第5話

脳外科の転棟があった。

理由は入院を受け入れたいが

病床が足りないからのことだ。


午後に脳外科の先生が

転棟患者の様子を回診する。 


新しい先生に会いたくないのが双華の本音だ。


"これは仕事だ。初対面が苦手だからって逃げてはいけない"と答えをだした時だった。


「転棟した患者さんは何号室?」

突然質問されたわたしは心の中で感じた。


(忙しいのはわかるがあいさつもないのか。

 なんか少しイヤな感じ...。)


『316号です。』

わたしは満面の笑みで応えた。


レントゲン整理をしていたわたしの隣に

神永先生はいた。


「こんな遅くまで仕事してるの?仕事切り上げて早く帰んな。これあげるよ!ひとりで頑張っちゃうんだから。コーヒーくらいは甘いの飲みな?」


渡されたのは先生がいつも手にしてるブラックではなく、カフェラテだった。


『えっ、ありがとうございます‼︎

もう少しお仕事がんばります。

先生がカフェラテって珍しいですね。』


「さっき用があって整形外科病棟に電話したら

"まだ遠野さんいますよ"て言われて..

そのあと自販でブラック買った時に

カフェラテも一緒に買ったんだ。」


わたしの質問に困っていたようでしたが

きっと心配してくれてたのだろう。


誰かに想われることは本当に久しぶりで

わたしはとっても嬉しかった。


そして気がついた。

昨日の朝、イチョウの木の下にいた男性ひとは神永先生だったと。今もらったカフェラテと同じ銘柄のブラックコーヒーを手にしていたから。

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