第6話

10月23日、大学を休んで早起きし

2年前公演が行われた、中央文化会館へ行こうと決めた。


僕が考えていることが

今本当に起きているのだとしたら、たしか...

もうすぐ舞陽からのメールが届くはずだ。


数分後。握っていた携帯が振動し始めた。

送信者は、はやり舞陽だ。


「おはよう☺︎

演奏会で連絡難しくなっちゃうと思って

朝送らせてもらったょ。

一昨日はせっかくのデートごめんね。

ほんと、自分のスケジュールは

把握してなくちゃだよね。

いってきます。好きだょ、翔海くん。」


気持ちを伝えないといけないこと。

このメールで教えてもらった。


当時使用していた携帯は

もう手元になくメールの内容を

一字一句正確に憶えてはいないが

似ている部分があったのは確かだった。 


何分だったか、僕の思考は止まった。


あの日、寝起きですぐ返信できなかった。

それから時間が過ぎて

僕がメールを送ったのだから

きっと舞陽は、リハーサルに入っていたのだろう。


だとしたら、

今すぐこのメールの返信をしなければ

過去と同じことになってしまう。


『おはよう!

朝忙しいのに、ありがとう。

この間のことは、本当に気にしなくていいよ。

それより、演奏楽しんできな☺︎

終わったらご飯食べ行こう。』


急いで返信したから、

句読点ばかりで、彼女の気分を害すかもだけど

いまは命の方が優先だ。


2年前から疑問だった。


なぜ本番が迫っているにも関わらず

リボンを探しにいってしまったのだろう?


無理はしないで

目の前のことを成し遂げる性格だったらから

別の髪飾りで代用したはずだ。


あの水色のリボンにこだわった理由わけ...


"明日の演奏曲なんでしょう。

ディズニーの曲。"


昨晩のやりとりを思い出した。


そして2年前のパンフレットのキャッチコピー

"YouCanDoIt~キミならできる"


ひとつの作品が思い浮かんだ。

ピーターパン‼︎

あの映画の中に"YouCanFly-キミも飛べる"

という曲があった。


舞陽にとって、高校最後の部活だ。

きっと、後悔したくなかったに違いなく

ウェンディに似せて演奏したかたのだろう。


やっとわかった。あそこまで

あのリボンにこだわっていた理由わけが。


僕は舞陽からの返信を待たずに

続けてメールをした。


『そのリボン。

落とすかもしれないから

本番まで控え室に置いておいた方がいいよ。』


きっと彼女は

"なぜリボンを付けていることを

知っているのだろう?"

そう不審に感じるだろう。


数分後。


「そんなことしませんよーだ‼︎

けど翔海くんが珍しく忠告くれたんから

落として付けられなくなったら最悪だから

外しておくね。ありがとう♡

あれ?わたしリボンのこと話したっけ? 笑」


理解のある彼女でよかった。と安心したが

確かに、舞陽は僕にリボンのことを一言も言ってない。


僕は彼女からしたら未来の人だ。

本番を控えている彼女に

今起きていることを告げたら混乱する。

だから必要はない。


『この前ちょろって言ってたよ。』


ごめん...。嘘ついて。

心のなかで彼女に謝った。


「そうだったけ!完全忘れてた。

本番まで15分だから、一旦メールおわりね。」


彼女が忘れていたおかげで

嘘は見抜かれなかった。


今までのやりとりを交わしている間

僕は中央文化会館のロビーにたどり着いていた。そして後ろで声が聞こえた。

振り向くと、ドアから女子2人が笑いながら現れたのだ。それは、舞陽と後輩の咲実ちゃんだ。


無意識に僕は、ロビーに響くであろう声を出していた。


『舞陽‼︎誕生日おめでとう。

これからも一緒に生きて行こう。

いままで伝えられなくてごめん。大好きだ。』


本番まで、もう10分をきっていた。


「ありがと–う‼︎

わたしも翔海くんに負けないくらい好きだよ。

ねぇ!これ似合ってる?」


照れくさそうに

髪についてるリボンを指した。


『あぁ‼︎とても似合ってる。

終わったらここで待ってる。』


本番間近の彼女が

いま僕の目の前にいることに胸をなでおろし

舞陽が生きていてくれたことを実感した。

それが信じられないほど嬉しくて

一筋の安堵あんどの涙が頬をぬらした。


幕が上がらないというトラブルも

舞陽のお母さんが僕を呼びにくることもなく

舞陽の番になった。


間違いなく曲目きょくもく

YouCanFlyだった。


滑らかなその指の動きは

ウェンディとして空を飛んでいるようで

彼女はミスもなく無事に弾き終えたのだ。


演奏したくても叶わなかった彼女と

その演奏を聴きたくても

二度とあの音色を聴くことができなかった僕は

2年の時空をえて

あの事実を無かったことにしてしまった。


演奏会が終わり

約束したロビーに向かうため

階段を降りていた僕は足を滑らせ意識を失った。

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