「灯さん?私から1つ提案なのですが、折角お見舞いに行くなら、何かおばあ様の喜ぶことをやってみては?」

「確かにその通りだね。喜ぶことか〜、何だろう」

全然思い付かない。そういえば前に東京駅限定のあれが食べたいと言っていたが、入院中でも差し入れして良いのだろうか?

そんなことを考えていると、ハルさんがパッと笑顔になった。妙案を思いついたのかもしれない。

「あ!灯さん!確かおばあ様は灯さんが恋人を連れてくるのを、心待ちにしているのでは?」

「え!?」

驚いた。藪から棒に何を言い出すのかと思えば。いや…でも、確かに以前そんなことを祖母に言われた気がする。しかしその時の会話を思い出そうとすると、何故か頭が痛くなる。痛い痛い…激痛だ。

「…灯さん灯さん、大丈夫ですか?」

「あ…うん。でも私恋人いないよ?」

そうだ、いないものは連れていけない。無い袖は振れない。

「この際、本当の恋人である必要はありません!!おばあ様を喜ばせるためですから!!誰か恋人役を頼める人はいませんか?」

「え〜…」

なんと暴論な!

いやしかし、思い当たる人が1人だけいる。同じ会社の花織浅葱はなおりあさぎさんだ。彼は私より5歳年上で、頭脳明晰、容姿端麗、温厚篤実といった言葉を体現した人だ。ダメダメな私のことも何かと気にかけてくれて、最近は月2回程のペースでご飯に行っている。この前恋人はいないと言っていたし、私は優しい彼のことが…。

「会社の花織さんなら、恋人役してくれるかもしれないけど…」

「では花織氏へ電話をかけます」

「え?!もう2時だからまっ…」

画面が電話に切り替わる。いやいや、流石にこんな深夜に電話をする訳にはいかない。呼び出し終了のボタンを押そうとした瞬間、画面が通話中に切り替わった。

………もうどうにでもなれ!!

「もしもし?」

「あ…花織さん、夜分遅くにすみません…」

「起きていたので大丈夫ですよ。何かありました?」

彼はいつも通りの穏やかな声で返答してくれた。まだ起きていたらしい。

「あ…あ…あの、私の恋人役をしてくれませんか!!」

「え?」

「あの…えっと…」

は…恥ずかしい!!顔が熱い。いや全身が熱い!!やっぱり撤回しよう。そうしよう!!

「何か理由があるんですね?話してもらえませんか?」

「ふえ…あ…はい!ありがとうございます!実はですね…」

心臓がバクバクする。と…とりあえず、話だけでも聞いてもらおうかな。

私は深呼吸をして、ゆっくりと話を始めた。

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