Episode1-2 拠点

「さて、目標を決めたのはいいですが、これからどうしましょう。」


『ノープランだねぇ…』


「そうなんですよねぇ…」



私達は現在、整備された道を歩いて隣街を目指している。


世界を滅ぼすと決めたが、足りない物が多すぎる。ってことでとりあえず街を目指しているが、多分入れないだろう。


教会の情報網は無駄に広く、数日経てば全世界で私の追放は知られる。そうなったら仕方ない、森の中に隠れ家でも作るしかないか。


組織として運営する上で、必要な物を挙げてみよう。まず物資、人材、そして圧倒的力…かな?私は神様の力で聖魔法が使えるから良いとして、現状の課題はシャルの育成だね。人材は…近接が居ないから騎士でも居れば良いんだけど…


そして一番足りていないのが物資!拠点、武器どころか今の私達は無一文!こんなんじゃ世界を滅ぼすなんて夢のまた夢だよぉ…



『どこか街か国を乗っ取るってのはどう?例えば今向かっている街、アルベータは結構大きな街だし、無宗教でどこにも属していないから、落とすには丁度良いと思うけど。』


「…そうだね。一番偉い人を洗脳でも出来れば拠点には出来るかな…」


「あの…お姉ちゃん?」


「ん?どうしたの?疲れた?」


「いや…その、一体誰と話しているんですか?」



んんんんんん????

────あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!


シャルは神様の声聴こえてないじゃん!!今まで一人ごとで誰かと喋ってるやばいやつに映ってるってコト!?シャルぅぅ…そういうことは早く言って良いんだよぉ…



「ごめんシャル!シャルにも聴こえてるものだと思ってた!」


『シャルに僕を祈るように言って。一瞬でも祈ればこっちが繋いであげる。』


「分かった。シャル、アガペー…神様に祈ってくれる?無償の愛の神様なんだけど…」


「神様?良く分からないけどわかりました!」



そう言ってシャルは手を組んだ。良かった、祈り方は知ってたか。


シャルが祈り始めてから数秒後、神様が私達に声を掛けた。



『あーあー聴こえてる〜?』


「!!お姉ちゃんなんか声が聴こえる!」


「それが神様。アガペーって呼んでるけど、普通に神様でいいよ。」


『あー!僕のセリフ取った!威厳ある感じで行こうと思ってたのにー』


「こんな感じでフランクだけど、人類滅亡を望んでるやばい奴でもあるから」


『それはヘレンもでしょ?』


「そうでした。」



シャルが口に手を当てて笑っている。ちゃんと繋げたみたいで良かった。というかこれって、シャルも神様の守るべき対象に入ってるってことなのかな?


まぁそれはいいか。話を戻して…あれ、なんの話してたっけ?


…あそうだ。洗脳して街を落とすって話か。



「街を落とすって言っても、まずシャルの育成が急務だと思うんだよね。」


「私、頑張ります!」


『なら先に小さい拠点を建てるのはアリだね。どこか都合の良い場所があれば……あ、この森の先に洞窟があるらしいよ。そこはどうかな?どっちの街からも離れているから、見つかるリスクは少ないと思う。』


「じゃあそこに行ってみようか、どっちの方向?」


『この森を真っ直ぐ突き進めば大丈夫。』



丁度良い洞窟を見つけたみたい。なんでそんなことが出来るのかって?それはアガペーが無償の愛を司る神様だからだね。


その効果は人以外にも通じる。アガペーは精霊から無償の愛として、情報を教えてもらっているのだ。神様って便利だねぇ…


私が森に入る準備をしようとしていると、シャルが聞いてきた。



「お姉ちゃん、森に虫さん居ますか?」


「森だからねぇ…虫は苦手?」


「ううん。いっぱいお友達いる。呼んだら来てくれるよ。」



驚いた。シャルは従魔師だったらしい。いや、多分"魔"だけじゃないだろう。普通の動物でも虫でも、恐らく神様と繋がったことで聖獣すらも使役出来るのではないか…


これは予想外に素晴らしい才能だ。生き物を使役出来るということはとてつもない被害を出すことが出来る。


シンプルに行くなら、一人でスタンピードを起こすことが出来る。スタンピードは本来、強力な魔物が出た際などに起こるため、対策までの時間がある。しかしシャルの場合それがないので、魔物の大群で強襲することが出来るのだ。


それに、確か遠い国では、バッタが農作物を荒らしたことで国に深刻なダメージを与えた例もあったはず。虫を操れるということは、それすらも故意に起こせる。


人材不足という現状に置いて、シャルの存在は実質軍隊と同じレベルなのだ。



「シャル、凄いよ。その才能を磨こう。」


「シャル、役に立てる?」


「うん。なんなら、今シャルが一番役に経つかも…」


「ふぇぇ…シャルわかんない。」


「そうだよねぇ」



シャルに難しい話はまだ早かったみたい。口をぽけーっと開けて、こっちを見てくる姿は本当に愛くるしい。


さて、そろそろ森に入ろう。そろそろ正午を過ぎるし、今の私達は何も持っていない。早く拠点になる場所を見つけないと、魔物に襲われる……いや、それはシャルが対処してくれるとして、水と食料の確保も出来ないから。


シャルと一緒に森に入る。ざわざわと靡く木々は、私達の事を招待しているようだった。







数刻が過ぎた。

まだ森の中を進んでいる。



「結構静かだね。」


「ざわざわする音しか聴こえません…虫さ〜ん?どこー?」


「………」


「?お姉ちゃんどうしたの?」



何か違和感を感じる。流石に静か過ぎないだろうか。…もしかして、近くに何か居る?


魔物は気配を消すことをしない。獲物となる人間は殆どが気配を感知出来ないからだ。だから消す必要がない。


魔力も殆ど感じない。確かこの森は魔力が濃すぎて街道を作るので精一杯な程ではなかっただろうか…。


そんな森で、何も感じない。つまりこの周りには魔物が居ない?そんなことがあるだろうか…


魔物や魔蟲というのは、魔力の結晶である魔石に身体を乗っ取られた状態を言う。


もちろん例外もある。例えばゴブリンやスライム。こいつらは自然界には存在しない生物だ。こいつらが他と違う点は、魔力が一定以上濃くなるとそれが集まり、形作られる。


そしてこいつらは、その魔力の濃さが割と薄くても出現する。だから弱いし、いっぱい出る。


逆に竜種。こいつらは高密度の魔力が集まったことで出現した。現在確認されているのは6体で、全てが古代兵器の魔力によって出現した化け物だ。


少しズレたが、この辺りは魔力が極端に薄い。殆ど無いと言っても良い。ほんの数時間前に何かが出現して、それを誰かが討伐した?


それも高密度の魔力。竜までは行かなくとも、それに匹敵しうる何かを倒した者。



「はは…やばいなぁ…」


『……もう少し先に戦闘跡があるらしい。結構強いね、これは。』


「え?え?」


「ま、私達なら余裕でしょ。」


『んま、そうだね〜』


「えぇ〜余裕ならそう言って下さいよぉ…」



シャルの手前強がったけど、割とピンチってやつかもしれない。もし出現した何かを倒したのが魔物なら、そのレベルが森に潜んでることになる。しかも精霊達に感知されない方法を使って。


久しぶりの脅威に、冷や汗が止まらない。


出来るだけ戦わないで良いように願いながら、私は森の奥を目指して進み始めた。



────────────────────

どうも、ゆーれいです!


進みが速いのか遅いのか…書いてる側からすると遅い気がするんですが、皆から見ると結構速かったりするのかな?


まぁいいか。今回はシャルの才能が発見されましたね。正直生き物を使役出来るってめっちゃ強いと思ってるんですけど…どうです?


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それではまた

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