第54話 一方その頃、エロトラップダンジョンでは
一方その頃、帝国領にある遺跡。
大魔法使い シズクはいた。
「あいつが言ってたのは、ここで間違いなさそうね」
森の中にポツンと佇む崩れた城の跡。緑の蔦が絡みつき、深呼吸をすると胸の空くような自然の香りが鼻腔に流れ込む。
「後はダンジョンの入り口ね……」
目を閉じ、全神経を捜索に当てる。すると。
「あっちか」
すぐに魔力の流れから理解した。
シズクはぐるりと遺跡の裏側に回る。
そこかしこに落ちている砕けた石のレンガを避けながら、辿り着いた場所。
扉がそこにはあった。
「……いきなり、お化けが出たりはしないわよね?」
強気な性格からは想像も出来ないような怯えた声を漏らす。
その後で恥ずかしくなったのか、こほんと咳払いを打ってから扉を開いた。
暗い廊下。幅は3メートル程だろうか。なんともダンジョンらしいと言える雰囲気と石畳もだ。
シズクはストレージから杖を取り出す。
「……良かったぁ。昔からジャンプスケアだけは苦手なのよね。──
杖の先端から小さな光の球体が数個浮かび上がると、静かな周囲で浮遊しながら辺りを照らし始めた。
「さっさと攻略しちゃ……?」
通路の先から何やら気配がした。人ではない、もっと別の何か……。
警戒しながらも、シズクは足を踏み出す。
「──っ!!」
その足先が踏んだ石畳がわずかに沈む。同時に耳には、かちりとスイッチを押してしまったような音がした。
「ひっ!!」
瞬間、足元の通路が左右に逃げるように動き始め、大きな穴が口を開く。
「──
咄嗟に魔法を行使し、宙を蹴り、どうにか先の廊下に着地した。
「あ、あぶな……ちなみに、下はどうなってたわけ?」
冷や汗を滲ませながら、恐る恐る空いた穴を覗き込む。
そこには。
「さ、三角木馬っ!?」
鋭角を上へと向けた二等辺三角形の馬。
表面がぬるぬるとテカっている。
「き、気持ち悪っ」
シズクはこれまで見たこともないような卑猥な罠に、戦々恐々な様子で廊下の先へと進む。
その後も、何度もトラップが発動した。しかし、ギリギリのところで回避し続けた。
そうして、たどり着いた最奥。
重厚な扉が先を塞ぐ。
「や、やっとゴールってわけね」
服は罠に共通して塗りたくられていた謎の粘液塗れだ。
「さあ、出てきなさい。ダンジョンの主っ!」
ぎぎぎ、と扉はゆっくりと開いた。
「──やあ、シズク……だったかな?」
そこは玉座のみが置かれた広い空間だった。
その上に腰を下ろした赤い髪の少女は、にやりと笑ってシズクを見つめる。
「あんたが、このダンジョンの主ってわけね」
シズクは杖先を少女へと向け、即座に魔法が放てるように構える。
「おやおや、久々の客人だから相応の歓迎をしたつもりだったんだがね? 気に入らなかったのかな?」
「……あんなのに、やられるくらいならまだあいつのほうがマシよ」
よく分からない触手や、怪物。落とし穴。
思い出すだけでも悍ましい。
「はあ、そうか。なら、また作り替えるよ」
「そんなことはどうでもいいの。貴女にはとある用事できてるんだから」
「それは、僕が魔族だから殺しに来たのかな? それともルークの用いた
少女の言葉は嘲るようであったが、同時にシズク自身を推し量っているのだろう。
「後者。私は貴女の魔法を知りたいだけ」
「ほう、見逃してくれるとはありがたい。僕も人と戦うのは些か気が引けるんだよ」
「へぇ、魔族には珍しいわね」
シズクの知っている魔族という存在は、戦闘という行為自体を好み、そのためならば、なりふり構わないというイメージだった。
「よく言われるよ。同族にもね。……何が楽しいのだか、
「……弱い? 私が?」
「おっと、誤解しないで欲しいんだ。君が弱い、というよりは君たちが、だよ?」
「っ!」
それは初めてのことだった。
弱い、などとはっきり言われたことは。
「ふーん、なら試してみる? 魔王すらも倒した勇者御一行、その魔法使いの力を」
「おお、それは面白いね。実は、この数十年。魔術比べをする機会がなくてね? ルーク君は魔法が使えないし、その友人は紹介してくれないし、退屈だったんだよ」
少女は立ち上がる。
赤い髪はその全身が放出する魔力によって逆立ち、揺れ動く。
「ふっ、やっぱり強いわよね、貴女」
確信に至る。この少女は、シズクがこれまでで出会った魔族、魔法使いのその全てを圧倒的に凌駕しうる存在であると。
「ふふ、それはありがたい褒め言葉だね。うん。でもね? 一つ勘違いしているようだ、君は」
「何、が?」
「君さっき、魔王を殺したパーティの一員だと誇っていたようだけれど……」
少女は嗜虐に口角を歪めて、言った。
「──僕は、魔王アデルグラスよりも強いよ?」
────
あとがき
お読みいただいてありがとうございます。
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