第6話

休憩をとる時間がないのだろう。

神永先生は、常に同じ銘柄のブラックコーヒーを持ち歩いている。


あらから何ヶ月かが過ぎて季節は

12月中旬に差しかかろうとしていた。

この時期は心不全や脳梗塞を起こす患者が増加するため、整形外科病棟の半分は脳外科で埋まっていた。


「ねぇ、遠野さんっていつも笑顔なの?疲れない?」

脳外科の回診後に唐突に質問された。


『ここに入った時決めたんです。

 感情を無にして仕事しようって。』


こんなことを神永先生に言っても仕方のないことだけど、わたしには嘘がつけなかった。


「それツライしょ。

 てかそんなことしなくてもよくないか?」

 

『いつだか、体調悪くて静かにしていてたら

"元気ないの?"て逆に気を遣わせてしまって...。

 それ以来、何があってもこのキャラ突き通そう

 て決めたんです。』

  

こんなこと話したのは初めてで

神永先生の前だと自然と素の自分でいれた。


「そうだったんだね、、

 その笑顔の裏にはそんなことがあったんだ...。

 遠野さん。自分を捨てなくていいと思う。

 もし迷惑がかかる事を心配してるのなら、

 僕の前では素でいればいい。

 自分を偽るとは、自分を少しずつ殺しているのと

 同じなんだ。』


その言葉を聞いて、わたしは安心し一粒の涙が流れた。

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