第10話

あれから3年。


金倉先生は開業するとの理由で

この病院を去ってしまった。


以前、神永先生の最後のオペ患が退院した。

その人は*執刀医しっとういの名前は覚えていないかったが、薄らとした記憶だったが荒木先生が執刀医しっとういではなかったとは言っていた。


金倉先生が居なくなってしまった現在いま

神永先生を知る人はわたし以外誰もいない。


みんなは忘れてしまったかもしれないけれど

わたしは神永先生と出会って知ったことがたくさんあった。


偽るということは自分を殺すことだと。


自宅と職場の往復しかしてないことを知り

ご飯に誘ってくれたこと。

(あのあと金倉先生が教えてくれたのだが

 神永先生に誘ってくるように言われたそうだ。)


どんなに辛いことがあっても

いまを懸命に生きること。


ブラックコーヒーがおいしいこと。


あれから神永先生が愛用していた銘柄のブラックコーヒーを飲んでいます。


5年前のあの日

オペのPHSが鳴りたって伝えられなかった。

当たり前のように明日も先生がいると思ってたから。

引き止めてでも伝えればよかったね。


わたし、神永先生が好きです。



*執刀医… 外科手術における担当医。

     執刀=メス

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