夢か現か【少年達の怪奇譚】※ブロマンス

今日は至極天気が良かったから、親友を誘って祭りに行こうと思ったんだ。



時間は午後2:00。


お日様が丁度、頭の天辺に来る頃だった。


俺は親友に電話して待ち合わせをした。


「あ、もしもし!今、いつもの駄菓子屋にいるから。来られるなら来てくれ」

「はぁ?駄菓子屋?お前……」

「そんじゃ待ってる!」

「ちょっ」


電話を切って駄菓子屋に入る。


店主が見当たらないが、まぁお金さえ置いときゃ良いかと品を拝借。


棚に置かれている懐かしの駄菓子を数個と、暑さ対策に水に浸かったラムネの瓶を一本買って親友を待つ。


今日はやけに暑い。


駄菓子を食べながら、駄菓子に飾られていた青と白に氷と書かれたタペストリーを見て、やっぱりかき氷にすれば良かったと少し後悔した。


しかし、今日はお祭りに行くのだ。


そちらで買えば良いかと、代わりにラムネを開けて飲む。


カランと瓶の中のビー玉が鳴った。


時間は午後2:15。


親友はまだ来ない。



「もしもし?」

「おい、さっきは……」

「遅すぎる!」


未だに来ない親友に痺れを切らして再び電話を掛ける。


「今何処にいんの?」

「はぁ……お前こそ何処にいんだよ!?」

「今は河川敷歩いてる」

「なんで河川敷?」

「お前が遅ぇから先に祭りに向かってるんだよ!」


河川敷の土手を歩きながら電話をする。


ラムネを飲み干した後、瓶をゴミ箱に捨てて近くにある河川敷に来ていた。


この炎天下、ただジッと待つことが出来なかった俺は少しでも涼しそうな処に来たかった。


「今なら河川敷に来れば会えるよ?」

「分かった、じゃあ今から行くから!待ってろよ?」

「なるべく早くなー」


河を見ながらそう告げて電話を切った。


キラキラ光る水面をジッと眺めながら、日陰で親友を待つ。


ふと河原の砂利に目を向けると、石が何個か重ねてあった。


「ははっ……三途の川かよ」


時間は午後2:30だ。



あれから数十分。


親友は未だに来ない。


俺は仕方なく一人で祭りに行こうと思った。


「もしもし。お前遅すぎ!もう先に祭りへ行ってるからな!!」

「はぁ!?遅すぎってなんだよ?お前の行動が早すぎなんだよ!」

「いいや。お前が遅すぎるんだね!とにかく先に行ってるからちゃんと来いよ?」

「あっ、おい……!」


無理矢理電話を切った。


アイツの言い訳など知るか!


兎に角、俺は祭りに行きたいんだ。



時間は午後3:10。


祭りに行く前に家に寄った。


どうせなら、もう少し小遣いを持って行こうと思ったからだ。


「ただいま!」


家に入るが返事はない。


母親は何処かに出掛けたらしく留守の様だ。


プルルル……ピッ!


「もしもし?今何処にいる?」


アイツから電話が掛かってきた。


「今は家にいる」

「今度は家かよ……」

「うちに来る?」

「お前が待てるならな!」


親友は呆れながら呟いた。


「じゃあ、待ってるから早く来いよ?」


それだけ告げて電話を切る。


親友が来るまでの間、冷蔵庫から作り置きの麦茶を取り出し飲んでいた。



時間は午後3:40。


未だに親友は現れる気配がない。


「あーもう!アイツ、いつになったら来るんだよ!!」


思わず電話する。


「やっぱり来ねぇじゃん!!いつになったら来るんだよ!」

「もしもし?何キレてんだよ……?」

「お前が来ないからだろ!!」


怒りを露わにしながら告げると、アイツはおかしな事を言う。


「来ないからって……、お前が家にいないからだろ!?」

「はぁ?いるし!」

「いつの話してんだよ?」

「今だよ!!」

「はぁ?」


互いにかみ合わない会話に少し違和感を覚える。


「ちょっと待て……今、何処にいる?」

「お前の家の前。さっきからずっとインターホン鳴らしてるけど誰も出てこないじゃん」


俺は急いで玄関へと向かった。


扉を開けて外を確認するが人など一切見当たらなかった。


「いないじゃん。お前、俺の家間違えてんじゃね?」

「そんな事は……」

「あーもう。そんじゃあ祭りで待ち合わせしよう?そっちの方が会える確率高いから」

「かしぃなぁ。お前の家、確かに此処であってるはずなんだけど」

「そんじゃ、神社の鳥居で待ってるぞ!」

「あぁ。分かった」


俺は金を持って仕方なく祭りをしている神社へと向かった。


時刻は4:12を回ったところだった。



空が赤くなる黄昏時。


祭り囃子が聞こえる神社へとやって来た俺は、石段の前で親友を待っていた。


時刻は4:30。


親友はまだやって来ない。


「もしもし?」

「もしもし、今何処にいる?」

「神社の前の石段」

「分かった!今行くから待ってろよ?」


親友はそれだけ告げて電話を切った。


俺は石段に腰を下ろして、溜め息混じりに親友を待つ。


次こそ会えるだろうか……?


そんな事を考えながらスマホを見つめる。


時間は午後4:41。


プルルル……プルルル。


親友から電話きた。


ピッ。


「もしもし?」

「もしもし!俺も到着した!!」

「今何処にいる?」


思わず立ち上がり、辺りを見渡す。


此処には人っ子一人いやしない。


「今、神社の前の石階のところだけど……お前、何処にいる?」

「はぁ?いや、俺もそこに……」

「人が沢山来てるけど、お前らしき奴いないぞ?」

「えっ……?」


確かに親友の電話越しには人の声が聞こえていた。


「お前、ホントに来てるのかよ?」


俺は辺りを見渡し、息を呑む。


そうだ。


初めからおかしいと思ってたんだ。


「あ……あのさぁ、此処って××神社だよなぁ?」

「そうだけど?」

「周りにはどれぐらい人がいる?」

「さっきよりもけっこう増えたぞ?」

「……」

「おい、どうした?」


電話の呼び掛けを無視して俺はその場にしゃがみ込んだ。


確かに此処は祭りが開催されている神社で。


だけど、人っ子一人いやしない。


親友の電話越しには賑やかな声が聞こえていて。


俺の処は祭り囃子だけが静かになっている。


そう。


初めから気付くべきだった……。


「もしもし?おい!」

「あ……もしもし」

「どうしたんだよ?何かあったのか!?」


心配そうに訊ねてくる親友。


「あ、あのなぁ……俺、」


俺は事実を打ち明けた。


「迷ったみたいなんだ……」

「は?」

「多分、別の世界に」


だって此処には────最初から誰もいなかった……。


「お前、何言ってんだよ?」

「本当なんだよ!誰もいないんだ!!」

「ちょっ……落ち着け!誰もいないって?」

「だから、此処は××神社なんだけど誰もいないんだって!人っ子一人いやしない別の空間なんだよ!!」

「はぁ?ただお前が場所間違えてるだけじゃ…」

「じゃあ周りにあるもの言い当てる」


俺は親友に周りの状況を話した。


「神社の鳥居、石の階段」

「まぁ、神社だからなぁ……」

「飾られた提灯」

「色は?」

「祭りと書かれた赤い」

「おう、それから?」


俺は神社の階段を上がり、屋台の方を見に行った。


「出店……」

「ちょっと待ってろ。俺も見に行く!」


親友が階段を上がってから告げる。


「手前から。綿飴、たこ焼き、ヨーヨー掬い……」

「おう」

「お面屋、くじ引き、お好み焼き」

「うん」

「かき氷に焼き鳥、金魚掬い」

「あぁ……正解」


親友はそれ以上黙り込んだ。


「俺の言ってる事、信じる……?」

「……あぁ」


祭り囃子が響く誰もいない屋台の隅で、親友に電話をし続ける。


「此処は多分、そこなんだろうけど……誰もいないんだ」

「みたいだな」

「どうしょう……俺、帰れるかなぁ?」


神社の階段に戻り、町並みを見渡す。


そこにはただの真っ暗闇が広がっていた。


先ほどまでとは大違いで、家も街灯も本当に何も見当たらない…まるで深い崖下の様な闇だけが目の前にあるだけだった。



「分からない。どうにかしてこっちに戻る方法を考えねぇと……」

「あぁ。でもどうやって?」

「うーん。初めはどうやっていったんだ?」

「知らない。気付いたらこっちにいた」


親友と話しながら頭を抱えてしゃがみ込む。


「マジでどうしよう……」

「大丈夫だって!そのうち戻って来られる!!今、何処にいる?」

「……今は鳥居の真下、石段の一番上にいる」


親友はそれを聞くと砂利道を少し歩いて告げる。


「此処かな……?どっち側にいるか教えて」

「……境内から向かって右端」

「じゃあ、此処だな!」


親友がまた俺に声を掛ける。


「なぁ。もし此処にいるなら、何か合図をくれないか?」

「合図?」

「そうだなぁ……あ!じゃあさ、左手を横に翳してくれ」


言われるままに手を翳す。


しかし、これといって何か起こるわけでも無い。


「やったよ?」

「うーん、場所が悪いのかな……」

「これ、何か意味あんの?」


訊ねると、親友は苦笑しながら告げた。


「いや、お前と同じ処にいんなら何か確認出来るモノがあればいいかと思って……」

「いくら同じ処にいるからって、別世界なんだし触れたりとかは無理なんじゃね?」

「そっかぁ……もし上手くいけば出来ると思ったんだがな。通話出来るし」


少し落ち込んだ声で話す親友に俺も落胆する。


「なんか…ごめんな?色々迷惑掛けてさ……」

「はぁ?何言ってんだよ、俺達の仲だろ?」

「お前はいい奴だよ……今も、昔も」

「オイオイ、そんなガラでも無い事言うなよ。頑張って帰る方法見つけようぜ?」

「でもさぁ……」


辺りはすでに暗くなり、提灯の灯りが徐々に目立ち始めていた。


「此処には誰もいないんだぜ?」

「そう落ち込むなよ。俺がずっと話しててやるから!」


スマホ越しに聞こえてくる頼もしい親友の声に頭を傾ける。


「ホント、お前に触れられたら安心出来るのに……」


静かに告げて隣を見つめる。


「あぁ。俺も早くお前に会いてーよ……」


そう言われ、親友がいるであろう隣に手を伸ばす。


探る様に手を動かし、そして諦めた様に手を下ろした。


その時、ふと何かに触れた。


「ん?」


親友が呟いた。


「今、何かに触れた……」

「えっ……お前も?」


俺は石段に手を這わせて探る。


するとまた何かに触れた。


「なぁ。今、何か感じた?」


親友に訊ねる。


「あぁ。俺の右手に何かが被さった気が…此処だ、此処に何かある!」


そう言われた後、俺の手にも同じ様な感触がした。


「もしかして……」

「これって」


互いに感触を確かめあって、手を握る。


「「お前の手!」」


そう二人で同時に告げると、いつの間にか気を失った。



ふと目が覚めた。


「おーい、起きたか?」


気付くと親友が俺の顔を覗いていた。


「アレ……此処は?」

「此処はお前の部屋だろ。まだ寝惚けてんのかぁ?」


ベッドから起き上がり、壁に掛けてある時計を見る。

時間は午後4:44だ。


「お前、今日祭りに行くって言ってたろ?」

「え?」

「さっき電話よこしてただろ。ほら!」


そう言われて突き付けられたスマホを見ると、確かに着信履歴に俺の名前があった。


「本当だ……」

「それも忘れてんのかよ?」

「あぁ……なんか、ごめん」


謝ると親友はベッドに腰掛ける俺の隣に座った。


「お前、今日どうした?なんか変だそ!?」

「ん?いやぁ……ちょっと変な夢みてて」


不思議そうな顔をする親友に、俺は小さく深呼吸をして夢の話をした。



「───へぇ、別の世界ねぇ……」

「あぁ。この町なのに誰もいなくて、なんかめちゃくちゃ不安な夢だった」


親友はベッドに寝ころびながら話を聞いていた。


俺はそんな親友を見つめた後、ふと親友の手に視線を向ける。


「でもまぁ、夢だったんだろ?良かったなぁー夢でさ?」


そう呟く親友を無視してその手に触れた。


「ん?何?どしたの?」


手に触れられた親友は少し驚いていたが、俺は構わずその手を握る。


その手は夢で触れた手と全く同じ感触だった。


「夢と一緒だ……」

「え?」

「何年も繋いで無かったのに」


暫くその手を握り締めていた。


俺より少し大きく優しい手。


触れた時、何処か懐かしくて安心出来た。


すると親友は何を思ったのか、握られた手を見て告げる。


「なんだよ、手ぇ握って欲しかったのか?」

「いや。そう言うわけじゃあ……」

「それなら手でも繋いで行きますか!」

「え?」

「祭りだよ、行きてぇんだろ?」


俺の手を逆に掴んで引っ張り立たされる。


「ほら、行くぞー!」

「でも……」

「なんだよ?まだ怖いのか?」


立ち止まる俺に親友は笑って告げる。


「此処なら大丈夫だろ?俺がついてっからさ!」


繋いだ手を見せられ、なんだか少し落ち着いた俺は小さく頷いた。


あぁ。


やっぱりお前はいい奴だ……。



家を出て祭りに向かう途中。


「つーか、なんでお前が俺の部屋に入ってきてたの?」

「あー?お前に会いに来たらおばさんが入っていいって言ったから、勝手に上がらせてもらったんだよ。そしたら部屋でぐうぐうイビキかいてお前が寝てた」

「まじか!それって何時くらいだった?」

「ええっと……」


親友はスマホを取り出し呟いた。


「あっ、ホラ!お前から着信が来てから───」


そこで黙り込む親友に俺は顔を顰める。


「どうした?」

「……えっ?あ、その、、これなんだけど……」


親友が徐にスマホを見せる。


そこには俺からの着信履歴が表示されていた。


時間は午後4:41。


「おかしい」


不審がる親友に何が、と聞こうとした時、親友の顔が青ざめている事に気付いた。


それから親友は静かに呟いた。


「だってこの時間帯、俺は既にお前の部屋に居たんだぜ?」

「えっ?」

「ホラ、これ!」


そう言われて見せられたのは一枚の写真。


「っ……お前、何勝手にヒトのこと撮ってんだよ!?」

「いいから時間を見ろ!」


そう言われて俺の寝ている写真の端に掲示されている時間を見る。


そこには4:39と表示されていた。


「2分前……」

「なぁ、おかしいだろ?お前が俺に電話して来るなんて不可能なんだよ」


スマホを眺め、二人その場に立ち尽くす。


何処からともなく聞こえてきた祭り囃子に、俺は背中が冷たくなるのを感じた。


「お前のみた夢、ホントに夢だといいな?」

「あぁ……。俺もそう願うよ」


少し汗ばんだ親友の手が俺の手を強く握り締めてくれた事だけが、唯一の救いだった。



【夢か、現か……】






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