九
彼に促されてパソコンの画面を見ると、そこにはハルさんがいた。
私が頭を傾けたらハルさんも同じように頭を傾けた。口を開くと口を開いた。手を挙げると手を挙げた。どうやら私の動きの真似をしているようだ。
次に私は自身のスマートフォンを取り出して、いつものアプリを開く。
「あーあーあー」「あーあーあー」
「こんにちは」「こんにちは」
私が話した通りにスマートフォンの中のハルさんが話す。
これはつまり、最初からAIなんて存在しないということだった。
「ハルさんの中身は花織さんだったんですか?」
「……はい。その通りです。僕がハルとしてあなたと話をしていました」
目眩がした。今まで私は様々な悩みをハルさんに相談してきたが、それは相手がAIだと思っていたからだ。もし花織さんだと分かっていれば、話さなかったことは沢山ある。
「花織さん、どうしてこんなことを?」
「あなたの願いを叶えたかった。幸せになって、いつまでも笑顔でいてほしかった。ただそれだけなんですけどね。そのために、あなたの全てを知りたかったんです。その手段がハル、そしてスマートフォンでした」
花織さんは含みのある言い方をした。察するにハルさんに話したことだけではなく、スマートフォンの情報は全て筒抜けだったのだろう。
「……じゃあ記憶の方は?」
「そっちは説明しても理解出来ないかと思います。そういった存在も少なからず存在しているというだけです。多くの人間が知らないだけでね」
「……もしかして時雨君以外にも、私から記憶を消してますか?」
花織さんは何も答えなかった。無言は肯定なんだと思う。
しばらくの沈黙の後、彼は苦しげに口を開いた。
「いつか灯さんが全てを思い出してしまうと、全てがバレてしまうと、僕は分かっていました。それでも僕は……!!」
花織さんはグッと押し黙った。
彼の言いたいことは多分こうだ。
私に嫌われるとしても、私を助けたかった。
「あなたが望むなら僕はどんな報いでも受けます。警察に出頭して罪を償うことでも、あなたの前から消えることでも。あなたは何を望みますか?」
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