易ベッドにランチプレートを置く。
「飯を食ったら帰って良いぞ。
帰ったら日没までに俺の部下達を返せ。返さなきゃ、お前等の街を滅ぼしに行く」
ベイクドもちょちょはそれだけ言うと集めて来たゴブリンや大型の狼等を置く。
「解体して魔石を集めろ。
このデケェオオカミも魔物か?」
「そ、そうだ」
「じゃあ、そのオオカミも解体して昨日みたいに外に積め。俺が燃やす」
ベイクドもちょちょは笑うと脇の椅子に腰掛ける。兵士達は手際良く解体して行く。
「グレートウルフは、牙や爪も売れますよ」
ラターシャがベーコンを食べながら告げる。
「魔石以外にも売れる部位もあるのか。
ゴブリンは?」
「無いです」
「武器は?」
「あれより良いものがありますから」
「なら捨てるぞ。
おい!ゴブリンの武器も一緒に燃やすぞ!あと、狼の牙と爪も取っておけ。ラターシャに魔石と牙、爪を預けて換金させる。
ラターシャは街にいる俺の部下に持たせろ」
兵士達が死体や武器を持って正門に積み上げていく。
粗方積み終わり、兵士がベイクドもちょちょに報告をする。
「離れろー燃やすぞー」
火炎放射器のノズルを死体の山に向け、炎を放出する。その炎の勢いに冒険者達は驚愕した。
「なんて火力だ!」
「上位魔術位の火力だ!」
「射程もファイヤーアローも比じゃないぞ」
魔術師の様な格好をした連中が驚愕していた。
「俺の火炎放射器が気になるか?」
ベイクドもちょちょが告げると周りの兵士達は待ってました!と囃し立てる。
「ヒドラジンをメインとした混合可燃物を約60メートルまで飛ばせる。
この燃料だけで人間は溶けるし、ただの液体燃料と違い、ジェル化してるから中々落ちないぞ」
「普通は落とす前に溶けて大変な事になりますぜボス」
警備隊長が呆れた様に告げるとベイクドもちょちょは違い無いと笑う。
「日没までに昨日出した連中が帰って来なかったら街を焼きに行く。
城に最低限の警備を残して全力出撃だ」
「たかが3000ポッチの街ですぜ?
そんな出撃しなくてもあっという間です」
警備隊長が過剰だと言うがベイクドもちょちょは首を振る。
「お前、ハリーポッター相手に銃弾効くか分かんねーだろ。
マグルなんだぞ俺たちは?」
「なるほど。
ならマグルの実力が何処まで通じるか、ですね」
「そうだ。
お前等も重装備だ。装甲車も出せ」
ベイクドもちょちょの言葉に兵士達が一段の盛り上がりを見せ、兵士達が俄かに忙しく走り出す。
「ボス、火炎放射器持っていきますか?」
「ああ、灰燼にしてやれ」
ベイクドもちょちょは実に楽しそうに笑った。
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