第2話

山と田んぼに囲まれた町に、僕のばあちゃんはあった。


翔海かける、砂時計って知ってるかい?」

 

箪笥たんすの中から床に落とさないように

大事に持って来て僕に見せてくれた。


『なぁにこれ?

ばあちゃん、なかのお砂が動いてるよ!』


そう言いながら、床にゴロゴロ転がしたり

なかの砂を動かして遊んでた。


「それが昔の時計さ。上の砂が全部下に落ちたら5分過ぎたことを教えてくれるんだ。昔の人は考えたものだね。」


『お砂を戻すとどうなるの?』


「また5分計れるんだ。

 ばあちゃんがいいことを教えてあげよう。」


そう言うなり、

砂時計をテーブルの上に置いて話しはじめた。


「時間ってもんは、砂が落ちるように早い。

今日ばあちゃんの家に来たことは、今ではもう過ぎた時間の出来事だ。」


僕は一生懸命、ばあちゃんの言葉を理解しようとしていた。


「あぁ...翔海にはまだ難しいかね。

この続きは、もう少し大きくなってからにしよっかね。」


たしかに難しかった。

だけど、なぜだか続きが聞きたくて仕方がなかった。


『ばあちゃん、おはなし続きがあるの?

僕、聞きたいな!』


気がついたら、ばあちゃんにお願いしていた。


「歩いて来た道を戻って、別の道を歩くことは簡単だろう。だけどね、時間は戻ってやり直すとはできない。

例えば、友達と喧嘩けんかして"大っ嫌い"って翔海が言ってしまったとする。

その時言ってしまった"大っ嫌い"っていう言葉は、なかったことにできるかい?」


翔海は首をたくさん振った。


「そうだろぉ。喧嘩しなきゃよかった、って思っても

喧嘩する前の時間には戻せない。」


そして砂時計を指差しながら


「落ちてしまった砂は、過ぎた時間。

まだ落ちてない砂は、これからの時間。

そのふたつの間の砂は、今の時間。

砂のように時間というのは、あっという間に過ぎる。だから、後悔しないように生きてかんといけんよ。」


砂時計について生き方について

ばあちゃんは教えてくれた。


僕が中学3年の時、ばあちゃんは入院した。

家族で見舞いに行くことが恥ずかしくて

学校帰りにひとりで病院に行った日だった。


「中学3年生だと勉強が忙しいだろうに。

わざわざ見舞いに来てくれて、翔海は優しい子だね。ありがとう。ばあちゃんの宝物をあげよう。」


ベットの隣の棚から取り出したものは

小さい頃に話してくれた時の砂時計だった。


その翌日、ばあちゃんは静かに天国に旅立っていった。

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