少年と魔女【少年と魔女の出会いと別れ】
その森には怖い魔女が暮らしていた。
子供を攫い、食べてしまう不気味な黒い魔女が……。
▼
少年はそんな話を聞きながらも、その森へと近づいた。
身体はボロボロで足取りはふらふら。
やっとこさ森の中へ入って行っても、気付いた時には地面に倒れて野垂れ死ぬ寸前だった。
そんな少年を噂の魔女が見つけて拾う。
彼女は長い髪に黒いドレスを身に纏った如何にも不気味な黒い魔女で、少年を胸に抱えて自身の住まう家に運んだ。
森に佇む小さな家。
庭には薬草が生い茂り、家畜が歩き回る。
魔女は少年を自身の寝床で寝かせ、幼い頭を撫でた。
後日、少年が漸く目を覚ますと、魔女は少年にご飯を用意してくれた。
温かいスープに柔らかいパン。
魔女の料理とは到底おもえ無い、ごく普通の食事に少年はなりふり構わずかぶりつく。
それはホントに普通の味だった。
泣きたくなる様な優しい家庭の。
魔女はそれから毎日の様に少年を看病した。
身体を清め、食事を用意し、まるで母親の様に接してくれる。
少年は噂の魔女に初めは怖がっていたものの、魔女は思った異常に優しくて、何故あの様な噂が流れたのか不思議なくらいだった。
少年の身体が徐々に回復してくると、魔女は少年に森を出る道を教えてくれた。
しかし、少年は森を出るどころか魔女と一緒に住みたいと申し出た。
少年には帰る家が無かった。
ある日、暮らしていた家を追い出されてからずっと独りで街を彷徨っていたという。
その話を聞いた魔女は、二つ返事で少年を受け入れた。
それから二人は魔女の家で暮らす様になった。
▼
少年と魔女が共に暮らす様になってから、少年は魔法を教えて貰うのが日課になった。
魔女は色んな魔法を教えてくれた。
精霊を呼び出す魔法。
怪我を治す魔法。
災いから守る魔法。
魔女は丁寧に魔法を教え込んだ。
少年もまた、しっかり魔法を教わっていた。
いつしか少年は、魔女に負けないくらい魔法を会得していった。
そして少年が青年になる頃には、魔女の弟子として勤める事が多くなった。
薬草や魔術はなんのその。
街へ行っては薬を売り、日銭を稼いで森の中へと帰っていく。
貧しいながらも青年は、魔女との暮らしを満喫していた。
そんなある日の事だった。
青年を探していたと、二人の家に王族の兵士がやって来たのは……。
▼
魔女と青年は突然やって来た兵士達により、城へと連れて行かれた。
魔女は青年を誘拐した罪で牢屋へと追いやられ、青年は王座へと担ぎ上げられた。
青年は王の御子息だった。
跡継ぎ問題に巻き込まれ、勝手に追い出されたのだ。
しかし王が亡き後、王直々の家臣が必死に青年を探して連れ戻させた。
青年は、牢屋に閉じ込められた魔女を解放して欲しいと頼んだが、願いは聞き入れて貰えなかった。
それどころか、青年を誘拐したと悪い噂が広がり、魔女は処刑される事が決まっていた。
青年はなんとか魔女を助けようと、あらゆる魔法で応戦した。
精霊を呼び出し、城の者達を出し抜いて、何とか魔女の牢屋へと辿り着く。
しかし、魔女は牢屋から出ようとしなかった。
魔女は青年の身を案じていたからだ。
そして魔女は、自ら望んで処刑台に上がった。
藁で周りを覆われた十字架に張り付けられた魔女は、最期に青年へ魔法を掛けた。
「貴方は全てを忘れて生きなさい」
青年は、火が放たれ燃える魔女に一筋の涙を流したが、すぐに何故自分が泣いているのか分からなくなった。
魔女はそんな青年を目に焼きつけながら微笑むと、燃える炎に飲まれていった。
▼
かつてその森には、怖い魔女が暮らしていた。
子供を攫い、食べてしまう不気味な黒い魔女が……。
その噂が広まったのは、もう何十年も前の話。
子供達は街で噂を語り継ぐ。
「でも、その魔女はやっつけられたんでしょ?」
「王様が倒したんだって!」
「じゃあ、もう大丈夫だね」
そう言って子供達は森の中へと駆けていく。
そんな街に佇む城で、王様は今も静かに森を見つめていた。
傍らに、いつか食べた温かいスープと柔らかいパンを置きながら。
終
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます