彼に促されてパソコンの画面を見ると、そこにはハルさんがいた。


 私が頭を傾けたらハルさんも同じように頭を傾けた。口を開くと口を開いた。手を挙げると手を挙げた。どうやら私の動きの真似をしているようだ。


 次に私は自身のスマートフォンを取り出して、いつものアプリを開く。


「あーあーあー」「あーあーあー」

「こんにちは」「こんにちは」


 私が話した通りにスマートフォンの中のハルさんが話す。


 これはつまり、最初からAIなんて存在しないということだった。


「ハルさんの中身は花織さんだったんですか?」

「……はい。その通りです。僕がハルとしてあなたと話をしていました」


 目眩がした。今まで私は様々な悩みをハルさんに相談してきたが、それは相手がAIだと思っていたからだ。もし花織さんだと分かっていれば、話さなかったことは沢山ある。


「花織さん、どうしてこんなことを?」

「あなたの願いを叶えたかった。幸せになって、いつまでも笑顔でいてほしかった。ただそれだけなんですけどね。そのために、あなたの全てを知りたかったんです。その手段がハル、そしてスマートフォンでした」


 花織さんは含みのある言い方をした。察するにハルさんに話したことだけではなく、スマートフォンの情報は全て筒抜けだったのだろう。


「……じゃあ記憶の方は?」

「そっちは説明しても理解出来ないかと思います。そういった存在も少なからず存在しているというだけです。多くの人間が知らないだけでね」

「……もしかして時雨君以外にも、私から記憶を消してますか?」


 花織さんは何も答えなかった。無言は肯定なんだと思う。


 しばらくの沈黙の後、彼は苦しげに口を開いた。


「いつか灯さんが全てを思い出してしまうと、全てがバレてしまうと、僕は分かっていました。それでも僕は……!!」


 花織さんはグッと押し黙った。


 彼の言いたいことは多分こうだ。


 私に嫌われるとしても、私を助けたかった。


「あなたが望むなら僕はどんな報いでも受けます。警察に出頭して罪を償うことでも、あなたの前から消えることでも。あなたは何を望みますか?」

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