第4話

 チームが帰ってくると連絡があり、入り口付近に迎撃チームを臨時編成して出迎える。ベイクドもちょちょも火炎放射器を構えて立っていた。

 暫く待つと、馬二頭が馬車を引いてやって来るのが見える。


「あれか?」

「……はい、馬車の操縦席って言うんですかい?あそこにボスの配下の奴が乗ってます」


 脇で双眼鏡を覗いている警備隊長が答えた。

 近付いてきた馬車の運転席、御者台にはショットガンを持った兵士が乗っている。


「周辺警戒だ!」


 ベイクドもちょちょの言葉に兵士達は周囲に展開する。


「そのまま中に入れ!」


 ベイクドもちょちょは馬車を入れ、周りの兵士達も順次中に入っていく。そして、ベイクドもちょちょが最後に門を潜ると、門が閉められる。


「報告しろ!」


 ベイクドもちょちょは馬車の荷台から降りてくる自身のチームに告げるとリーダー格の女が足速に駆け寄って来た。


「報告します。

 偵察目標は規模1500名の街でした。道中、大型の狼なような獣に襲われていた現地住民を発見し、救出しました。怪我人は居ません。

 その者らを介して冒険者とか言う連中を取り纏めている組織の一員を連れて来ました」

「我々の敵では無いな?」

「そこは何とも。

 少なくとも、味方ではありません」


 女の言葉にベイクドもちょちょは頷いた。


「よろしい。

 お前達は休憩していろ。冒険者組織の連中はそこの椅子に座らせろ!

 監視は外を見ろ!人間なら俺達だけで殺せる!グレムリン共を近寄らせるな」


 ベイクドもちょちょが怒鳴りつけるように指示を出すと全員が素早く持ち場に戻る。

 それから用意された椅子に冒険者の統括組織から派遣されて来たらしい2人の男女は座らされた。


「で、誰だお前等は?」

「わ、私達は冒険者ギルドから派遣され「ぼうけんしゃぎるどぉ?」


 ベイクドもちょちょは眉を顰めた。間違いなくゲームにはそんなギルドも組織もないのだ。


「おい、グレムリンの写真もってこい」


 ベイクドもちょちょは脇の兵士に告げると兵士は走って行く。


「ボウケンシャってのは何するんだ?

 宝探しでもするのか?」


 なぁ?とベイクドもちょちょは脇にいた兵士に馬鹿にしたように笑うと兵士達も嘲笑に似た笑い声をあげる。


「ネモ船長も居るのか?」

「海底2万マイルか!」

「アトランティス探しでも良いな!」


 全員が一頻り笑い、ベイクドもちょちょがで?とギルド職員を見る。

 その威圧は途轍もない。小柄になってもその威圧は凄まじかった。


「で、ボウケンシャは何をする?」


 ベイクドもちょちょは被っていたヘルメットを脱ぐとテーブルに置く。


「ぼ、冒険者とは、市井の様々問題ごとを解決したりダンジョンの探索をします。

 冒険者は我々冒険者ギルドが統括してこの世界のあちこちにあります」

「つまり、何でも屋と何でも屋の取り纏めっつー事だな。よし分かった。

 それで本題に入ろう。お前等は何の用事だ?」


 ベイクドもちょちょはギルド職員を見る。

 ギルド職員達はお互いに顔を見合わせると意を決したように切り出した。


「げ、現在、貴方方には今朝方起きた魔術爆発の嫌疑が掛かっています。

 付きましては此処の代表者はギルド及び市民評議会に説明を」

「知るか。

 俺達だっていきなりここに来たんだ。文句があるならお前等が会いに来て直接言え。

 写真!」


 ベイクドもちょちょがテーブルを蹴飛ばし、脇に控えていた兵士が直ぐに写真を差し出した。


「今朝方、ここに来たばかりにこのグレムリン擬に襲撃された。

 これはお前等の仲間か何かか?」

「こ、これはゴブリンと言う魔物で、我々人類の敵です。冒険者の討伐対象となっております」

「成程。

 じゃあ、ゴブリンの胸にあったこの変な石は何か知っているか?」


 ベイクドもちょちょは写真を漁り、先程の石の写真を見せる。


「これは魔石です。ゴブリンのものですので大した活用は出来ません。

 売るにしてもその一つだとパン一つ程しか買えません」

「ボス!」


 其処に伝令が走って来た。


「何だ」

「その、グレムリンの偵察と思しき少数の組が多数居ます!」

「殺せ。

 無駄玉を使うなよ?殺した死体は全て持ってこい。死体の中から光る石を大量に集めろ。ついでに武器まだ。

 石は金になるらしい。武器は事後の研究用だ」

「分かりましたボス!」


 伝令は敬礼をすると走って帰って行く。

 暫くすると彼方此方から銃声が響き、暫くすると武装した兵士達が正門からリアカーを引っ張って出て行く。


「それで、なんだったか?

 グレムリン……じゃなくてゴブリンだったか?

 ソイツ以外にどんな魔物がいる。お前等知ってんだろ?写真付きの図鑑とかねぇのか?」

「ぎ、ギルドに行けば図鑑があります」


 ギルド職員の言葉にベイクドもちょちょは脇にいた兵士を呼ぶ。


「カメラ持って此奴等と一緒に行きギルドの図鑑全部写真撮ってこい」

「はい」


 兵士は直ぐに城に戻っていく。


「この世界にゾンビは居るか?」

「え、ええ」

「世界はゾンビによって滅ぼされかけているか?」

「は?いえ、まぁ、地方の小さな村くらいなら滅ぼされたと言う話はたまに有りますが、それよりもゴブリン等の魔獣や山賊被害の方が多いです」


 ギルド職員の言葉に周りの兵士達がどよめいた。仕方ないことだ。彼等または彼女達は皆家族や友人、親しいもの達を皆殺されたのだ。


「黙れ!

 浮き足立つな!」


 ベイクドもちょちょの言葉に兵士達は口を閉じ自身の目の前の仕事に向き直る。


「話を纏めると、ゾンビはいるがゴブリンや山賊の方が多いと?」

「はい、そうですね」


 ベイクドもちょちょは大きくため息を吐き額に手をおく。


「どうかなされましたか?」

「オレ達は赤ん坊だ。

 何もかもが分からん。この女を作戦室へ連れて行け、一般常識から始まって全てを聞くのだ。

 そこの男は取り敢えずギルドに連れて帰れ。図鑑の写真や街の地図、無ければ略図を取ってこい。

 遠征班を組織してトラックで行け。今直ぐかかれ。女、お前は人質だ。男、この女は人質だお前等が変な事をしなければ五体満足で返してやる」


 ベイクドもちょちょが告げると兵士達が女を拘束して連れて行き、男は立ちあがろうとして銃口を向けられた。

 その道具について男はあまり理解していないが、少なくともゴブリンを一撃で殺せる威力がある。黙って従うしかないのだ。


「オレ達は別にお前らと戦争をしたいわけじゃねぇ。

 だが、お前らを信用すらして居無い。その為の保険だ」


 ベイクドもちょちょが言うと同時に正門から外に出ていた兵士達がゴブリンの死体を持ち帰って来た。


「血は凡ゆる病を呼ぶ!

 特にこの世界は俺達の世界じゃねぇ!解体する際は気を付けろ!

 おい、ゴブリンの肉とかはお前ら食うのか?」

「た、食べません!ゴブリンなんて!」


 男が首を振った。


「なら、石を取ったら全て城の前に積め。俺が燃やす!」

「も、燃やすのでしたら先に燃やしても魔石は残ります」


 男の言葉にベイクドもちょちょはふむと考える。しかし、首を振った。


「魔石の位置は全て胸か?」

「はい。心臓の近い位置に魔石は生まれます」

「心臓の位置に魔石がある!

 それを抜いたら外に積め!」


 ベイクドもちょちょの指示に兵士達は素早く胸を開き石を取り出す。


「ゴブリンとは今日初めて会ったのですよね?

 何故、皆、石の位置が分かるのですか?」


 男の質問にベイクドもちょちょは笑う。


「この城に心臓の位置を知らねぇ奴なんか居ねぇよ。

 昼間、ゴブリンを解体して人間と同じ構造してるって分かったからな。それさえ知っていれば後は誰だって分かるに決まってるだろうが」


 何言ってんだ、とベイクドもちょちょの言葉に男は戦慄した。


「貴方方は人の体の構造を理解していると?」

「ああ、そうだ。

 当たり前だろう?大まかな作り等は義務教育の範疇だ」


 ゴブリンが全て解体し終わり、正門の外に積まれる。兵士が終わりましたと報告して来たので、ベイクドもちょちょは頷いた。


「おーし!

 ゴブリンの糞どもに俺達の城を襲うとどうなるか見せてやる!!」


 ベイクドもちょちょは高笑いと共に火炎放射器でその山に火を放つ。

 ゴブリン達は一瞬で燃え上がり黒々とした煙と業火によって焼けていく。兵士達はそんな様子に歓声を上げ、ベイクドもちょちょを讃えた。


「お客人が帰るぞ!

 街まで送って差し上げろ!」


 そして、その言葉を合図に兵士達は男をトラックの荷台に押し込み出発して行った。時刻は17:00だった。

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