ハルさんがリストアップした中からなんとなく良さそうな人を選ぶ。そして彼女は私の代わりに、サイトの専用フォームから申込みをしてくれた。


 数十分後、スマートフォンに着信があって驚く。未登録の番号だが、きっとレンタル彼氏の人だろう。


「あ、もしもし〜? 俺ですよ〜」


 電話口からヘラヘラした明るい声が聞こえてくる。オレオレ詐欺かな?


「あの、大和やまと君であってます?」

「正解! あのね〜普通は電話しないんだけど、デート日が明日だし、泊まりだし、特殊設定あって面倒だから電話した!」

「あ、ありがとうございます」


 特殊設定ね……。自由記述欄に、祖母の前で彼氏のフリをしてほしいと記載した。多分そのことを言っているのだろう。


「なんかおばあちゃんに彼氏を紹介したいんだっけ? 早く安心させろー!って言われてる感じ?」

「まあそんな感じですけど」


 そんな感じで済ませて良いのか? チャラついた大和君と話していると、ちゃんと説明する気が失せてしまう。


「ふーん、了解了解! そういう特殊設定も俺はNGじゃないから! でもさ〜お姉さん、お金大丈夫そ?」

「え?」

「指名料に基本料金、飛行機ホテルとかの旅費に加えて出張代も別でかかるよ? それと特殊設定あるからオプション代もね。どれくらいかかるかちゃんと理解してる〜?」


 料金ちゃんと確認してなかった……。10万じゃ足りないだろうな。20万?それとも30万……?


 祖母を喜ばせるためとはいえ、そこまでお金をかける必要があるのだろうか。


「こんなこと言うのもなんだけど、お姉さんってバカそうだよね〜」


 …………え?

 え!!??


「それにお姉さんと話してて、根暗で幸薄そうだなって思った。そんなんだから彼氏できないんだよ〜? 今まで一度も彼氏できたことないでしょ!」


 この子なんなん! なんなん! この子この子! 初めて話した人にバカって言われたんだけど! 根暗で幸薄そうって言われてんだけど! 確かに頭は良くない。良くないけど!! 彼氏もできたことないけど!!


「お姉さんって給料安いブラック企業に勤めてそうだよね! 合ってる?」


 いやこれでも福利厚生充実した超優良の大企業勤めだわ! 私が入社できたのは偶然だけど……。


「どうせお金のこと何も考えずに、勢いで依頼したんしょ? お金大事にした方がいいよ〜」


 勢いで依頼したことは合ってる。合ってるけど!


「今ならキャンセルできるけどどうする?」


 ここで依頼を断れば、バカで根暗で幸薄いことを認めちゃうようで嫌だ。


 絶対嫌だ!!


「ご心配どうもどうもありがとう!! でもこれはちゃんと熟考した上での依頼ですから安心してください!! 料金も余裕でお支払いできますから!! それに、今はたまたま奇跡的に彼氏がいないだけです!!」


 私は力強く答えた。


 今の会社に新卒で入社し早4年。私には趣味もなく、給料のほとんどは貯金している。だから今回の出費は全く痛くない!全く痛くも痒くもない!……と自分に言い聞かせる。


 と、とにかくここで引くわけにはいかない。私にもプライドがある。


「へー、お姉さんってお金持ちなんだね」


 淡々とした声で大和君は言った。もうその話題は飽きた!と言われてる気がする。なんなんこの子。まじで。


 あ!! それはそうとして、1点彼に聞きたいことがある。


「大和君、土日は大学お休みですか?」


 彼のプロフィールには、大学生22歳と書かれていた。


「うん、でも平日でも全然良かったけどね。最近大学サボり気味なんだ〜。俺、去年進級出来なくてさ! 大学生長く続けられて万々歳だよね!」

「学費が掛かってるでしょ?」

「両親が2人とも高級取りだからいーの! 社会に還元的な!」


 まじかこの子。好きか嫌いで答えるなら大嫌いなタイプだ。


 やっぱり依頼を断ろうかな。いやここで断ると私のプライドが!


 まあ、大和君みたいな子でもいないよりはましか!


「では明日空港で待ち合わせでも構いませんか?」

「オッケー! あ、おばあちゃんの所行く時以外は自由行動で良いの〜?」


 その点については何も考えてなかったな。まあ大和君と一緒にいるのは苦痛を感じそうだし。


「良いですよ」

「うえーい! タダで九州旅行とか最高なんだけど!」


 いないよりはましな……はずだ。たぶん。きっと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る