人柱【贄の娘と神の話】

「ああ、神様」


捨てられた孤児の私を。


人柱───贄という名の“くちべらし”にされた私を。


「どうか……どうか……」


嬲り、痛めつけられ、そして───。


「お救い下さいぃッ……!!」


土に埋もれる我が身を哀れむように、曇天は雨を流した。


「神……様……」


息も絶え絶えに、暗く閉ざされかけた視界に刹那、瞬きと劈くような轟音と発光。


瞼を開けば周りの声は消え伏せ、藻掻くように土から這い出れば。


「………ッ」


焼ける家屋と村人達は跡形もなく姿を消した。


辺りを見渡すと、其処に佇む独りの人影。


「あ……」


人影は私に告げた。


「おい人柱、オマエの願いはこれで良いか?」


悍ましい程に清んだ声色に思わず血の気が引いた。


「か、神…様……?」


お尋ねすると人影は此方に振り返り、人に在らざる顔で笑みを浮かべる。


「オマエが神だと言うのなら、私を崇め奉れ…!」


神と呼ばれた異形の者と不遇な娘は、こうして出会い、新たな運命を伴にした。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る