Episode1-4 慟哭
さてさて教会内を一通り見て周って、今は地下に作った会議室的なところにいます。ちなみに食料はヘルのを少し頂きましたよ。
お前の物は俺の物ってやつです。がはは。
え、教会の中を紹介して欲しいって?うーん…暇があったらね。
そんなことは置いておいて、今の時間は夜。良い子のシャルはうつらうつら舟を漕いでるし、難しい話はまた明日にしたいんだけど…
『拠点の確保は出来たし、次は人材の確保じゃない?』
「正直ここに居るメンバーの強さはやばいと思うよ。一対一ならヘルが、軍対一なら私が、軍対軍ならシャルが担当出来る。しかもそれぞれのエキスパートと言って良い。」
「え" シャルちゃんってそんな強いの?」
「シャルは生き物を使役出来るからね。実質軍隊と同じだよ。」
「んぇ……シャルのはなし?」
「あぁ!眠いね。ごめんね…すぐ終わらせるから!」
「うゅ」
はぁぁぁぁぁぁぁ可愛い!!!なんでこんなに可愛いんだこの子は!!!!!!!!!
おっと危ない。今絶対に人には見せられない顔をしていた気がする。
…よし、シャルの為に早く終わらせよう。
『それじゃあ、明日皆の実力を試してみるのはどう?』
「そうだね。その結果次第では、すぐにどこかの街を落としにいけるかも。」
「人材探しはその次だねぇ…いや、そういえば昔、暗殺に長けた奴隷を飼ってる貴族が居たような…」
「ふ〜ん。その奴隷ってどんな人?」
「確か物心ついた頃から暗殺者として育てられていて、名前も分からない超一流の暗殺者だって噂。通り名は【死神】。今だと多分20歳前後くらいかな?」
「暗殺者として育てられた…か。」
正直分からないな…。その奴隷が主人を恨んでいるのか。もし恨んでいたとして、その主人を殺した後も人を殺せるのか。そもそも実力が私達に届きうるのか。
…でももし、その奴隷が主人を恨んでいて、助けて欲しいと叫んでいて、心の内で泣いているとしたら…
「それはぜひとも助けてあげたいね。」
「最初の獲物は決まりかな〜?」
「うん。まずはその貴族邸を襲撃する。人を人とも思わないクズを生かす意味は無い。」
「おじさんちょっとワクワクしてきたかも」
『皆頑張れ〜。僕も神罰下してサポートするよ〜。』
「ありがと神様。じゃあそういうことで、解散!お休み!私はシャルと寝るから!ヘルはさっきの部屋ね!神様もお休み!」
「勢い凄いな〜」
『ヘレン、シャル。お休み〜』
シャルがうとうとしてるよ。早く部屋に連れて行ってあげなきゃ。
部屋に着いた私はシャルをベットに寝かせ、その隣に横になった。明日から忙しくなるだろうし、ゆっくり寝ないとね!
すぅすぅと寝息を立てて眠るシャルを見てから、私も目を閉じて意識を手放した。
◆
──1週間後
「さて皆、準備は良い?」
「大丈夫です!」
「おじさんも準備おっけ〜」
『派手にやりな〜』
実力も申し分ないと結論づけた私達は、1週間の鍛錬の後、襲撃をかけることにした。
そして今日がその1週間後。
私達は例の貴族、ブルノ・オリーブ。そのオリーブ家の屋敷を近くの山から見下ろしていた。
作戦はこう。
まず私とヘルが潜入、例の奴隷と接触して意思を確認する。もし助けて欲しいと言った場合神様がシャルに号令を出して襲撃。強い奴が居た場合ヘルが対処。複数居た場合は私も出る。
とりあえずこれだけ決まっていれば良いだろう。この程度の屋敷に私達より強い奴が居るとは思えない。最低限の作戦で実行する。
「時間だね。それじゃ、作戦開始。ヘル、行くよ」
「は〜い。んじゃ、行ってくるね〜」
「はい!気をつけて下さい!」
シャルに応援されたからには頑張らない訳にはいかない!絶対に成功させる!
◆
「…誰も居ないね〜」
「潜入しやすいし、そっちの方がありがたいけどね。」
窓を開けて中に入った。聖女の手にかかれば鍵が掛かっていないという奇跡を起こすことなんて楽勝なんですよ…
中は閑散としていた。無駄に豪華な装飾があちこちに施されていて、見栄を張りたがる貴族という生き物を的確に表していた。
『一階に5人、2階に8人居るよ。地下にも2居るね。気を付けて。』
「了解。ありがと神様。」
今の話で一番怪しいのは…やっぱり地下だよね。その地下がどこにあるのかって話だけど…
…とりあえず色々探ってみようかな。地下に続く階段があるかもしれないし。
長い廊下を気配を消して歩く。隠密とか得意じゃないから、普通に歩いてるけど…。ヘルの鎧がガチャガチャうるさいなぁ…。今度から隠密にヘル連れてくるのは辞めよう。
堂々と歩いていると、話し声が聴こえてきた。近くの扉からだと特定したため、すぐに近づいて聞き耳を立てる。
「これ────の棚───て」
「─やくしな─とブ────まに怒られ─」
「ほん──悪。なん──達が──なデブの世話────といけ──の」
「ちょっと!ブル───に聴こえたらどうするの!」
…うん。ところどころしか聴こえてこなかったけど多分嫌われてるね。ヘルが「女子って怖〜」みたいな顔してる。
とりあえず無害そうなので無視。今の目標は奴隷と接触することなんだから。
それから一通り屋敷を見て周ったけど、地下への階段らしきものは見つからなかったため、次の手段に移る。
「神様、地下の入り口どこにあるか分かる?」
『……お、倉庫の奥だね。荷物を退かした場所に扉があるって。』
「精霊って便利だねぇ…」
神様に教えてもらった通りに倉庫へ行き、荷物を退かしてみる。すると地下への扉があった。
最初からそうやって行けって?いやこんな屋敷来たことないし、探索だよ探索。ちょっとワクワクしました。
さて、地下室にやって来たけど…鼻を突く様な、腐敗と異臭が混じった臭いがする。
そしてこれは…どう見ても牢屋だね。しかも掃除されてなくて不潔。蜘蛛の巣張ってるし、牢屋の鉄格子も錆びついてる。
合計4つの牢屋があり手前から、手足が無くなって切り傷まみれで腐敗した男の死体。
全身に異臭を放つ白い液体をかけられ、首に強く絞められた跡が残っている女の死体。
両目を潰されて大量の血を流す瀕死の狼。
お目当てだった噂の奴隷。暗殺者だって言うから男かと思っていたけど、なんと女性だった。
「……吐き気がするね、これは。」
「そうだね。おじさんも結構怒ってるよ。」
「…貴方が噂の、暗殺者さん?お名前はなんて言うのかな?」
「………だ……、れ……」
「喉が渇いて声が出ないのかな?ヘル、水持ってきてる?」
「ん、あるよ。ほら、飲みな〜」
「お……水………!」
余程喉が渇いていたのか、毒を盛られているのではないか…とか何も考えずに水に口を付けた。……これが噂の暗殺者?こんな仕打ちで、いざって時戦えないでしょ。
ごくごくと音を立てながら水を飲んでいる女性は、ヘルの持っていた水を全て飲み干してしまった。
「わ〜お…おじさんのお水が…」
「ぷはっ!あのっ!ごほっごほ……いきなりで申し訳ないのですが、そこの狼を助けて頂けませんか!私のお友達なんですっ…」
「……1つ教えて、君は噂の暗殺者?」
「……噂というのが何かは分かりませんが、確かに私は暗殺者です。小さい頃から暗殺の仕込みをされてきました。」
「わかった。じゃあ助けてあげる。」
私はくるりを身を翻し、向かいの牢屋に向かった。中に瀕死の狼が寝そべっている。
手をかざし、魔法陣を展開する。ここには聖力が無いため、魔力から変換する。
線に聖力を流し、魔法を発動させる。
「万物を癒せ、【完全治癒】」
魔法陣から現れた緑色の光が、狼に集まっていく。苦痛に歪んだ表情がどんどん柔らかくなり、血で滲んだ毛が美しい銀色を取り戻していく。やがて傷が完全に癒えた時、狼はギラギラと輝く目を開け、ぱちくりと瞬きをした。
「くぅん?」
「う、うそ…完全に治ってる?!」
「何回見ても化け物みたいな精度だねぇ…」
三者三様の反応をしてくれる。こう反応が良いと魅せた甲斐があったって感じられるね。
いつまでも牢屋に入れておく訳にはいかないため、魔法で牢屋の鍵を開ける。自分で使っててなんだけど、本当に便利だね。
「…貴方にも掛けてあげる。流石にその汚れじゃ出られないでしょ。万物を癒せ、【完全治癒】」
再び聖魔法を使うと、奴隷ちゃんの肌がどんどん白くなっていき、美しさを取り戻した。
「凄い…貴方達は一体…?」
「私は【スノードロップ】のヘレン。人類に死を与え、世界を崩壊に導く者…。そして貴方の事をスカウトしに来た!ついでにそこの狼君も!」
「ちゃんと意思は尊重するけどね〜。あ、おじさんはヘルハイト。よろ〜」
「スノー…ドロップ。」
「わふぅ?」
奴隷ちゃんがその名を噛み締める様に呼ぶ。だが声に反して、その顔は暗い。
「それで、私達とともに来るかい?もし君が君の主人に恨みを持っているのなら、私達が全力で手助けする。」
奴隷ちゃんは伸ばした手を空虚に見つめるだけで、眉1つすら動かないほど硬直している
「……それは出来ないよ…。私には奴隷紋が付いてる。あの男が死ぬと私も死ぬんだ。それに、あの男の前に立つだけで身体が震えてしまう。そうなるよう、調教さてれる。」
やがて出てきた言葉は、拒否の言葉だった。
でもその言葉は想定していた物と異なり、恐怖と、諦めを含んだ拒絶だった。
悲しそうな顔で告げる。
「だから…ここまで来てくれたのは嬉しいけど…ごめん。私は君達とは………行けない」
それは全てに絶望した顔で、助けが欲しいのに諦めてる顔で…
「大丈夫!わたしはお姉さんだから……。我慢できるから…。だからッ」
自分の心を押し殺している人間の顔で、まだ未来のある若者がしていい顔じゃなくて、今にも泣き出しそうで…
「だからぁ、私はもう無理だって分かってるからぁ…。………置いて……行って………」
その言葉を……吐いた。
…嗚呼、まただ。
またこの世界は私の嫌いな顔を見せる。私に絶望を突きつけてくる。お前には救えないと、お前なんかが足掻いたところでと…
──ふざけるな
怒りで空気が震える。
その顔はッ!!世界に絶望した顔はッッ!!
私がこの世界で一番大嫌いな表情だッ!!!
ヘルも、奴隷ちゃんも、狼君も、皆が驚きの視線で私を見てくる。
「ふっざけるなよ…………その表情はッ!!その我慢はッッ!!!お前がしていい表情じゃないッッ!!!」
「「──ッ!!」」
「最強の暗殺者だ、死神だなんて言われてるからって調子に乗るなッ!お前は弱くて、可愛い、ただの女の子だッッ!!その表情は、その我慢はッ!お前の様な弱者が背負う物じゃない!!その役目は私達強者の役割だ!お前がやるべきことはただ1つッ!私達強者に向かって、「助けて」と言えッ!!!!」
「……良いの?…………頼って…良いの?」
「君の恨み、辛み。私達が全てぶつけてやろう。だから私達の手を取れッ!」
しゃくり上げるような声で泣いている。
本当に、助けが来る日があるなんて思ってなかったのかもしれない。
確かに泣いているが、その表情は穏やかで、絶望していなくて…
「…助けてッ……ヘレン。」
未来に希望を持つ、私が一番好きな顔だった
私は奴隷ちゃんの頭を抱きしめながら言った
「うん…任せて。……シャル、作戦開始。」
その時外から聴こえた大量の足音が、大声を上げて泣く奴隷ちゃんには聴こえていなかったことを私は望む。
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どうも、ゆーれいです!
今回は多く語りません。やっぱワ◯ピース読んでるとこう言うの書きたくなるよねって話でした。満足。
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それではまた
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