第5話
人質を取り、同時にこの世界の常識を集める、ギルド側にも自身の部隊を差し向けたベイクドもちょちょは作戦室にて軟禁しているギルド職員の女の前に座る。
「よぉ、人質。
腹は減ってるか?」
「い、いえ、大丈夫です」
ベイクドもちょちょは飯だ、とレーションとペットボトルに入った水を投げ渡す。勿論、女はレーションの入った袋を手に取るも、未知の材質と作りを前に困惑した。
「作ってやれ。
お前ら人間にも魔石あるの?」
ベイクドもちょちょは先程回収したゴブリンの魔石を並べていく。並べた魔石は棒人間を作り出していた。
「わ、我々には魔石は産まれません」
「何故?」
「わ、分かりませんが、魔物達と違って魔力を溜めづらく比較的消費も早いから、と考えられてます」
「ふーん。
集めた情報一覧」
ベイクドもちょちょが言うと脇にいた兵士が書類の束を差し出した。
それを受けとったベイクドもちょちょはペラペラと捲って行く。その中に気になる文章を見つけたのか、手が止まった。
「……この、なんだ?精霊教ってのは何だ?」
「わ、我々人間が主として信仰している宗教です」
「街にこの宗教の教会はあるか?」
「も、勿論です。教会は神聖属性の付与や聖水、ポーションや治療院を運営しているので」
女の言葉にベイクドもちょちょが顔を顰め、脇にいた警備隊長を見た。
「今の話、どう思う?」
「かなり、文明度が低い様に思います。
昔のキリスト教がそんな感じだった筈ですぜ、ボス」
警備隊長の言葉に頷くとベイクドもちょちょは笑う。
「お前、顔と違ってすげー博識じゃん。スゲーな」
「ありがとうございます、ボス。それと顔と違っては余分ですぜ。しかもボスには言われたく無いですぜ」
警備隊長が苦笑しながら答えると周りの兵士が確かにと笑う。
「はぁ?
俺の何処がバカそうなんだ!このプリティな顔の!」
ベイクドもちょちょはテーブルをバンバン叩いて周囲に自身の顔を見せる。
「少なくとも今のボスは可愛らしいですが、博識には見えませんよ」
「違いねぇ」
周りの兵士達が笑い、ベイクドもちょちょはフンとそっぽを向いて拗ねる。
そこにレーションを作った兵士が女の前に置いた。
「食え。
そして感想を言え」
女は恐る恐る赤いスープのような物を口に運ぶ。濃い味付けであるが、美味に近い。ボソボソだが甘いパンにそれに掛けるジャムのようなもの。黄緑色に澄んだ謎の飲み物などなど。
一通り口にしたがどれもこれも味が濃く、そして脂っぽいが食べられないものでは無い。
「お、美味しいです」
「マジかよ。
俺にも作って持ってこい」
「り、了解ボス」
兵士達がどよめき、警備隊長も俺にもと告げた。
「そう言えば、お前もそよ精霊教とか言うの信じてるのか?」
「は、はい」
「その精霊教は食べちゃいけない食べ物とか生き物あんの?」
ベイクドもちょちょがレーション、MREのパッケージを見る。
「基本的にそう言うものは有りません。
た、ただ、同じ人間は、その、禁止と言うか……」
「あーそれはそうだろ。病気にもなるし、俺たちはゾンビじゃねぇからな」
なぁ、とベイクドもちょちょは周りの兵士達に告げると全員がハイと頷いた。
「取り敢えず、情報は有ればあるだけ良い。
お前からはお前が知っているあらゆる情報を聞き出す。明日には情報収集隊も帰ってくる。
それと、出入り口は正門だけで夜間は何があっても正門は開けん。日没以降は例え誰が来ようとな」
分かっているな?とベイクドもちょちょが警備隊長を見る。
「ええ、夜は奴らの時間。
本番はここからですぜ、ボス」
警備隊長が傍にいた兵士に暫くはナイトメアの体制だと指示を出すと兵士は部屋から出て行った。
「よ、夜に何かあるのですか?」
「基本的に、俺たちの世界はゾンビ共に負けた。連中は夜にも動く。昼間と違って夜の方が発見率が低い。夜に殺される人間は昼間に殺される人間の倍以上だ。
だから夜は厳戒態勢を敷く。例え親でも門は開けん。それがこの城のルールだ」
ベイクドもちょちょはそう告げるとリモコンを操りテレビを付ける。当たり前だが砂嵐だった。
「電波はやっぱねぇよなぁー」
「そ、それはなんでしょうか?」
「テレビだよ。
この国の文化レベル、いや科学技術が低すぎる。銃もないようだしな」
ベイクドもちょちょは資料をペラペラと捲る。
「いや、マスカット銃と前装式の大砲はあるのか。どっちにしろ独立戦争クラスよ」
「それに魔法が有りやすぜボス」
警備隊長の言葉にベイクドもちょちょはニヤリと笑う。
「いーねー俺もホグワーツに入校だな」
「ボスはホグワーツの前にアズカバンでしょう」
「ならお前も一緒だこの野郎」
ベイクドもちょちょは女を見る。女は苦笑を浮かべている。
「取り敢えず、明日の朝日が昇るまではこの部屋から出るなよ。トイレは近くの奴に言え。監視を付ける。
眠くなったら其処にあるベットと毛布で寝ろ。用があったら叩き起こす。用がなければこの部屋の中で好きにしてろ」
ベイクドもちょちょはそれだけ告げるとお前達も下がって良しと兵士達を下がらせる。兵士は完成したMREを置くと去って行った。
「んじゃ、食ってみるか」
「ええ」
2人はMREを食べ始め、そして、顔は顰めっ面になった。
「これが美味いとか、本気か?」
「味が濃すぎるし、脂まみれ。
こっちの世界はよっぽど食文化が低いんでしょうな」
2人は無言でMREを食べ終え、警備隊長は部屋も去っていった。
「さてはて」
ベイクドもちょちょは資料を再度確認して行く。そこから読み取れる情報はベイクドもちょちょが想像していた「異世界」でありその常識がだいぶ通用することが分かった。
その中でも更に特殊な内容、社会構造や通貨などなどに赤マジックで線を引いていく。
「おい!」
そして、廊下にいるであろう兵士に対してベイクドもちょちょが叫ぶと兵士が入ってきた。
「どうかしましたかボス?」
「これをコピーして赤線引っ張った場所を強調して冊子作れって兵站部に持って行け。
この国の常識辞典バージョン1だ。
明日までに一冊仕上げて持ってこい」
「分かりやした」
兵士はトランシーバーで代わりの見張りを呼び、そのまま部屋を後にした。ベイクドもちょちょはそれを見送ると、目の前で固まっていた人質の女を見る。
「何してんだお前?」
「い、いえ、何でもありません……」
「そうか」
女は手持ち無沙汰にキョロキョロしてみたり、テーブルに乱雑に置かれた何かの雑誌を見てみたりする。
とても鮮やかな、そしてとても精巧かつリアルな、まるで景色を切り取って貼ったかのような絵だ。もっとも、景色の前に実に破廉恥な格好をした女が扇情的なポーズを取っているのはいかがな物かと感じた。
「その雑誌が気になるのか?
読みたいなら読んで良いぞ」
ベイクドもちょちょは視線を一瞥すらせずに自身も同じ様に投げられた本を読んでいた。紙を重ねて閉じただけだが非常に丈夫で高そうな紙だ。
女は内容に興味は無かったが余りに高そうな本を恐る恐る手に取って慎重に捲る。書いてある文字は一切読めなかった。ギルドで事務員として勤めているので識字は出来るし、何ならある程度の言語も知っていた自信があるが、その知識外にある文字だ。
「この本は、一体……」
「あ?
そりゃ低俗な雑誌だよ。ガキが鼻の下伸ばしながらマス掻くか酔っ払いが娼婦と寝る前に読む何の価値もねぇ雑誌だ。
言い換えれば男の馬鹿が集まった集大成とも言えるな。
残念ながら、この部屋にゃアンタが好みそうな雑誌はねぇな」
ベイクドもちょちょは笑いながら立ち上がり、女が見ていた雑誌を手に取りパラパラと捲り脇に捨てる。
「なっ!?こ、高価な本では無いのですか!?」
「ねぇよ。
こんなんビール一本と同じぐらいの価値しかねぇよ」
ベイクドもちょちょはゲラゲラ笑いながら脇の冷蔵庫からビールを取り出した。缶ビールで、2本出すと一本を女の前に置く。
「ビールは飲めるか?」
「え、えぇ、飲めます」
「じゃあ、飲もうぜ」
乾杯とベイクドもちょちょはニヤリと笑い缶を掲げるので女は慌てて缶を持ち上げた。それにカンとぶつけ、封を開ける。
女はそれを見てから恐る恐る同じ様に封を開け一口。それは女が今まで飲んだビールと違って非常に冷たく、そして、喉越しが良かった。
それから一気に半分ほどまで飲んでしまう。
「ガハハ!
美味いか!」
「は、はい!」
ベイクドもちょちょは席を立つと先程の冷蔵庫を開ける。それから驚いた顔をしたが一瞬でその顔を消してビールを一掴み持って来た。
「幾らでもある。好きなだけ飲め!」
ベイクドもちょちょは缶を煽り、空になったので握り潰して脇に捨てた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます