星屑艦隊

背伸びしたSF


あらすじすら消してしまった


世界観としてはドーナツ的宇宙論の1800年前の世界線。


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 ヴァイザーに映し出されたのは前方の小惑星付近を航行する灰色の巨大な物体だった。ただ、それについている無数の突起がその艦種が何であるかを物語っていた。


木星帝國ジュピター・エンペラ鄭州ヂェンヂョウ級か?」


 ヴァイザーのヘルメットの持ち主である檜山志結ひやましゆうは同じく観測装置を覗き込んでいる相棒に訪ねた。


「木星帝國の艦なのは間違いないみたいだけど、あのレーザーピポット、鄭州ヂェンヂョウ級よりも一回りはデカいよ。それにフライデッキがより繊麗されている。新型艦だね...」


「じゃああれがお客さんヴェストランドの目的のものか....」


 彼女は撮影した部分を圧縮ファイルチップにして刷ると、直ぐにポケットの裏側にしまった。長居はするつもりはなかった。目的のものを撮影した以上、撤収するのみである。


 平時ではあるが勝手に帰国の領土に不法侵入して軍艦の写真をとってました、なんならビーコンやら盗聴装置を設置してました、とは口が避けても言えない。それに証拠を掴まれて本社ごと太陽系司法機関に潰されるのは御免である。


「これ壊れてるのか...」


 観測装置の目標推定質量のアナログ数字が振り切れて表示されていた。


 檜山が居るのは直径3kmほどの何の変哲もない小惑星で小さな洞穴を潜伏場所にしていた。もちろん熱やガスは全て遮蔽あるいは処理し不自然のないようにしている。


 撤収した後は本社の系列企業が適当に小惑星への宇宙船の衝突事故(ただし乗員はのっていなかった)を起こして証拠ごと消してくれるだろう。


 それにしても、何故わざわざ本社に依頼してまでお客さんはあのフネ宇宙船の情報を欲しがったのだろう。連中の諜報部隊であれば宇宙港爆破事故で失われたことにしてあの艦を盗むことなぞ簡単なことだろう。まあ、事情があるのだろう。他のライバルに知られたくないとか。


「おい、帰るぞ」

「はーい」

 撤収用の小型宇宙船脱出ポッドは慣性飛行で近くに待機している輸送船に向かう。輸送船は近くの有人小惑星まで2人を運んだ。そこからは一般の星間シャトルでヴェスタに向かうのだ。



 ***




 ヴェストランドは小惑星ヴェスタに首都を置く300近い小惑星から構成される共和制国家で、鉄小惑星であるプシケを領有しているため小惑星帯メインベルト有数の金属産出国である。農産物や工業製品は自国の消費分を賄うほどにしか生産できていないが、金属を売却した大量の資金で強力な宇宙艦隊を有している。


 檜山はヴェスタに向かう惑星間シャトルの窓からみえるカルプルニア宇宙港を見つめていた。ざっと見ただけで大小千以上の宇宙船が停泊しており、近傍にあるカルプルニア海軍基地の真空ウエットドックからは、今しも全長数百メートルの宇宙戦艦が出渠していた。


「この度は本船、スターライナー社227番便、『ラファイル』号に乗船していただき誠に有難うございます。本船は、ただいまからおよそ20分でカルプルニア宇宙港に到着ドッキングする予定でございます。

 ただいまの時刻は太陽系標準歴午前9時30分、ヴェストランド歴午後2時15分でございます。ヴェストランドの今日の天気は晴れ、カルプルニアの気温は外気-190度でございます。

 着陸に備えまして、荷物をまとめてください。着陸後、星間検疫を実施します。

 また、まもなく、本船限定の記念バッチの販売を終了いたします。

 ご希望のお客様は、早めに乗務員にお知らせください。

 まもなく前方のスクリーンで入国案内と、書類の記入方法をご説明いたします。

 入国に必要な書類をお持ちでないお客様は、乗務員にお知らせください。お客様、よい旅を」


 檜山は結果的にバッチを買うことにした。補修で交換された外材をプレスして作ったものらしい。


 シートに寝転んでいた俺はごろごろしながらそれをいじくり回していた。案の定、裏側にプラスチック溶接の跡があり、上着の内ポケットから取り出しだ万能ドライバーでちょいとつつくと極超小型マイクとマイクロチップからなる盗聴器があらわになった。


 悲しいものだ。機械の見た目からして市販品を合成させたもののようだが、回路基板とマイクが一体化している。ナノプリンターで刷ったものだろう。指ですりつぶすわけにもいかず(0Gロージーですりつぶしたらシャトル内が大変なことになる)とりあえずドライバーのプラズマトーチで焼ききったあと、ポケットにしまった。もちろん外側のバッチは上着の裏側に密かにためている宝物スペース・デブリ・コレクションに加える。



「ねえ、志結、聞いてる?ちょっと用事ができたからセレスに行ってくる。ほい、ちゃんとお客さんに渡してね」

「へ?...。おっと」


 さっきまで端末で0Gファッションついての雑誌を読んでいた相棒はシャトルを降りる直前にそんなことを言ってチップを渡してきた。チップがふわふわとシャトル内を直進する。とっさに手を伸ばしたのでなんとか宇宙ゴミになってしまう前にキャッチできた。投げて渡すのマジでやめてほしい。失くしたらどうすんだよ。


「いや、なんか新しい任務が入って、緊急だってさ」


 如何に同じ機関に努めていようとも同僚同士でも余計な詮索はしない。相棒とは長い付き合いだがその辺はお互いに心得ていた。


「はぁ、つまりアイツお客さんの相手を一人でしろと...。なんとかならないのか?」

「本社の急用任務だよ。依頼主が依頼主なんだよ、なんでもあのイーロンホールディングスだ。断ることができたら苦労しないよ」

「...それは、それは」


 イーロンホールディングスは太陽系の造船業界で一位、二位を争う巨大な造船企業だ。ただ、造船企業というのは厄介な問題を抱えていることが多く、この、前なんかも爆破テロで浮きドックがやられたりしていた。昔は傘下にいろんな企業があったらしいが地球外国家の発展に伴って分裂、解体したらしい。


「じゃあね」

「何かは知らんが頑張れよ...」

「志結も...まあ、頑張って」


 妙な間を置かれた。なんか後ろの方見てたな...。

 手を振ってそう言うと彼女は宇宙港の別の搭乗口の方に向かった。カルプルニアなら本社の系列企業の輸送船でも貨客船でもいくらでもあるから、すでに足は手配されているのだろう。


 カルプルニアは大きな都市だったが月面諸国の何百年もの歴史がある都市群にくらべると規模や存在感で劣っていた。それでも都市全体が新しく活気が溢れているように見えた。地球からの移民も多そうだった。


 と、そこで近くの公衆トイレに入る。


 つけられてるな...搭乗口のロビーを出たところ辺りからこちらを伺っている顔ぶれがいる。3、4人といったところだろうか。相棒はこれが言いたかったのか。頑張れってこれか。一応、持ってきたカバンには見た目はただのタオルだがナノ単位で変形する変装道具も入っているが、それを使うつもりはなかった。0G下のトイレは吸引する形になっておりスポッという音がした。


「まったく...」


 本社から指示されいたロッカールームを見つけた。認証システムに腕を掲げ、蓋を開けると、小さな肩掛けバックが出てきた。もちろん0G下で使えるように腰に固定するベルトもある。中を確認し、コイルガンが入っていることを確かめた。使い勝手がよく、太陽系の裏市場で広く取引されているものである。


 本社が独自開発したそれコイルガンを見て懐に入れると、目的地に向かって歩き出した。お客さんはヴェストランドの国防軍の有力幹部だった。つけてきてるのはそのライバルの手先か、はたまた命を狙うものか、それともペルソナ本社関連か。


 手っ取り早く始末してもいいが、つけてる奴らの目的が分からない以上、こちらから手は出せない。まあ、邪魔なので少しの間、消えてもらうが。街のいたるところにある隔壁区画エア・ロックと構造物の隙間にある裏路地に入ったところで、まず、隠れる。そしてうかうかと入ってきたやつを、コイルガンでバッとっ。もちろん実弾ではなく、コイルガンの電力を使った放電である。


「えっ、おゔっ」


ストーカー追っ手さんは気絶。

一人目はこれでKO。何事もなかったように裏路地から表通りにでる。ちゃんと放電のブービートラップ仕掛けてるし、眠らせたやつはマイクロペイント(なんと変色する超微粒子を液体状にしたもので決まった電気信号を流すだけで好きな色に変えれる優れもの)を吹きかけてるのでそうはバレないはずである。そいつが持っていた盗聴器や通信機の類は持ち込んでいた本社のクラッキングAIで改ざんしてるので安心だ。


目的地のヴェストランド国防総省ビルは目の前だ。と、そこでなんか女性がぶつかってきた。


「キャー、痴漢です!」


え、濡れ衣だけど。騒ぎ立てる女性を前にどうしようもできないでいると、なんかビルの守衛達が向かってきた。先頭にいたイカツイ守衛は俺を睨んだ後、その女性に訪ねた。


「そこのお嬢様、どうされました?」


お嬢様っていう年じゃないと思うだけど。


「コイツが私の体を触ってきたんです!痴漢です!捕まえてください!」


は?、大嘘じゃん。まあ、ここで俺も流石に察する。さっきの追っ手の仲間だろう。つまり国防軍内部の回し手だ。この守衛もその一味だろう。


「お兄さん、ちょっとそこで話を聞きましょうか」


お兄さんっていうのは正解。けど、マズい。守衛室に連れて行かれる。倒したら面倒くさいことになりそうだし...、入ったところで眠らせるか。ああ、でもカメラあるだろうし、指示役が国防軍内部に居るとしたら逃げるのも難しいな。ささっとコイルガンに分解指示を出し、懐のコイルガンは大量のコーラシガレット、ココアシガレットに姿を変える。このコイルガン設計した人、どうかしてるとおもう、ほんと。


と、守衛に両腕を固められて国防総省ビルに入ったところでばったり会ってしまった。ソイツは優美な金髪をたなびかせて俺の方に向くと、守衛を見つめた。


「げっ」

「あー、そこのとぼけた顔をしてる奴を離してくれるかな?彼は僕の大事な友達依頼先なんでね」


アイツこそが今回の情報の依頼主お客さんでもあり、俺の常連の一人であるヴェストランド国防軍作戦参謀長のマーリン・スペンスだ。あいつの性別不明な美鵬は俺がしってる宇宙7不思議の一つである。国防軍内でも男派と女派に分かれているらしい。なんか俺の説明ひどくない?。


「!?。しかし参謀長、こいつは路頭で犯罪を犯してまして!、今、連れて行くところなのです!」

「いや、俺何もしてないけど。勝手にぶつかってきただけじゃん...」


ヴェストランドは軍が警察の役割も担ってるんだった。憲兵は国防軍傘下だったな。


「ああ、じゃあ僕が処罰するよ(ニコッ)。君たちは元の持ち場に戻りな」


マーリン、話聞いてた?マジで怖い。


「ちっ....。(笑顔のマーリン)はっ、はい」


守衛達はマーリンの笑顔を見た途端、俺を離してとっとと散っていってしまった。ふー、助かったぁ。


「貸一つだね(二コツ)」


やっぱ助かってなかったみたい。







「ほへー、確かに木星帝國の新型掃討艦スイープ・シップだね。ご苦労さん」


本社から直送でファイルデータだけを送ることもできるのだがマリーナはいちいち檜山を呼び出して直接渡すのを好んでいた。俺にとっては尾行されるし、権力闘争に巻き込まれるし、なくす危険もあるしでいいことなんて一つもない。


「そりゃどうも。まあ仕事だけどさ。じゃあ」

「は?」


今日は相棒がいないのでさっさと退散してしまおう、とはいくわけもない。マリーナは俺の首根っこを掴んで無理やり部屋に連れ戻す。


「今日も話を聞いてくれるよね、ね」

「はぁ。分かりましたよお客様」


そう、こいつはあろうことなきか、なんと仕事の愚痴を吐く聞き手として毎度、俺を呼び出しているのだ。そのために大変な思いをしている俺の身と心のことも少しは考えてほしい、まあ仕事だから仕方がないか、前にあった警備ガチガチの中華共同体の戦艦に侵入してデータを盗み出すのよりはマシだ。あのときは相棒と揃って死ぬところだった。




***



「でさあ、長官がそう言ったのにね、あいつったらまた自分でやってやらかしてさあ...結局僕が全部やる羽目になってさぁ、ほんとはやく定年退職しろやって.......ねえ、ちゃんと聞いてる?」

「ああ、シュークリームが残業手当をもらえず木星に衝突したんだろ」

「全然っ聞いてないじゃん!」

「はぁ」

「いやなんか私は被害者ですみたいなツラしてさ、もうちょっとお客に対しての敬いってないの!?」

「実際俺は被害者じゃん」

「....えーでもお客にそんな態度はちょっと...」

「迷惑かけてる自覚あるんだ」

「......................でさー、その仕事っていうのがなんとパラス商会に値下げ交渉をすることでさ、マジ疲れたんだけど」

「話を逸らすな」

「.....................それでパラスの商会のおじさん曰く細胞保存液の値段が上がってるのはなんか日本国が買い占めてるらしくて、」


日本国、ああ、あまり聞きたくない言葉だ。目眩がしてきた。昔のことを思い出す。あの頃は...


「ねえ、大丈夫?」


マリーナが心配そうこちらを見てるのがぼやけて見えた。


「ああ、ちょっと昔のことを思い出しただけだ。大丈夫だ。今日はもういいか?」


「うん、体調には気をつけなよ。これ、残業代」


ヴェストランド諜報部が集めたであろうその情報チップを受け取った俺はおぼつかない足取りで国防総省ビルを去った。と、電話の通知音が脳内に鳴り響いた。


「やあ、シユウ、任務はどうだった?」

「ヴェストランドの参謀長マーリンは満足したみたいです。」


インプラントを使った生体接続は2000年代後半から普及し、今はほぼ全ての人間が生まれたときから装着される。神経系と直接接続しているので視界を制御し見えるもの、感じるものの機能をアシストしたり、VRゴーグルや端末を使わないまま仮想空間に接続することもできた。後継として開発された複合型ナノマシンはコストが高すぎるため富裕層にしか普及してなかった。いわゆる枯れた技術というものである。

「そうか、ちょっと君の相棒くんがセレスでドンパチしているみたいでね、多目的巡洋艦アサルト・シップは近くにいないみたいだし


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