迷子‐マヨイビト‐【独白】

誰かに握られていた気がする。


温かい手だった気がする。


なんだっけ?


なんだっけ?


いつも一緒にいた気がする。


優しい声だった気がする。


誰だっけ?


誰だっけ?


あの時、握られていた手を離してしまったばかりに。


その顔が思い出せない。


あの時、逸れてしまったばっかりに。


その声が思い出せない。


ずっと見守られていた筈なのに。


あの眼差しが思い出せない。


ずっと隣にいた筈なのに。


アナタの笑顔が思い出せない。


誰だった?


誰だった?


なんだった?


なんだった?


今はもう分らない。


今はもう憶えていない。


あの人が誰だったのかも。


あのヒトが何者だったのかも。


あのひとは。


あの**は。


アレ……?


何を忘れてしまったんだっけ?


何を思い出そうとしていたんだっけ?


今じゃもう分からない。


今じゃもう憶えていない。


なんでこんなに苦しいんだっけ。


なんでこんなに泣いているんだっけ。


なんでこんなに会いたいんだっけ。


なんでこんなに寂しいんだっけ。


なんでこんなに胸が痛むんだっけ……。


なんでだっけ?


なんでだったっけ?



暗闇の中、全て忘れたその後に自分の手をジッと見つめた。




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短編集その2 冬生まれ @snowbirthday

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