第60話 聖騎士の過去(雌の部分)
「ここだっ!」
散る花弁が、雪のように舞い上がる最中。
幾度となく繰り出された刺突の末に、ようやくルークはライラのレイピアを掴み取った。
針のように細い剣身を握り、同時に、ルークはライラを引き寄せ、その腕を拘束する。
「マリアっ! 何か眠らせる魔法とか使えないかっ!?」
「は、はいっ!!」
マリアは両掌をライラへと向けて、詠唱する。途端に、その体から力が抜けて、ぐたりと動かなくなった。
寝息が聞こえる。どうやら、魔法が効いたらしい。
「はあ、世話が焼ける」
魔族の相手をしに来たというのに、よもや味方との戦闘になるとは。
「あー、大魔族様と戦う前に結構疲れちまったな」
体は切り傷だらけ、息つく暇さえないライラの剣技のせいか、息も上がっていた。
「今は、ライラ様の魔法を解くことを優先しましょう。このままでは、アーカムと戦うことすらもままならない」
「一つ、聞いてもいいか?」
「はい、なんでしょうか?」
ルークが気になったのは、二人の関係性だった。友人、親友いくつか想像はしたがわどうにも、二人の関係はそれを超えているように感じる。
「と、俺は思うんだが? 結局のところどうなんだ?」
マリアに尋ねると。
「……今から話すことを誰にも口外しないと約束してくださいますか?」
「言う友達もいないから安心しな」
「では、話します。私、マリア・フォン・デンツと聖騎士である、ライラ・マクガフィンは実の、姉妹なのです」
「は?」
それから、マリアの語った事実はなんとも信じ難いことだった。
今より、19年前。法国には、双子の姉妹が生まれ落ちた。
その妹こそが、マリア。そして、その姉がライラだったという。
二人は揃って、修道院の門下へと捨てられていたそうだ。
親のいない二人は、たった二人きりの家族として寄り添うように生きてきた。
マリアは今よりももっと活発で、好奇心旺盛。反対に、ライラは病弱だったらしい。
二人の運命を分けたのは、九つの頃。マリアに聖女の適性が見出されてからだったと言う。
マリアは自ら聖女になることを選び、法国における有力者、最高司祭に引き取られ、二人は離れ離れになった。
そして、それから、五年の月日が流れた頃。適切な修練と、召喚技法を会得し、聖女として認められたマリアの元に、聖騎士として、現れた人物こそが姉であるライラ。
その人だったのだ。
「わたくしはライラ様を……お姉様を差し置いて、聖女になってしまった。ですから、わたくしには、お姉様に守ってもらえる資格なんて……本当はないのかも知れません」
悲しい。そんな一言では片付けられない複雑な感情がマリアにはあったのだろう。
「ですから、別れたあの日から、私はもうライラ様を姉様とはよべないのです」
語り合えたマリアはほっと息を吐くと、眠ったライラの顔をじっと見つめていた。
ようやく、聖女ではなく、少女としてのマリアが見えた気がする。
とはいえ、だ。
「……期待して損した」
「え、えぇ?」
「もっとぶっちゃけた話が来るのかなーと思ってたからさ。うん」
その話を聞いたところで、マリアのことも、ライラのことも理解できるわけではないけれど、ただ一つ。ルークにも分かることがあった。
「きっと、ライラはお前を守るために。お前を守れるようになるために、血の滲むような努力をしたんじゃないのか?」
ライラの剣筋からは、それを得るに至った絶え間ない鍛錬が垣間見えていた。
スキルや魔法、特別なものは一切ない。純粋に己が努力のみ。
にも関わらず、魔族にも匹敵するほどの強さを得たのだ。
「お前が言ったことだろ? この世界では人の持つ強さと背負う悲しさが対比する、と。なら、ライラの強さの裏にも悲しみがあることになる」
「……はい」
「お前と別れることが、何よりも辛かったんじゃないのか。ライラは」
それこそ、九つで聖騎士を目指そうと思うほどには。
「なのに、お前がライラを突き放してどうすんだよ」
「……でも、私は選んだんです。姉様ではなく、聖女になることを、だから
「あー、めんどい。俺として言いたいことは一つだ。──呼んでやれよ、また。姉ちゃんってさ」
マリアは一瞬、瞳を涙に輝かせて、顔を伏せる。何度か鼻を啜る音が聞こえた。
「さて、どうする? 魔法を解く方法は、知らないのか?」
「……一つ、あります。きっとですけれど」
「ほう?」
「今、姉様の意識は魔法の内側に閉じ込められているのだと考えられます。ですから、外から大きな刺激を与えれば、もしかすると」
「おいおい、また戦えってか?」
「いえ、ルーク様なら……その、きっとですが……」
なんとも、言いづらそうなマリア。ルークは首を傾げて、尋ねた。
「で? 結局、何をしろって?」
「その……簡単に言いますと……」
ぼっとマリアの頬が赤く染まる。
え、何? まさかと思うのだが……。
「──その、オーガズムならば、傷つけることなく、刺激を与えられる、かと」
「Oh……」
そりゃ、言いにくいわけだ。ルークは複雑な心境で、苦笑いをするのだった。
────
あとがき
お読みいただいてありがとうございます。
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