輪廻転生【前世の記憶がある少年少女の話】※TS
俺には前世の記憶がある。
ボクがまだ魚だった頃、アイツはイルカだった。
群れで泳ぐボクをイルカだったアイツは追い掛けてきて、大口開けてガブリと食べた。
俺には前世の記憶がある。
ワタシがまだ大空を羽ばたく蝶だった頃、アイツは巣を張り待ち構える蜘蛛だった。
花から花へと移り飛び優雅に舞っていると、木々の狭間に掛けられた罠に引っかかり、身動きの取れなくなったアタシをすぐさまアイツは糸で絡めて捕食した。
俺には前世の記憶がある。
ワシがまだ小さな村の名もなき武将だった頃、アイツは領土を拡大していた敵の武将だった。
その日、ワシの村を攻めてきた彼奴と戦をしたが軍勢の多さに適わず籠城。
数日粘ってみたものの、最後は彼奴に降伏した村人達により、ワシの首は跳ねられた。
俺には前世の記憶がある。
私がまだ貧しい町娘だった頃、アイツは傍若無人な貴族だった。
父親の自業が失敗し、借金まみれの貧しい家庭で育った私は毎日雑草なんかを拾って食べていた。
あるとき家族の負担を減らそうと、前々から私に目をつけていた貴族のアイツに買われて借金は無くなった。だが、人生の大半をアイツに弄ばれた私がお腹の中にアイツの子供を宿した頃、アイツは婚約者と結婚し、邪魔になった私と腹に宿った命を殺した。
悔しさと惨めさに亡くなる前まで泣き続け、家族の元に帰りたかったと絶命。
いつもいつもアイツは弱肉強食のトップだった。
そして敗者だったボクは、弱者だったアタシは、アイツにひれ伏すしかないのだ。
だからワシは彼奴を抹殺しようと考えた。
何度も何度も負け犬だった輪廻転生を繰り返して今日。
やっとその日は訪れた。
同じクラスの同級生、仲良くなるのは簡単だった。
何度も繰り返す内に認識したオマエの特徴。
大丈夫。
私は……、俺は、もう失敗しない。
呼び出した屋上は空がいつもより綺麗に見えた。
片手にナイフを隠し持ち、アイツが来るのをただ只管に待って。
ガチャリ
扉が開かれアイツが現れた。
▽
僕には前世の記憶がある。
ボクがまだ海底に佇む貝だった頃、君は小さな魚だった。
砂を這い、ひっそり暮らしていたボクを見つけて、綺麗だねと褒めてくれた君を今でも覚えている。
僕には前世の記憶がある。
自分がまだ野に咲く花だった頃、君は働き蜂だった。
誰もが見向きもしない自分に唯一寄り添い、羽を休めてくれたのが君だった。
偶然だったのかも知れない。
だけど、自分にとってはかけがえのない大切な出来事だった。
僕には前世の記憶がある。
アタシがまだ遊女をしていた頃、君は問屋の一人息子だった。
お金も無いのに足蹴無く通い、父親に殴られ、勘当されてもめげずに来てくれた。
そんな一途な想いを寄せてくれる貴方に、いつしかアタシは惹かれていった。
僕には前世の記憶がある。
君との念願を心待ちにしていた頃。
イケナイ事だと分かっていても、その衝動を抑える事が出来なかった。
手にしてしまえば自分のモノになる事を知っていた。
無理矢理だったが君を手に入れた時は本当に嬉しくて────だけど、その幸せは永くは続かなかった。
邪魔が入った。
私は望んじゃいなかったのに。
周りが邪魔をした。
君が離れていくのが許せなかった。
君を失うのが怖かった。
君と一緒にいたかった。
君を誰にも取られたくなかった。
だから私は、この手で君を──────。
いつかまた出逢う輪廻の中、ずっと、ずうっと待ち続けて漸く。
遂にこの日がやって来た。
同じクラスの同級生、仲良くなるのは当たり前だった。
何度も何度も繰り返す内に芽生える欲望。
大丈夫。
私は……僕は、もう間違えない。
呼び出された屋上、いつもより浮き立つ足。
待たせちゃったかな……?なんて、君の事を考えながら会いに来た。
ガチャリ
扉を開くと君が笑顔で待っていた。
【輪廻転生、因果の果てに】
私には前世の記憶がある。
私が私と同じ年くらいの少年だった頃。
屋上でもう一人の少年と揉み合い、私達は金網にぶつかった。
ガシャンと金網が外れる音がした。
私と彼は真っ青な空の下、真っ逆さまに落ちていく。
目前まで迫るコンクリートに血の気が引いた。
青ざめる私はおもわず隣の彼を見た。
彼は恐がるわけでもなく、私を見据えて口元を微かに動かした。
私はその笑みを最期に意識を飛ばした。
「ッ……」
そこで目が覚めて飛び起きた。
噴き出すような汗と早まる鼓動が気持ち悪い。
最近よくこんな悪夢をみる。
何故かは分からないけど、兎に角最悪。
起きて髪を梳かして歯を磨く間、その悪夢について考えた。
私は彼が憎かった。
そしてナイフを手に彼を襲った。
彼は抵抗してフェンスへと逃げた。
私は彼目掛けてナイフを翳しながらそちらへ向かった。
金網にしがみつく彼に思いっきり突っ込んだ。
その瞬間、ガシャーンと音がして見ると金網が外れて私達は勢いのままに空中へと放り出された。
しまった!そう思っても後の祭で、みるみる内に地面へと急降下。
怯える私に平然と、死を受け入れる彼が最期に言った。
「─────」
あれは……。
言葉を思い出せないまま、身支度を済ませて学校へ行く。
家を出る時、母親が告げた。
「最近、不審者が出ているらしいから気をつけなさいよ?」
二つ返事で家を飛び出す。
私は不審者よりも夢の事が気掛かりでそれどころでは無かった。
彼のあの言葉、あれはなんと言っていたのか。
考え事をして信号に差し掛かった時、背後から腕を掴まれた。
「オイ」「ッ……!」
咄嗟に振り向くと、そこにいたのは幼馴染みだった。
「なんだアンタか、ビックリした~!」「なんだとはなんだよ?せっかく助けてやったのに」
幼馴染みが指差す信号は赤に変わっていた。
「あ。いつの間に……」「さっき点滅してたろ?見てなかったのかよ、たくっ」
呆れて頭を掻いてる幼馴染みにゴメンと謝ると、幼馴染みはフッと笑った。
「まぁ、命の恩人に感謝するんだな?」「何よそれぇ……!」
信号が再び青に変わると、幼馴染みは先を歩いて揶揄う様に告げる。
「やっぱり、お前は俺がいないと駄目だな。仕方ないから一生面倒みてやるよ!」「えっ?ちょっ、それって……」
幼馴染みは振り返り、此方に手を差し出した。
「ずっと一緒にいてやるっつってんだよ!それとも俺じゃあ不満かぁ?ワガママなお嬢さん」
その言葉にクスリと笑い、差し出された手を躊躇いなく掴んだ。
「フフッ……アンタらしからぬ発言ねぇ?」「悪いかよ!」「いいわ。しょうがないから付き合ってあげるわよ。格好つけの王子様?」「ケッ、上から目線か。可愛くねーの!」
ぼやきながらも手をギュッと握り締めてくれる照れ屋の幼馴染みに、私はこの上ない幸せを噛み締めていた。
そう、あの悪夢を忘れるくらいに……。
手を繋いで学校の門まで着いた頃、友人達を見掛けて声を上げる。
「あっ、おはよう!」
友人達は気付いて手を振り返す。
私も手を振ろうと上げた時、突然友人達は顔色を変えて叫び出す。
「きゃああああ!!」
私と幼馴染みを見て声を上げている。
そう思い、少し気恥ずかしさを感じていると幼馴染みが突然私を抱きしめた。
「ちょっと、何よ急に……」
見ると、幼馴染みは眉を顰めて険しい顔を見せていた。
それからもたれ掛かるように私に倒れてくると、幼馴染みは苦しそうに告げた。
「に、げろ……」
「えっ?」
その場に倒れた幼馴染みの後ろには、フードを被った黒いパーカーの男が立っていた。
男は手に血の着いたナイフを持ち、私と目が合うとニヤリと笑う。
「みぃーつけた!」
私はその言葉にあの悪夢を思い出す。
そう、あの時─────アイツが言っていた言葉。
『また、逢おうね?』
私はその場で動けなくなり、地面に尻餅を着いた。
「あ、あんた……もしかして」
男は私に目掛けてナイフを突き付けた。
「もう逃がさないよ?」
振りかざされたナイフに思わず目を閉じる。
また、駄目なの……?
そう思った矢先、男は学校から出てきた先生達によって取り押さえられた。
「大丈夫かいっ!?」
校長先生が私と幼馴染みを匿って、何とか助かった。
男は取り押さえられながらも私をジッと睨み付けて何かを呟いていた。
▽
「はぁ……一時はどうなるかと思ったよ」
病室のベッドで横になる幼馴染みに告げると、幼馴染みは呆れた顔で私を見つめた。
「全くだ。ヒトが逃げろって言ってんのに、呑気に座ってやがるんだもんなぁ?」
「しょうが無いでしょ?怖かったんだから……」
俯く私に幼馴染みは溜め息を吐いて起き上がる。
「痛っっ」
「ちょっと、軽症だからって刺されたんだから無理に起きないの!」
直ぐに制止させようと、手を伸ばした私を抱きしめる幼馴染みは静かに告げる。
「ちゃんと守ってやれなくてゴメンな……?」
弱々しいその声に私は泣きそうになった。
「ううん……そんな事ない。守ってくれたじゃない、体を張って」
私も思わず幼馴染みの体を抱きしめた。
彼は更に力を込めて私の体を抱きしめると、決意の如く呟いた。
「これからはちゃんと、お前を守れる男になってやる!何があっても絶対にっ!!」
「…うん」
そんな彼に抱きしめられながら、私は小さく頷いた。
▽
あれから数日。
ニュースであの日の事件が報道されていた。
キャスター曰く、あの男は元々女をつけ狙う行為をしていたらしい。
ある時、近所に住む可愛い女子高生に目をつけた男はストーカー行為を繰り返していたという。
何度も女子高生をつけ回す内に、女子高生に好意を持ったのだとか。
しかし、男子高生と一緒にいる現場を目撃して許せなくなった男は、今回の犯行に及んだと言う。
そんな下らないニュースを舌打ちしながら手元のリモコンで中断すると、ガラリと部屋の扉が開かれた。
「お見舞いに来たわよ!怪我の具合はどう?」
「おう、だいぶ良くなった」
噂の可愛い女子高生のお出ましに先程の気分が嘘の様に晴れる。
「ホント!?じゃあ退院もすぐだね!」
手に持つ俺好みの飲み物を手渡してくれる彼女はホントに嬉々として告げた。
俺はそんな彼女が愛おしく、思わず口が滑る。
「ホント、お前は可愛い奴だなぁ……?」
「何よ、馬鹿にしてるの?」
「いいや」
ふて腐れる彼女に苦笑しながら否定すると、今度は照れくさそうに笑っていた。
「もう……。でも、早く退院出来るといいね!」
「そうだなぁ。でも、お前が見舞いに来てくれるんなら俺は悪くねーけどな!今のままでも」
「はぁっ!?もう、ふざけないでよ!!」
二人で笑い合う病室の中、俺は今までで一番の幸せを噛み締めていた。
「また、逢おうね?」
そう。
お前に殺されそうになったあの時からずっと。
怯える君に笑いかけてコンクリートに叩きつけられたあの日から……。
僕は、、俺には、、、。
前世の記憶がある。
「これからもずっと一緒にいてくれよ?」
「あったり前でしょ!」
次はもう、離さないから。
終
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