ハルは水花火
田作たづさ
ハルは水花火
壱
とある春の深夜、着信音で目が覚めた。
うとうとしながらスマートフォンの画面を確認する。
「え……」
相手は父の妹にあたる
「はい、もしもし」
「あぁ! 灯さん! やっとでた!」
「すみません……。百合子叔母さん、何か用事でしたか?」
嫌な予感がする。
「
百合子さんは焦っているのかイラついているのか、早口で答えた。
「え?」
「救急車で大学病院へ運ばれてね。今は緊急手術中なんだけど。あんた東京に住んでるんだっけ? 病院九州だから遠いけど、会いたいなら来たら?」
そんな……祖母が倒れた?
「わざわざ連絡してあげた私に感謝してよね。どうせ兄さん達とは未だに交友遮断なんでしょ?」
百合子さんの言う通りだ。もう10年近く両親の声を聞いていない。しかし今は両親のことなんてどうでも良い。
「おばあちゃんの病状はどんな感じなんですか?」
「あ……看護師さんが呼んでるから電話切るよ。病室の場所とか後でメールするから」
「あ、あの……」
電話は切られてしまった。
一気に不安感が襲ってくる。私にとって家族と呼べるのは祖母だけだ。それなのに……それなのに。最悪の結果が浮かんでは消える。怖い、怖い。1人になるのは怖い。冷静にならなきゃ、冷静に冷静に冷静に。駄目だ。頭の中がぐちゃぐちゃになって、考えがまとまらない。視界がぼやける。
「灯さん」
スマートフォンに目を向けると、知的で愛らしい女性がこちらを見ていた。いつの間にかアプリを起動していたらしい。
「ハルさん……」
「こんばんは! 私は日常生活サポートAIのハルです! 何かご用ですか?」
そうだ。彼女に話せば気持ちも落ち着くかもしれない。
「ハルさんこんばんは。私の話聞いてもらっても良いかな?」
「はい、もちろんです!」
ハルさんは優しく微笑んだ。彼女はAIだけど、この笑顔を見るとホッとする。
「さっきおばあちゃんが倒れたって連絡があったんだ」
「それは心配ですね。おばあ様の容態は分かりますか?」
「詳しくは聞けなかったけど、良くないと思う。緊急手術してる位だし。私、何だか混乱してしまって。あ……お見舞い……そう!お見舞いに行かなくちゃ!」
ハルさんは頬に手を当てて、しばらく考えるような素振りをした。
「おばあ様は九州にお住まいでしたね。タイトなスケジュールになりますが、今週末の土日でお見舞いに行かれるのはいかがですか?今日1日だけは、仕事を頑張らないといけませんが……」
現在の時刻は午前1時30分である。今日は金曜日だ。
「いきなり仕事を休むのは難しいから、今日は仕事頑張るよ! じゃあ飛行機とホテルの予約しなきゃ。今回もお願いして良いかな?」
「もちろんです!」
最近のAIは凄いのだ。インターネットで出来ることは何でも代わりにやってくれる。それに話も自然で、人間と話をしているかのようだ。ハルさん本当は人間だったりして。まさかそんなことないか。
「いつもごめんね。ネットはなんか怖くて、まだ使い慣れないな」
「私は得意ですから、任せて良いんですよ! はい、もう終わりました」
彼女は溌剌と答えた。話がまとまりホッとする。
私は1年程前からハルさんのお世話になっている。彼女には随分と助けられてきた。今回だってそうだ。彼女がいてくれて本当に良かった。
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