弍
「灯さん? 私から1つ提案なのですが、折角お見舞いに行くなら、何かおばあ様の喜ぶことをやってみては?」
「確かにその通りだね。喜ぶことか〜、何だろう」
全然思い付かない。そういえば先日、祖母は今をときめくスーパー俳優のサインが欲しいと言っていた。確か彼は東京在住だったはず。東京中を探し回れば見つかるだろうか。
そんなことを考えていると、ハルさんがパッと笑顔になった。何か妙案を思いついたのかもしれない。
「あ! 灯さん! 確かおばあ様は灯さんが恋人を連れてくるのを、心待ちにしているのでは?」
「え!?」
驚いた。藪から棒に何を言い出すのかと思えば。
いや……でも、確かに以前そんなことを祖母に言われた気がする。
「でも私恋人いないよ?」
いないものは連れていけない。無い袖は振れない。
「この際、本当の恋人である必要はありません!! おばあ様を喜ばせるためですから!! 誰か恋人役を頼める人はいませんか?」
「え〜」
なんて暴論!
思い当たる人……思い当たる人……いないかな。
最近は特に気になる相手もいない。
「誰も思いつかないな〜」
「え、本当ですか?」
ハルさんは悲しそうな、絶望したような顔をした。うんうん、そうだよね。頼める相手が1人もいないなんて、私も悲しい。
「どうしようかな〜。諦めるしかないのかな〜」
せっかくハルさんが提案してくれたのだ。どうにかならないだろうか。
気分転換にテレビをつけると、最近流行りのサービスについて特集をしていた。
──最近はレンタル彼氏・彼女が流行っていますね! 私も依頼したことありますよ! 一緒に買い物やご飯に行ったりするんです。1人で入りにくいお店とか、超助かります! お金をお支払いしてるので、時間を割いてもらっても罪悪感はありません!──
タレントが身振り手振りを交えて、その素晴らしさを語っている。
ふーん、なるほどなるほど。
「…………これだ!!!」
「と、灯さん?」
「ハルさん!! 私レンタルの人雇う!!」
いやー、たまたまこんな情報知っちゃうなんて、私はとてもラッキーだ! ウキウキワクワクしていると、テレビではサービスを利用する際の注意点!という話に変わった。悪質業者や詐欺サイトによるトラブルもあるらしい。え、怖い。テンションが急降下して、私は元気のない植物のようにしなっ……となった。
「ま、待ってください! 灯さん、本当に本当に頼める人はいないんですか? 会社の人は?」
ハルさんは焦っているようだ。どうしてだろう? 私が悪質業者や詐欺に引っかかる可能性を、心配しているのかな?
会社の人か〜。あ……!! 思い当たる人が1人だけいる。あの人なら引き受けてくれるかもしれない。
その人の名前を口に出そうとして、やっぱりやめた。
「会社の人に迷惑はかけられないよ」
私は苦笑した。
「そうですか……」
ハルさんは呟いた後、真顔で黙った。
あれ? 随分長く黙っているがどうしたのだろう? まさか私が変なことばかり言ったせいで、壊れたんじゃないだろうか。
私は宙を見てあれこれ考えを巡らせる。
「灯さん」
どれくらいの時間が経ったか、ハルさんは突然私の名前を呼んだ。
スマートフォンに目を向けると、彼女は笑っていた。いつも通りの優しい微笑み。
いつも通り? 本当に?
「ハルさん……?」
「私の方で安全そうな方を見繕いますね。少々お待ちください!」
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