Episode1-8 次なる戦い
オリーブ家襲撃から早くも1ヶ月の月日が流れた。新たに暗器の扱いに長けるデイジーと、"ヨル"と名付けた狼君が加わり、【スノードロップ】のメンバーは神様も含めて6人となった。
正直、デイジーは戦いに出ることは無いと思っていた。…が、意外にもやられたらやり返すタイプらしくノリノリで訓練を始めた。ちなみに神様とも会ってもらっている。
狼君にはヨルの名を与えた。何の捻りもないが、ヨルが特殊個体の狼だったからだ。種族名は【
捕らえたブルノと護衛は牢屋に閉じ込めている。元々拠点にする予定だった、神様が…正確には精霊が見つけた洞窟に牢屋を作った。
たまにヘルのストレス発散で切り刻まれている。来たばかりの時は威勢が良かったが、最近は叫び散らかして疲弊したのか絶叫が聴こえてこない。この間見に行ったら上の空でずっと謝ってた。怖〜。
使用人達も捕らえていたが、殆どブルノに恨みを持っている者だらけだった。こんなのでよく裏切られなかったな…。使用人達曰く、どうやらブルノは権力を盾に好き放題やっていたらしい。
使用人達は、真偽は不明だが聞くことは聞いため、気絶させて森に放した。別に使用人が死んだところで私達には関係ないし、拷問や強姦を知っていて見逃していたんだから仕方ない。運が良ければ魔物に食べられずに帰れるでしょ。
…ブルノに強姦されていた女性は、一応すぐに目を覚ました。…が、やはり囲まれて襲われたことがかなりのショックだったらしく、虚ろな目でビクビクしていた。女性なら最低限会話は出来たけど、ヘルが近づくとガタガタ震え出す、かなり重症と言っていい。
私達はというと、ヘルはいつも筋トレに剣の修業。シャルは使役した生き物達と森を探索して仲間を増やしている。デイジーはヨルと隠密の訓練をしており、私は最近は専ら、次の計画を立てていた。
「う〜ん…最初の想定通り、街を落としておきたいかな〜。とりあえずアルファニアを落とす戦力まで行ったら、世界中に散らばって破壊工作するのが良いのかな…。そのために…やっぱり戦力の確保が…。」
地図を見ながらつぶやく。
現在私達が居るのは、【星国ユラフェル】の北西にある、通称『
星国ユラフェルは大陸の東側にあるそこそこ大きな国で、北に【聖国フェニル】、南に【獣国タザニア】、西に【蒼砂漠】があり、東には巨大な海が続いている。
拠点のある場所は星国ユラフェルと隣国、聖国フェニルのほぼ国境上。少し西に行けば蒼砂漠がある場所だ。星国ユラフェルと聖国フェニルは良好な関係を築いており、戦争に巻き込まれる心配は無い。
逆に【獣国タザニア】とは良好とは言えない関係になっている。獣国タザニアの王はかなりの戦闘狂と名高く、誇り高き獣人ということも相まって年中戦争状態だ。何度和平を申し出ても反応ナシ、何か裏があるんじゃないか…なんてことまで言われている。
話がズレたため国内に戻すと、私は今次に襲う場所を決めている。次に襲う場所は誰かをスカウトする物ではなく、完全に滅ぼす為の物だ。手当たり次第に破壊しても良いのだが、拠点の場所がバレると困る。
ということで、近くを襲うべきか、遠くを狙うべきか悩んでいるのである。
私としてはさっさと
「はぁ〜。世界滅ぼすなんて初めてだから分からないなぁ…。」
「え、怖。おじさん震え止まらないんだけど、何怖いこと言ってるの?てか世界滅ぼすなんて普通初めてすらないんだけど…」
「あ、ヘル」
うっかりため息を零していると、後ろからヘルが話しかけて来た。若干顔が引きつってる気がするけど、気のせいだよね。
このまま1人で悩んでいても仕方がないため、ヘルに相談することにした。
「次どこを襲おうか考えてたんだけど、この戦力で丁度いい場所がわからなくて…」
「ふ〜ん…。…あ、あるよ、丁度良い場所。」
「……どこから仕入れてるのその情報…。で、その場所って?」
「騎士時代の遺産だねぇ。ま、良いか。場所は魔森からずーっと東に行った、プレーン伯爵領の小さな村。この近くに巨大な盗賊団が巣食ってて、村自体も盗賊団の手にあるんだよねぇ」
「村、か…。屋敷の次としてはアリだね。その場所について詳しく教えてもらえる?」
「もちろん」
ヘルの話し曰く、その盗賊団は【リベリオン】という名前で、100名程の構成員に実力者も居るらしい。
確認されている実力者は3人。
巨大な剣を担いだ大男、【砕牙】のベアル。
和服という遠い島国の正装に身を包んだ片刃剣の女、【狂舞】の小町。
星国ユラフェルの元王宮魔導士、【虚構】のバベル。
これまでに多くの貴族が襲われており、この3人は賞金首として指定されている。が、未だに誰一人として捕まっておらず、騎士団の一斉攻撃も行われたらしいが皆殺しにされ、失敗に終わったらしい。
近くの村とも関わりがあるのではないかと考えそちらを攻撃した際、盗賊団の実力者に全滅させられたこともあったそうだ。そしてそれから村は実質隔離状態にあると…。
一貫して貴族しか襲っていないが、その目的は未だ不明…。いや、強くない?なんで盗賊にこんなに実力者が集まって、しかも騎士団に勝ってるんだよぉ…
正直、戦いたくはない。ブルノの件は、勝てる見込みがあったからやったのだ。それに対して今回は、負ける可能性が高く、割と博打になってしまう。そして恐らく、負けイコール死。
それでも、やる価値はある。私達は未だに食料を森の恵みと魔物の肉に頼っている。これからもっと大きな戦争をすると考えれば、食料を生産出来る場所…、村を手に入れられるのは大きい。
それに人材。もし彼らをこちら陣営に引き込めたら…、それだけでかなりの戦力アップが見込める。
「…決まったみたいだねぇ」
「……うん、次の標的は【リベリオン】。目標は彼らを仲間にすること。勝てばもしかしたら仲間が増えて前進、負ければ殺されて終わり。…滾るね。」
「よっしゃ〜!戦いだ〜!」
「戦闘狂だねぇ…。…よし、決行はヨルの力が万全に出せる、来月の満月の夜。それまでに準備を整え、力を蓄えること。神様、皆に伝えてくれる?」
『おっけ〜。行ってくる。』
この戦い…結果がどうなるかは私にだって分からない。それでも、ここで仕掛けるべきだと私の直感は告げている。
果たしてこの選択が正しかったのか、それはまだ分からない。…が、後の世に残るであろう戦いが、確実に幕を上げ始めていた。
◆
【Side ???】
雲一つない晴れた夜。
ヘレン達が次の襲撃を決めた日。
ゆらゆらと揺れる松明の火が、暗い洞窟の中を薄っすらと照らしている。日中の肌を刺す様な暑さも引き、ひんやりとした空気が洞窟に満ちている。
その洞窟の最深部、畳の様になっている部屋に4人の人間が集まっていた。
「今月は下っ端が6人やられた。なかなかジリ貧だが、何とか持ってるな。」
大剣を地面に置き、頭を捻らせている赤髪の大男、【砕牙】のベアルが言った。
「やはり我ら以外も本格的に育てていくべきではなかろうか?このままでは全滅も見えて来るぞ?」
和服に身を包み片刃剣を帯刀する、黒髪の女、【狂舞】の小町が提案した。
「そうだな。僕もそろそろ楽したいし。」
黒いローブを羽織り、木で出来た杖をもった男、【虚構】のバベルがおちゃらけて言った。
彼らは盗賊団【リベリオン】の幹部達だ。見た目も考え方もバラバラな彼らだが、共通の目標を持って活動している。
「お前はいつもサボっているだろ。」
「失礼な!僕は戦闘以外だと誰よりも働いているんだぞ!?なんなら戦闘も貢献している!なぁリーダー!」
「何とかこのバカに言ってやれ…って、どうしたボス。」
「主殿、なんだか今日は心此処にあらず…と言った感じであるな。」
3人から、呼び方は違えど彼らのトップだと呼ばれている者に視線が集まった。
視線の先に居るのは、光を反射する銀色の長い髪と、両目を覆う様に付けられた黒い目隠しのマッチが何とも不気味な女性である。小町から貰った和服を身に着け、ぼんやりとどこか遠くを見ている様だ。
「……ふふっ、なかなか面白いことになってますね。そうですか…彼女が。」
「また何か視えたのか?」
「えぇ…私達の未来を変える、とっても大きな、戦いの光景が。」
目隠しの女性は口に手を当て、妖艶に笑った。そしてその言葉に、3人は三者三様の反応をした。
「戦いか、ボス!強え奴はいるか!?」
「血が滾るでござる…。こうしている場合ではない!鍛錬をしなければ!!」
「うへぇ…また戦いぃ?もう勘弁して欲しいんだけど…」
ニマニマと、来たる未来が待ち切れないとばかりに笑う目隠しの女性に、3人が膝をついて向かった。
「決戦は満月の夜。その日、強大な敵が現れ、私達の未来が決まる。勝てば止める者は無く、負ければ未来は潰える。…皆さん、私に勝ちを運んでくれますか?」
「よろこんで、ボス。」
「主殿の願い、果たしてみせます。」
「リーダーの仰せのままに」
「勝ちましょう。」
「「「 主に誓って 」」」
この日、ただの一度も邂逅を果たすこと無く、決戦は取り決められた。互いの未来を賭けた戦いが、すぐそこまで迫って来ていた。
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どうも、ゆーれいです!
※ちょっと前にミスって公開しちゃいました!見た人ごめんなさい!ところどころ修正したので上げ直しです!
今回は結構固有名詞を入れましたねぇ…。しかも割と厨ニ臭い。…いいだろ!カッコいい物が好きなんだよ!
終わり!新キャラ達にもぜひぜひご注目下さい!
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それではまた
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