第3話
ブルーシートの上に置かれた仮称グレムリンを前に医療班長を含めた各班長やベイクドもちょちょが囲んでいた。
「ハゲた猿みたいっすね」
「何で体が緑なんだ?」
「弓矢や棍棒、何か雑な槍等で武装してたぞ」
先ほど戻って来た者達が口々に思った事を述べた。
「取り敢えず、アサルトライフルで死ぬんだろ?」
そんな意見を纏める様にベイクドもちょちょが尋ねる。
「はい。
しかし、小さくすばしっこいので戦闘になる際消費する弾薬の量が上がります」
「現に、コイツ等5体を倒すのに3名合わせて90発を撃ちましたが、3分の2は外れました。
動揺等もありましたが、戦闘慣れした動きで銃と言う物は知らない様でしたが飛び道具の存在は認知している様でした」
報告に対してベイクドもちょちょは頷いた。
「ショットガンは効くのか?」
「分かりません。
可能ならそこら辺の情報も集めたいです」
ベイクドもちょちょは頷いた。
「何方にしろ俺のチームが戻って来たら周辺パトロールを出す。
それと同時にこの周辺を開拓する。医療班はこのグレムリンを解剖しろ。どんな存在で、何処が弱点なのか。更には脳の大きさから知能を推し量れ」
「はい。
それでは、開きます」
医療班長が胸を開く。周囲からはうわとかうげと言う声が上がった。
「グロいが、血の色は赤いな」
「心臓の位置や肺、肋骨の作り、これは胃ですね。
殆どの人間と同じ体の作りです……ん?」
医療班長が何やら無造作に手を突っ込むと何かを引っ張り出した。
「胆石……では無いですね」
「タンセキ?」
「ええ、胆嚢って器官……これですね。
ここに出来る石ができる病気があるんですが、本来は臓器の外には出来ないんです」
ゴブリンの体を使って説明が続く。
「あー、ニョーカンケッセキって奴みたいなもんか」
「ええ、そんな感じのものです。
しかし、胆石とも尿管結石とも違い、何やらとても綺麗な石です」
医療班長はトレーに石を置くと解剖を進める。
「直接の死因は心臓及び肺に当たった弾です。
これは5.56ミリですね。手足には散弾も当たっていますね。ふむ」
医療班長は素早く解体を進める。
全員が顔を顰めつつもその様子をしっかりと見る。ベイクドもちょちょが情報は命より重いと常々言っているからだ。
「コイツは右腕と右足に散弾を受けてますね。右腕は人間で言えば骨が砕け、腱も切れてます。神経と筋肉もズタズタで、完治一年で一生障害が残りますね。
足も同様です。私の見立てでは此処に散弾を食い動きが止まったところでアサルトライフルの弾が当たったんでしょう」
医療班長が次は頭を開きますと告げて頭を解体し始めた。
ベイクドもちょちょはそんな様子を見ながら思考する。仮称グレムリンはどちらかと言えばゴブリンと言うイメージに近い。
弓矢を扱い矢を作れるし、槍などを作って使える。また、話を聞くところによると集団で戦い戦闘にも慣れている様子だったと聞く。
つまり、それ相応の知能がある。道具を使うならチンパンジーでも出来るが集団で道具を複数使った戦闘となると次元が違う。人間レベルの知能が必要になるのだ。
「警備隊長」
「なんですボス」
「このグレムリン共は人間レベルの知能がある。
ガキの大きさで民兵程度の戦術がある。そう言うレベルだ。周囲の警備設備は他のギルドと戦えるだけの設備に仕上げていけ」
「分かりやした。任してくださいボス」
警備隊長が頷く。
「ボス、これは……かなり脳がデカいです。
少なくとも人間の子供くらいはある」
そして、頭蓋骨を切って脳みそを取り出した医療班長が告げると全員が驚愕したような声を上げる。
「つまり、辞めて掛かると死ぬって事だ。
対処は奇襲、気が付かれた場合は散弾で足を撃って動きを止めたところを胸や頭を撃て。
各セクションの長は全員にこの情報を徹底しろ。
作戦部は警備部と医療部と話し合いこのグレムリンの対処マニュアルを作れ。
俺のチームが帰ってき次第そちらからの情報も統合させろ。
兵站部は警備部と協力して周辺の木を切って城の強化と周辺の警備設備に付いて話し合え。
この異常事態がいつ解決するかも分からん。
休息と食事は必ず取れ。ゾンビ共の対策よりも厳にしろ。
今一度気を引き締めろ、以上だ」
ベイクドもちょちょの言葉に全員がハイと返事をして去って行った。
愈々、元いた世界ではない。ベイクドもちょちょは脇にあった社長椅子に腰掛けた。被っているヘルメットを脱ぎ、脇に置かれた火炎放射器の上に。
「えーこれ、はぁー?
マジでどーすんのよ。俺、帰れるの?今日仕事よ?」
はぁ、とため息を吐いたベイクドもちょちょは腕時計を見る。改めて情報を整理すれば、サーバーダウンの00:00だったが、現在時刻は11:47になっている。体感ではまだ5時間も経っていない。転移後に来た時間をしっかりと時計で確認してはいないが、08:00頃だった。
「まーこの時間が正しかったら確実にスマホに鬼電とメッセージなんだけどさー」
はぁ、と再度溜息を吐いたところでふと疑問が湧き出た。この格好を変えると周りはどんな反応を示すのか?
どうせ怒られるなら楽しもう、そう言う思考が生まれそして、この非常識な現状に周りの元NPCが何処まで対応出来るのかも気になる。
ベイクドもちょちょが出す非常に曖昧な指示にも的確かつ確実に実行し、何なら足りない所を補う様に意見具申までする。
「ふむ」
PDAを操作して外観変更チケットを一枚取り出す。それを破るとPDAに新しいウィンドウが表示される。
そこからプリセットの外観から1から作る、過去に作って保存した力作をロードするなどの項目があり、ベイクドもちょちょは過去作をロードする事にした。
現在の外観は身長が190センチ、体重は95キロの筋肉質、顔は如何にもな髭面の悪役顔を作った。
なので、全く真逆の可愛い少女のアバターをロードする。と、いうかこの外観が本来の外観でこのギルドが一躍有名になった際に今の悪役みたいな物に変更したのだ。
「おー、久しぶりだなぁこの視界。
声帯も変えるか。なんだったかなあの設定」
ベイクドもちょちょは暫く声帯、正確に言えばボイスチェンジャーを弄る。
「あーあー
もうちょっと高くだな。これじゃ少年だ」
喉を抑えて顔を顰め、PDAを弄った。
「あーあー
高すぎだ。金田ボイスだってもうちょっと低い」
ヘリウムガスを吸ったかのような声だった。
「あーあー……うん、これだ!」
しっくり来たのかベイクドもちょちょは頷いて決定ボタンを押してPDAを仕舞う。
それから脇に置かれた装具を見ると縮んだ身長に合わせて装具も小さくなる。
「うわ、変わったよ」
ベイクドもちょちょはヘルメットを被り火炎放射器を背負う。そのまま屋上に向かった。
「ボス、どうしました?」
「ちょっと実験」
見張りの兵士が気が付き寄って来たがそう答えると兵士は頭を下げて元の配置に戻る。
ヘルメットを脱いでまた別の見張りの隣に向かう。
「何か変わった事や変化は?」
「はい、今の所何もありません。
警備隊長からグレムリンの襲撃がある可能性があるとの事でしたので、サーマルを使って監視もしております」
兵士はベイクドもちょちょの外観や声の変化に一切の疑問や違和感を覚えた様子も無く報告した。
「うん、良いぞ。
奇襲と強襲では我々の対処が変わる。敵の難易度も変わる。
グレムリン共に俺達の恐ろしさを味合わせろ」
「はいボス!」
ベイクドもちょちょは頷いてヘルメットを被ると中に戻った。
「結果は変わらない、か。
ならこれで行こう。本来はこっちが良い」
ベイクドもちょちょは作戦室に戻る。作戦室には警備隊長が居た。
「なんだ?」
「ボスのチームから無線連絡がありました。
道中、デカい狼に襲われていた現地人が居たので助け、序でに近くの、これは当初の目標だった街にいた原住民の幾人かがボスと話したいとの事で連れて来るそうです」
「わかった。連れて来い。
近くなったら連絡を入れろと言っておけ。
チームが帰って来たら警備を厳にして出迎える。マスクの着用も確実にしておけ。どんな菌を持ってるか分からん」
「分かりました」
警備隊長が頭を下げて出て行く。
ベイクドもちょちょは椅子を外が見れる位置に引き摺ってくると腰掛ける。
「やれやれだな」
意外にやることはない。ベイクドもちょちょはチームが帰ってくるまでPDAの再確認を始めた。
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