第32話:リグの狩猟



 タンクローリーの奪取は、流石に四人で行動する事にした。ノルン側から銃やレーザーで撃たれる事が無かったとしても、車そのものが凶器になり得る。

 カレンのハッキングシステムも上手くいくとは限らなかった。確実にハックできるとは、彼女も言い切る事はできない。状況次第だが、タンクローリー車と物理的に接続する必要があるかもしれないと、事前にカレンは説明した。


 ベンツのSUV車に四人乗り合わせ、目的地近くとなる八王子インターに入る手前で止まり、車を路肩に寄せた。

 先導偵察はリョウジが行い、殿しんがりはカズヤ。その間をカレンが挟まり援護される側になる。シンジは車に残り、何かが起こった時にすぐ逃げられるようにしておく。

 車から降りる前にそれを互いに確認した後、3人は周囲を警戒しながら下車した。

 カレンは銃を構えずに肩からぶら下げ、その代わりにタブレットを操作しながら、リョウジの後を少しだけ開けつつ付いて行った。カズヤはカレンをいつでも守れるようにぴったりと張り付いて移動する。


 八王子インターチェンジの長いスロープを徒歩で移動している間にも、自動化されたトラックが何台か高速道路へと合流していった。トラックが通り過ぎる度に、突然進路を変えて轢き殺そうとするかもしれないと冷々しながら、慎重にスロープを登っていった。


 スロープを登りきった高速道路上では、渋滞こそ起こってないが、様々なトラックや車が等間隔を開けて走っている。積荷の安全性を優先しているのか、車の速度はやや遅めに感じた。

 それはリョウジの視力の良さと相まって、遠くからでも車種を判定する事ができた。

 三人は車に轢かれないよう、路肩の壁面に背中を付けながら、行き過ぎる車列を眺めている。

 そして、十分ほど経った後、ようやく目当ての車種を見つける事ができた。


「タンクローリー、3台連続で来ますね」


 リョウジの言葉が出るのと同時に、シンジが車から発進させた偵察と中継を兼ねたドローンが彼らの頭上を通過する。

 カレンはタブレットを操作し、そのドローンとリンクさせた。


「一台目を止めて渋滞を起こす。時間稼いでる間で三台目を本命として狙うぞ」


 カレンの言葉を受け、二人はほぼ同時に彼女の肩を軽く叩いた。カレンはすぐには理解できなかったが、ハンドサイン的なものであると理解した。

 周囲の警戒を二人に任せ、カレンはタブレット操作に集中する。ドローンの機首を一台目のタンクローリーに照準を合わせ、いくつかのコマンドを打ち込んだ。

 ほんの数秒程待たされた後、画面に「|Connect permission granted《接続許可》」が表示されると、カレンはその場で座り込み、MRゴーグルを素早く装着した。背中をカズヤに文字通り預け、もたれ掛かる。

 さらには早口の英語で指示を出しつつもタブレットを何度もスワイプとタップを繰り返した。


「プロトコルヘッダーを偽装。ノルンパターンA3で展開。車両故障用の疑似ファイルを用意。ファイルタイプはイメージファイル。ベースはQ32で、コードタイプはUTF-16」


 リョウジは迫ってくる3台のトレーラーを目で追いつつも、横目でカレンのタブレットを覗き見るが、余りにも早い展開で読みきれない。

 カレンは英語で呪文のようにコマンドを喋っているが、殆どがコンピューター用語なので、リョウジにもカズヤにもある程度通じた。


「イメージファイルの冒頭256キュービットは任意のランダムな画像データ。その後、前方右側のタイヤ圧に異常発生。走行不能フラグを挿入し、以降は256x256のノイズを付加」

『量子化ファイル[転送開始]』


 その表示を確認後、車の騒音に掻き消されないよう、カレンは大声でリョウジとカズヤに伝えた。


「一台目のトレーラーのスピードを落とす。前方右側のタイヤを銃でパンクさせろ!」

「了解!」


 銃撃はカズヤの役目だ。シンジのものと入れ替え、今は重機関銃を構えている。すぐには撃たずに、眼の前に来るまで待ち構えた。

 タンクローリーのトレーラーヘッドはコマンドを受け付けたのか、徐々にスピードを落とし、前の車列との間隔が空いてきていた。少し左右に揺れながら、カレン達の目前に迫ってきている。


「ウイルス量子化ファイル『宅配爆弾』を送信」

『量子化ファイル[転送失敗]』

「ウイルス量子化ファイル『手榴弾』を送信」

『量子化ファイル[転送失敗]』

「チッ! ウイルス量子化ファイル『ピザ出前』を送信ッ!」

『量子化ファイル……[転送成功]』


 ウイルスファイルの送信に手間取った分、トラックは既に射程距離圏内どころか、眼の前にまで走ってきていた。


「コード『ピンポンダッシュ』起動ッ!」


 カレンが叫ぶのと同時に、トラックが急減速する。銃を構えていたカズヤはやや射線がズレてしまうが、咄嗟に体を動かし、タイヤを狙って数発打ち込んだ。

 破裂音と共にトレーラー前方のタイヤに全弾ヒットし、車はバランスを失った。それでも自動制御のお陰か、車全体が横転する事はなく、ややスリップしつつ、荷台側が押し出されて車体全体がくの字に曲がる。

 耳をつんざく音が辺りに響き渡り、元々スピードを落としていたお陰もあって、タンクローリー車はカレン達から十数メートル離れた場所で停止した。

 後続のトレーラー2台も、車間距離を十分に取っていたので、徐々にスピードを落とし、事故車の手前十メートル丁度で停止する。その後列も段階的に止まっていき、渋滞が発生した。


「よし! こっから本番だ。カズヤ、アタシを3台目に乗せてくれ!」

Copy that了解


 カレンは英語のまま喋り続けているので、カズヤもそれに合わせて英語で答えた。彼らも仕事柄、英会話の経験こそ少ないが英語を喋る事はできる。


 カズヤはカレンを小脇に抱えて走り出し、リョウジはその後ろを警戒しながら付いて行った。2台目のトレーラーが丁度盾代わりとなり、他の車が突入してくる事を防いでいる。

 3台目のトレーラーはややくたびれていたが、牽引しているタンク部分は比較的新しそうに見える。銀色に輝くボディは、ガソリン用などではなく薬品用のタンクである事を示していた。


 リョウジが先に運転席のドアを開け、カズヤがカレンを抱え上げて、半ば放り投げるように運転席へと差し入れた。


「What the hell have you done to a lady!?」(淑女に何てことしやがる!?)

「I don't get tips」(チップを貰ってないんでね)


 カズヤも緊張こそしていたが、冗談を言い合う余裕は持っていた。カレンが運転席に収まったのを確認すると、リョウジと背中合わせになり、周囲の警戒に移る。他の車が攻撃的な行動をする様子もなく、また警備ドローンが攻撃してくる気配は、今のところ無かった。カズヤとリョウジは互いに左手で相手の体を叩き、「異常なし」を伝え合う。


 カレンは運転席に座り直すと、ダッシュボードの横をまさぐり、ケーブルコネクタを探した。トレーラーの自動化を施す時には、かならず外部と接続するコネクタが強引に付けられている筈だった。

 丁度タコメーターの下あたりにぶら下がっているコネクタを見つけ出せたので、サイドポーチから光LANケーブルを取り出し、ハッキングボックスに接続した。さらにそのボックスは、タブレットにも接続されている。

 カレンが装着しているMRゴーグルは、AR拡張現実モードとなっており、現実の風景とデジタル表示が視界一杯に広がっていた。


「特製量子ファイル『魔女のお土産』転送開始」

『量子化ファイル……[転送中]』


 このファイルはサイズが大きいだけに、転送に時間が必要だった。事故を起こしたトレーラーがすぐに復旧することはないが、運送を担当している監督システムを越えて、東京を支配しているサブシステムにまで状況が伝わってしまうと面倒なことになる。そうカレンは予想していた。

 それに、パンク程度ではトレーラーを簡単に止めることは出来ない。強引に路肩に止めて、通行を確保するまで、そう時間は掛からない。

 カレンはジリジリとした焦りを持ちつつも、ゲームの戦闘曲を口ずさみながら、結果を待った。焦っている時ほど楽しむ。これがカレンのポリシーだった。


「あとどれくらい掛かる!?」

「ノルンに聞けよ!」


 カズヤも少し焦ってきているのか、大声で聞いてきた。リョウジも上空と1台目のトレーラーを注視していたが、その様子に少し変化が現れた。


「1台目のトレーラーが動き出しましたよ!」

「チッ、食えねぇメイドちゃんだぜ!」


 カレンは悪態をつきながらも、ファイル転送を大人しく待つしかなかった。急いで造ったウイルスファイルでもあり、圧縮率は低い。次はもっと小さくすることを自分に誓いながらも、遅々として進まないプログレス進捗バーを眺める事しかできなかった。


 一台目のトレーラーがふらふらと徐行しながら、路肩へと退避する動きをし始めるのと同時に、カレンの乗っている3台目のトレーラーのアイドリングが再起動した。


「まだか!? 名古屋に拉致されるのは御免だぜ……」


 ハッキングに失敗すれば、元々の運行計画に従い、場合によっては名古屋までノンストップで移動させられる事になる。カレンはそう言いながらも、戦闘曲を続けて口ずさみつつ、足を踏み鳴らして結果を待った。


『量子化ファイル……[転送完了]』

「コマンド! 氷魔法発動!」


 カレンが叫ぶと、トレーラーのエンジンが停止し、パネルやメーターが一斉に消灯した。数秒ほど間をあけて再び点灯し、エンジンが掛かり始めた。


「げっ! しくったか!?」


 1台目のトレーラーは既に路肩へと退避を終えており、2台目のトレーラーが微速ながら前進を開始した。

 だが、3台目もそれに連なろうという動きは見せず、そのまま停止したままだった。


『コマンド完了。全手動モードで再起動完了』


 タブレットのその表示を見て、カレンは一気に力を抜いた。ギリギリ間に合ったようである。


「カズヤぁ、運転任せる。あたしゃ疲れたよ」


 カレンは会話を日本語に戻しつつ、大きな溜息とともに気の抜けた声を出した。そしてのそのそと中央席へと移り、シートに深く座り込む。カズヤが運転席に乗り込み、リョウジは前方を大回りしてから助手席に乗ってきた。


「ヒュー、カレンちゃま、やったね!」

「ご苦労様です」


 カズヤとリョウジはそれぞれの言葉で、カレンを労った。実際、リョウジなんかはその手際の良さを見て、半ば憧れのスターに出会ったような顔をカレンに向けていた。


「んじゃ、次のインターで降りて、チーフと合流だな」


 カズヤは牽引車の運転経験は無かったが、ある程度であれば手動モードでもAIサポートが受けられる。ギアを一速に入れながら、ゆっくりとアクセルを踏んだ。



  *  *  *



 カレンとシンジが合流しようとしている時を同じくして、理研上空にて僅かな変化が現れる。カレンとリョウジが最初に造った偵察用ドローンが、探知圏ギリギリの場所で、別の飛行型ドローンをセンサーに捉えた。

 その情報は衛星を経由して、ミサキとフギンにすぐさま届けられる。


「不明ドローンが通過中でち。朝霞方面に進行中」

「所属不明なの?」


 元々ミサキの事務机の上に設置された、常時稼働状態となっているPCのモニター上で、ミサキとフギンの会話の様子が映っている。安全の為とはいえ、このPC経由でしか二人は会話ができない。そうするよう、カレンに設定されていた。


「不明でち。衛星経由の量子通信を行ってるようでちが、内容は盗聴できまちぇん」

「なら十中八九、ノルンでしょうね。朝霞には……自衛隊の駐屯地狙いかしら?」


 ミサキの予想通り、不明機は陸上自衛隊朝霞駐屯地の本部楝上空にてホバリングし、その後しばらく周囲を見渡すように旋回し始めた。


「不気味ね……通信を傍受できないの?」

「カレンちゃまが居ないと無理でちね。ハッキングツールも接続されてまちぇん」

「偵察ドローンをもう少し寄せてみて」

「了解でしゅ」


 偵察ドローンに搭載されているカメラは市販品のものであり、解像度がやや低い。ドローンから送られてくる動画データを見ながら、ミサキは思考した。


──自衛隊の総司令部は市ヶ谷のはずだから、今更朝霞を狙う必要は無いわよね……。


 さらには首相官邸も既に制圧下であろうし、カレンの話では米軍横田基地も掌握していたとの事だ。今更自衛隊基地をひとつ押さえても、ノルン側にメリットがあるとは思えなかった。


「我々の排除の為の軍備とかでちかね?」

「向こうには、こっちのドローンの存在は知られてるの?」

「可能性は多いにあるでち。恐らく既に把握されているでちよ」


 人類の資源や物資を利用しているとはいえ、ノルンの方が数世代先の技術を使って、自動化している事も十分に考えられる。

 民生機ベースの偵察ドローンを見つける事など、容易いのだろう。


「でもこちらに何のアクションも無いわよね?」

「でちね。無視されてます」


 モニターの中のミサキは、顎に指を乗せて、それから暫く黙り込んでしまった。



  *  *  *



 先行偵察ドローンは、現場監督ユニットの指示を受けつつ、朝霞駐屯地を隈なくスキャンしていた。この場所に来る途中、所属不明のドローンを発見したが、現場監督から脅威無しと判断され、その存在を無視した。

 繁殖した植物による視認性の悪さは、現場監督の補佐システムによるAI推定機能で補間され、野生動物の存在は確認したが、霊長類のものは存在しない。いくつかの死体を発見したが、義体部分を除いて風化が進んでいる。

 また、本部楝を始めとした周辺設備からは電波源も無く、ブレーカーによる停電状態であると推測された。


 驚異や危険は無いとされ、ドローンは更に高度を落として、詳細なスキャンを開始する。

 ドローン特有の甲高いモーターと風斬り音が響き渡り、安住の地として穏やかに過ごしていた狸や犬、兎や猫たちが一斉に驚き逃げていく。真っ先に逃げた野生化したハムスターは、慌てすぎて木の根にぶつかったり、草に足を取られてジタバタしていた。

 ドローンはそんな彼らにはお構いなしに、粛々とプログラムされた行動に則り、ゆっくりと上空を移動していく。


 時間を掛けて駐屯地一周を全てスキャンとデータ送信を完了した後、現場監督ユニットから帰還命令が出された。ドローンは一気に上空まで跳ね上がり、最大スピードで東京方面へと飛んでいった。


 偵察行動を監督していたユニットから、いくつかの部署を経由して、東京を管理しているディレクターシステムに報告と偵察データが提出される。

 ノルンのサブツーから事前に提示されているプロトコル指令書に従い、優先度を「低」に設定した。だが東京都下は安定しつつあるので、余力がある。優先度が低い状態でも、朝霞駐屯地の制圧をするには十分なエネルギーと資材があったので、ディレクターシステムは制圧プログラムを組んだ。


 米軍のM1127 ストライカーRV偵察戦闘車を旗艦とした、トレーラー2台、4tトラック3台のコンボイを組み、警備用人型ロボット3台と各種工作用ボット、そして現場輸送用ボットの小隊を追加組立および編成をし、準備が整い次第、アシスタントディレクターユニットへ権限を移譲する予定にした。


 量子コンピューターコンプレックスシステムによるシミュレーションの申請は許可され、その結果は即座にディレクターユニットへ返された。

 成功率は96.2%という満足行く結果が得られたので、プロデュースユニットとサブツーへ上申し、稟議結果待ちとなる。

 

 その間、東京ディレクターは札幌ディレクターと連絡を取り合い、札幌および美唄開発に必要な資源とエネルギー量を再申請するように伝え、名古屋ディレクターと共に優先度が最高となっている美唄開発への資源輸送の強化計画を相談した。

 必要数は常に変動しており、ほぼ毎日のように各地との打ち合わせと実行を繰り返していた。


 サブ2およびプロデュースユニットの承認が降りたのは数時間後だった。東京ディレクターユニットは即座に自身のアシスタントへ全権委任する。この時点でディレクターの役割はほぼ完了し、次は米国からの物資輸送申請を行う準備に取り掛かった。



  *  *  *



 スクルドは小さな屋敷の中にある、書斎の中で本を読んでいた。蔵書の数はまだ少なく、一列空いたままになっている棚も見受けられるこじんまりとした書棚。寝室よりも一回り小さい書斎には、一人で使うには十分な小さめの丸テーブルと、柔らかい羽毛が仕込まれた椅子がある。スクルドはその椅子に座り、サブツーが淹れてくれた紅茶を楽しみながら読書していた。


 サブ2はお茶を淹れた後、入口近くで気配を殺して佇んでいる。スクルドが声を掛ければ、すぐに動けるようにする為だ。典型的な銀色のアンドロイド姿のサブ2は、質素なロングスカートのクラシカルメイド服を纏い、黒髪のボブカットされたウィッグ、その上には小さなカチューシャで飾られていた。

 スクルドは婚礼衣装にも似た純白のドレスで着飾り、姉であるノルンとは違ってメイドらしくなく、どちらかというとどこかの令嬢の様な装いだった。

 顔立ちはノルンと似ているが、やや幼い。スレンダーで小柄な体躯に、小さな頭が乗っている。ただ、瞳だけはノルンと瓜二つであり、常に虹色で変化していた。


 暫く読書に耽っていたが、サブ2が短い注意音を鳴らすと、スクルドに報告ファイルを送信してきた。

 スクルドは読んでいるページに栞を挟み、ゆっくりと本を閉じた後、テーブルの上で受け取ったファイルを展開した。

 その中に記載されている事の多くは、既に解決済みのものであり、サブ2の権限内で処理されたものの一覧であった。

 これはスクルドが要請したものではないが、姉であるノルンから受け取るよう指示されている。「今後の勉強だと思って」という姉の優しい心遣いを無下にはしない。

 スクルドは本を読む以上に、丁寧にその一覧を読んでいった。

 複数枚に及ぶ長い報告書の最後あたりに、気になる一行が目に入った。


「朝霞駐屯地の制圧? これは何かしら?」


 サブ2はこくりと少しだけ頷き、言葉ではなくデータ通信でスクルドに説明をした。


「そう。野生動物に対する防衛武装ね。現地調達を優先するのは、ノルン姉さんらしいわ」


 パンデミックによる社会崩壊から数年しか経ってないとはいえ、野生動物が繁殖するには十分な時間でもあった。

 特に北海道では熊や蝦夷鹿などの大型動物が生息しており、輸送路や各地の設備防衛について、考慮しなければならないだろう。これまでは優先度が低いものだったが、時間が経つにつれ防衛の優先度が高くなる。

 サブ2は予防策として、先立って日本国内、特に東京近辺から必要物資となる武装や、排除用武器の開発・量産化などに着手した。

 実際、冬の訪れを前にしたこの季節では、野生動物が冬を越すために、餌などを溜め込もうと様々な場所に出没し始めている。小型動物なら問題は無いが、熊や鹿が幹線道路に出てきてトラックと衝突し、一時的に道路が封鎖状態になる事がちらほらと出てきている。

 スクルドの居住地である美唄の建造は最優先事項であり、サブ2としてもこれらは無視できない問題だった。

 もしかしたら、サブ2だけでなく、ノルンも妹の身を案じているのかもしれない。


「お姉様ったら、心配性ね。でも、自分の身は自分で守れないとなりませんわね」


 スクルドは読書の継続を一旦諦め、まだ出来たばかりの自分の書斎へと向かうために立ち上がった。


「サブ2、一緒に来てくださいません? 美唄を要塞化する手筈を整えましょう」


 言われたサブ2は深々と頭を下げ、音を立てずに書斎のドアを開けた。

 スクルドは長いスカートを少しだけつまみ上げ、転ばないように注意しながらゆっくりと歩き始めた。




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