「なるほど、おばあちゃんを喜ばせるために恋人役が必要なんですね」

「はい。おかしなお願いだとは分かっています。でも、これが最後の……おばあちゃん孝行になるかもしれなくて……」


 私はグッと唇を噛んだ。駄目だ、どうしても涙が溢れてくる。電話越しの花織さんは気付いているだろうか。


「良いですよ」

「え?」

「恋人役やります。でも僕なんかで良いんですか?」

「い……良いに決まってます!!」


 電話では伝わらないだろうが、私はうんうんと力強く首を縦に振った。


「そうですか? 灯さんにそう言ってもらえると嬉しいですね」


 花織さんの笑い声が聞こえた。きっといつも通りの優しい笑顔をしているのだろう。


 彼は女性社員からの人気が高い。いやこの表現は間違いだ。誰にでも優しく仕事もできる彼は、性別を問わず誰からも人気だ。人類に人気という表現が1番しっくりくる。そんな彼と偽物とはいえ一瞬でも恋人になれることがとても嬉しいのだ。


 私にとって彼は高嶺の花だから。


「あの……今回は引き受けて下さり、本当にありがとうございます!」

「いえいえ。僕が好きでやっているんですよ。それでは土曜日に空港でお会いしましょうね」

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