Episode1-3 暗黒騎士
ざわざわと森がうるさくなってきた。
嫌な予感だけが降り積っていく。
『…何かいるね〜』
「………!」
ずっと続いていた森に光が差した。ここで森は終わりらしい。外に出ると、暫し眩しさで目を開けられなかったが、時期に目が慣れると、思わず言葉を失った。
これは…神殿?…いや、教会だ。
ボロボロに朽ち果てた壁はその白さを失い、教会を象徴していたであろう鐘は錆びついて欠けている。建物全体を木や苔が覆い、ここに聖なるエネルギーが満ちていなければ教会だとは気づけない程、荒廃している。
そして、この静けさの原因がそこにいた。
黒い鎧を身に纏い、邪の気配を漂わせる剣を持っている暗黒騎士と呼ぶべき男。
剣を構え、振り、また構え……
ただの剣の素振り。そう結論づけるには早計な程、その剣は実直で美しく、生まれてから剣の道だけを極めた者だと理解した。
やがて素振りは終わり、その視線がこちらに向いた。その顔はかなり幼く、自分と同じくらいの年齢だと思ったのだが…
「うぇ…誰?君達。おじさんになんか用?」
おじさんだったらしい。
◆
私達は暗黒騎士なおじさんと話しをしていた。森の状態だったり、この人の存在だったり、色々聞きたいことがある。
「ははぁなるほど…森に違和感を感じてここまでやってきたと。中々わんぱくだねぇ…」
「いやそれは貴方でしょう。もしかしてずっとここに住んでるんですか?」
「う〜ん、1ヶ月前くらいかな?おじさん普通の騎士やってたんだけど、戦争行ってる間に彼女寝取られちゃって…。難癖つけられて騎士団追放されたから怒りで暴れたら、いつの間にか暗黒騎士になってたよね、うん。そこからこの森に来て、たまたまここを見つけて、誰も居なかったから住んでたの。」
「おじさん、辛かった?」
「うん。ぶっちゃけ超辛かった。彼女めっちゃ好きだったし、追放してきた奴も仲間だと思ってたし。それからずっと一人だし…」
「よしよしおじさん、泣かないで。」
「何この子超いい子なんだけどぉ…」
この人超苦労してきたっぽいな…軽い口調でさらっと言ってきたけど、内容が黒過ぎる…
私も大概だったけど、この人の話はなんか生々しい…
でも悪人とか、不審者じゃなさそうだ。本当に人間の醜さにやられた、ただの被害者。
「あいさつが遅れたけど、私は聖女ヘレン。【スノードロップ】のボス。こっちの可愛い子が…」
「はい!シャーロットです!シャルって呼んでね!【スノードロップ】のかんぶ?ってやつです!」
「可愛い子が2人居るよぉ…尊い………あ、おじさんはヘルハイト。暗黒騎士やってま〜す。」
前言撤回。
悪い人ではないけど変な人ではあった。シャルは私が守る!絶対ロリコンの好きにはさせないんだから!
…さて、悪い人じゃないとなれば交渉だね。
「ヘルハイト…」
「ヘルで良いよ。」
「…じゃあヘル。ここに私達も住まわせてくれない?こんな見た目だけど、街を追放されてて、拠点が欲しいんだよね。」
「へー。なんか訳アリ?」
「街全体から裏切られて全てを奪われた。それだけ。」
「ふ〜ん。それで復讐したいんだ?」
「どうだろう。復讐したいとは思ってないのかも。ただ神様の御心のままに、世界を滅ぼしたいと思ってるだけ。」
「へぇ。良いよ、ていうかここ僕の土地じゃないし。ただこっちからもお願い。その【スノードロップ】ってやつ、僕も入れてよ。」
…いや、これは思ってもみなかった。正直ヘルをメンバーに誘おうか考えてはいた。人に裏切られて傷ついて…。
それでも来ないかもと思っていた。さっきの話を聞く限り、彼女にも仲間にも未練がありそうだったから。
「…良いの?私達の組織に入るということは、人を殺したり街を滅ぼしたりしないといけないんだよ?彼女と仲間の国だって…」
「別に、人を殺すことも街を滅ぼすことも、騎士団でやってたし、それに元彼女と元仲間な。もう未練なんて残ってない。」
「……ふふ、そうかぁ。うん、良いよ。その覚悟があるなら大丈夫。ようこそ【スノードロップ】へ。」
「ん〜よろしく頼むよ〜。んじゃ、この中案内するか?」
「……う〜ん。先に綺麗にしない?流石に草木が生い茂り過ぎ。」
「ってもどうするのさ。今からやったら夜中になっちゃうよ?」
確かにそうだろう。今からやったんじゃ、どれだけ急いでも夜。普通の人なら明日になってから始めるだろう。
…普通の人ならね。
「私さ、正直この世界で一番神様に愛されてる自信があるの。その証拠に、聖魔法をフルパワーで使える。」
「フル!?まじか…天災級の聖女様だったか…」
「見せてあげるよ、聖魔法の力っ!!」
手を教会にかざし、聖なるエネルギー…聖力を集める。本来は魔力を転換して作るけど、幸いここには大量にエネルギーが満ちてる!!
魔法陣を教会を覆う様に展開し、線一本一本に神聖力が行き渡る様にする。
そして魔法を発動させるっ!!!
「本来の輝きを取り戻せっ!【再生】ッ!」
教会から溢れ出した光の眩しさで、目を開けられなくなる。大きな力が動き、風が起こる。木々がざわめき、光が収束しだす。
完全に光が消えた時、そこには元々の輝きを完全に取り戻した教会の姿があった。
「うぉぉ…まじかぁ」
「お姉ちゃん凄いです!」
ヘルが驚きで固まり、シャルがぴょんぴょんと跳ねて喜んでいる。が、まだまだここでは終わらない。世界を終わらせる私達に、白は似合わない。
「う〜ん…私達に白は似合わないね。もう一発行くよッ!」
再び魔法陣を展開させる。次に込めるのは魔力。白い教会を真っ黒に染め上げる!
辺りに魔力が無いため、自信の魔力で代用する。この大きさの建物を変えるには、かなりの魔力を必要とする。
だが、私は神様に愛された聖女。人間としてのリミッターがほぼ外れ、魔力も聖力も身体能力も…全てが人間以上になっている。このレベルで魔力切れを起こすことは無い。
「全てを魔に堕とせ。【
魔法陣から現れた無数の闇が、教会を取り囲んで行く。神聖な雰囲気を持つ教会が、徐々に闇のオーラを発していく。
そして完全に闇に呑まれると、白かった壁を真っ黒に染め、辺りの雰囲気を闇に変えた教会が現れた。黒と鐘の金のコントラストが美しい教会になった。辺りには組織名でもある、スノードロップが生えている。魔力で作っているので枯れない…言わば造花だけど。
「おぉぉ…」
「ふぇぇ…」
ヘルとシャルは、どちらも目をキラキラさせて教会を見ていた。まったく…2人とも反応が可愛いなぁ…
2人が今にも走り出しそうなので、すぐさま説明に移る。
「良い?2人とも、あの教会には闇のオーラが付与してある。普通の人間が入ったら5分と経たずに発狂しちゃう。」
「それじゃあどうやって入るんです?」
「それは簡単。無償の愛を司る神様を信仰することで加護が付与される。その状態なら中で生活しても問題はないよ。」
「じゃあ私は入れるんですか?」
「今のシャルなら入れるよ。ヘルはまだだね。」
「信仰?ってどうやってやるの?」
「あそこに像があるでしょ。あれに祈るの。一瞬でも繋がると、神様の声が聴こえるようになるから。」
「神様の?……まぁやってみるかぁ。」
ヘルはアガペーの像に近づいていった。信仰してないと入れないって言うのは結構面白い防犯対策だと思うんだけど、どうだろう。
像の前に着いたヘルは、片膝をついて両手を組み、目を閉じて祈りだした。シンとした空気が流れ、数秒が経ったとき、神様が喋った。
『あ〜!暇だった。やっと気兼ねなく喋れるよ〜!』
「おわっ!なんか聴こえた!」
『やほ〜ヘル君。僕は無償の愛を司る神様!アガペーだよ〜!』
「お〜これが神様。なんかフランクだね。」
『堅苦しいのとか苦手だし。君等もこっちの方が良いでしょ?』
「そうだね。てかなんで今まで喋らなかったのさ神様。」
「ほんとですよ!寂しかった〜」
『あぁ、ごめんねぇ2人とも。喋らない方がややこしくならないかなって…』
どうやら神様なりに気を使って黙っていたようだ。別に喋ってても良かったけど、確かにややこしくなってた可能性はあるね。
っと、皆で神様と話していると、ヘルがこっちに話題を向けてきた。
「ヘレン。こんなおじさんを入れてくれてありがとう。お陰で嫌なことも忘れられそうだよ。これからはボスって呼ぼうかな〜。」
「それは辞めて。普通にヘレンで良いから」
「ん…分かったヘレン。これからよろしく」
「うん。よろしくね。」
こうして【スノードロップ】に、拠点ができ、強力な暗黒騎士が加わった。
後の世で特に恐れられる3人が集結した日である。
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どうも、ゆーれいです!
3話で加わったよ暗黒騎士様!
僕一人称「おじさん」のキャラ結構好きなんですよねぇ。適当に開いた小説とかで「おじさんは〜」とか言ってるの見ると嬉しくなっちゃう。
まぁそんなことはどうでも良くて、拠点ですよ拠点!黒い教会!厨ニ心くすぐるをモットーに作っておりますので、見た目超カッコいいです。
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それではまた
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